一部の兵士雇用を考えました
「ディームがいなくなったからかもしれませんけど、スラムに住んでいる人を減らせるのなら、と思います。まぁ、放っておいたらまた人が増えるのかもしれませんけど……」
「一時的にでも人数が減らせられれば、治安も良い方へ向かうでしょうから悪い事ではありません。できれば、その間に恒常的な手段でなんとかしたいところではありますな」
「それができればいいんですけどね。でも、今街道整備の方に殺到している応募を緩和くらいはできるでしょう」
「そうですな。実現すれば、ラクトスのスラムは人が減り、不足しがちな兵士や護衛が増える可能性があります。ただ、さすがに旦那様とは相談しなければならないでしょう」
「それはそうですね。こちらで勝手に決めて、スラムの人を向こうに連れて行くわけにもいきません」
そもそも、スラムにいる人達が兵士になりたいとか、訓練を受ける事を承諾するかもまだわからないからな。
訓練をするのはエッケンハルトさんか、指示を受けた代理の人がする事になると思う……エッケンハルトさんが喜々として、泣き出したり逃げ出そうとする人を捕まえて、訓練をさせるイメージが浮かんだけど、それはともかくだ。
当然ながら、エッケンハルトさんからの許可がないといけない事だから、今すぐここで決めてしまうのはできない。
あくまで、現状は提案だけだな。
「大丈夫でしょうか……?」
「当然ながら、スラムに住み着いた経歴なども調べる必要がありますので……誰でも兵士にというわけにも参りません」
「そうですね。エッケンハルトさんとの相談次第ですし、あくまで提案で、少しでもスラムに住み着いている人を減らす案です。結局のところ、迅速な対応ができる事でもないので……有効な施策と言えるかはわかりません」
クレアが心配するように言葉を出すが、それはエッケンハルトさんが受け入れるか、スラムの人達を兵士にして大丈夫かの、どちらの心配だろうか?……両方か。
誰でも彼でも雇うわけではなく、ちゃんとした調査の上で……とセバスチャンさんが説明するのに、ほんの少しでも減らせたらと付け加える。
この案を思いついたのは、実は以前に時代劇で時折見る岡っ引きの話を聞いた事があるからだ。
江戸時代に警察に近い役割を担った非公認の協力者……あちらは、犯罪者を情報収集するために利用する感じだったようだと聞いた事がある。
まぁ、軽犯罪程度に限られるらしいけど。
とはいえさすがに、犯罪者を公爵家で雇うわけにもいかないので、調べてそういう人物は除いてと考えているし、スラムに住んでいる人達なら訓練から逃げ出す可能性が低いかも? と考えての提案だ。
本気で真っ当に働きたいのであれば、頑張って訓練を受けてくれるだろうから。
「それでも、何もしないよりは良いかと」
「……そうね。これまで働きかける事はしても、有効な案が浮かばなかったのも事実なのよね。それなら、少しでも有効な案を歓迎すべきね。ありがとうございます、タクミさん」
これが有効な案になるかどうか、提案した俺の方が不安なくらいだけど、セバスチャンさんが頷き、クレアも座ったままではあるけど頭を下げた。
思い付きでも、何も考えないよりマシなのは確かか。
「まぁ、薬草畑の事ならともかく、公爵家の施策に口を出してしまって、差し出がましい事を言っているのかもしれませんけど……ははは……」
「いえ、そんな事はございません。これまでスラムに対して有効な施策というのを、実行できなかったので……私やお父様が考えると、どうしても強制的な排除になってしまって。ですので、タクミさんに提案された案を足掛かりにできればと思います」
「クレアお嬢様の仰る通りですな。それに、タクミ様に考えてもらえれば、何か面白そう……いえ、有効な手立てやきっかけが、ほんの少しでも出て来るかもと期待して、話した事でもありますからな。……ニックからも、相談されたようなので私から話さなくてもいずれタクミ様の知る所になっていたようですが」
さすがに俺が公爵家のやり方に色々口出しするのは、やり過ぎだろうと今更ながらに考え、苦笑しながら謝る。
駅馬の時はランジ村と屋敷の移動時間とか、フェンリル達の事を考えて提案したけど、今回のスラムに関しては完全に公爵家の施策に直接拘わる事だからなぁ。
まぁ、レオやフェンリル達が馬車を曳いたのに乗って、その流れでというのもあったけど。
ともかく、二人共特に気にしていないというより、むしろもっと意見を言って欲しいという様子で笑っていた。
困っていたら、自分達の見栄とかよりも有効な提案を受け入れる、という事だろう。
自分達が絶対的に偉いだとか、見栄を張るだけではなくて、ちゃんと領民の事を考えている証なのかもしれない。
「くぅ……すぅ……」
「むにむに……」
「ワフゥ、ワゥ……」
「キュゥ……」
「キィ」
「ははは、皆気持ち良さそうに寝ているなぁ」
俺の提案から始まった長話を終えてふと近くを見ると、レオに寄りかかったままリーザやティルラちゃんが寝てしまっていた。
シェリーを抱いて気持ち良さそうに寝るリーザに、隣で肩を寄せ合って寝ているティルラちゃんは、ラーレが翼の先で優しく撫でていたりと、なんとも平和な光景だな。
最初の方は、レオとじゃれ合いながらも俺達の話を聞いていたようだけど……特にスラムに関してはリーザが元々いた場所だから、興味があったようだ。
それでも難しかったのか話が詰まらなかったのか、熟睡している様子で、裏庭の別の場所ではお腹いっぱいで仰向けになっているフェンリル達に、コッカーやトリースが懐いて一緒にいたり、使用人さん達がお腹を撫でてやっている。
スラムの話でちょっと重い空気になっていたと思ったけど、それは俺やクレアくらいのもので、裏庭は和やかな空気に包まれていたんだな。
「タクミさんは、スラムから人を減らす提案……私が考えていた案とは別方向を向いています。やはり、私が考えたあの案は使えないわね」
「私としましては、あれも治安を維持すると考えれば有効なものだと考えておりましたが……些か、実行するまでの問題が多いですからな。タクミ様の案も、問題がないわけではございませんが、難しい事ではありません。他の領民からの反発も少ないでしょう」
「そうよね……」
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