少しだけおやつ休憩をしました
「まだ夕食には早いでしょうが、走っての移動をして下さいましたからな。では、私とライラで買って来ましょう」
「すみません」
「いえいえ……おっと、フェリー達も必要なようですな」
「ふふふ、皆お腹が減ったのね。あら、シェリーもかしら?」
「キャゥー」
立ち止まり、セバスチャンさんの提案でおやつとして買って来てもらう事にする。
レオだけでなく、俺達の後ろから並んでおとなしくついて来ているフェリー達も、目を輝かせて口を開け、尻尾をブンブン振っているのにセバスチャンさんが気付く。
微笑むクレアの足下では、前足を上げてクレアの服を破らない程度に主張するシェリー。
シェリーはあんまり動いていないはずだけど……まぁ、他のフェンリルが食べているのにお預けさせるのはかわいそうか。
セバスチャンさんとライラさんが、屋台でソーセージを買う間に少し移動し、人の邪魔にならない場所でおやつタイム。
ライラさんがお茶の用意ができないと、少しオロオロしていたけど仕方がない……レオだけなら、オープンカフェみたいなお店に行けるだろうけど、他にフェンリルが三体いるからなぁ。
さすがに、お茶を出してくれるようなお店に行くのは憚られる。
「ガウ! ガウガウ!」
「グルゥ……グルルゥ」
「こらこら、自分以外からソーセージを取ったらだめだぞ? それに、屋敷に戻ればきっと美味しい料理が用意されるから、今は我慢だ」
「グルゥ……」
ソーセージを美味しそうに食べるフェンリル達を見守っていたら、真っ先に食べ終わったフェリーに対し、まだ食べている最中のフェンがソーセージを取られまいと抵抗するように鳴く。
視線はソーセージをロックオンした状態で、フェンを威嚇して鳴くフェリーに近付き、誰かの食べている物を奪うのはいけないと注意しつつ、体を撫でてやる。
仕方なさそうに鳴いたフェリーは、なんとか諦めてくれたようだ。
「フェリー達には慣れましたが、威嚇して牙を出すフェンリルに近付けるのは、タクミ様くらいでしょうなぁ……」
「そうですか? でも、フェリーも暴れようとしているわけではないですからね。ちゃんと我慢しようと言えば、わかってくれますから」
牙を見せて威嚇していたフェリーには、セバスチャンさんは自分から近付く事はできそうにないようだ。
確かに、もしフェリーが暴れ始めたらと考えると、怖い部分もあるけど……向こうはこちらが言う事を理解してくれるから、よっぽどの事がなければ大丈夫だという確信があった。
最近ではシェリーもそうだし、レオを拾ってから育てた経験もあるからかもしれないけど。
本当に怒りに任せて、という感じでもなかったからな……ただ、ちょっとだけ食い意地が張ってしまっただけだ。
「美味しいねー、ママ」
「ワフー」
「キャウキャウ!」
セバスチャンさんと話す俺とは別に、楽しそうに話すリーザ達。
俺もそうだけど、おやつとしてレオ達以外に一本だけ串焼きを買って来てくれていた。
あまり多く食べて夕食が入らなくなっちゃいけないので、小さめの串焼き一本だけど。
「シェリーも美味しいのね? ふふ……あ、でもリーザちゃん。ティルラにはこの事は内緒よ?」
「え、どうしてクレアお姉ちゃん?」
「自分のいない所で、皆が美味しい物を食べていたって言われたら、かわいそうでしょ? ティルラには、屋敷に戻ったら美味しい物を食べてもらうようにするわね」
「うん。ティルラお姉ちゃんも美味しくて喜んでくれるなら、内緒にしておくー」
食べ終わったクレアは、シェリー達の様子を見て微笑みながら、ティルラちゃんの事を思い出し、口元に指を一本立てている。
まぁ、俺達だけで美味しい物を食べていたって教えるのはかわいそうか。
クレアが言うように、屋敷に戻ったらヘレーナさんに言って、ティルラちゃんには特に美味しい物を作ってもらうよう頼むようだし、それでいいとしておこう。
「それじゃレオ、屋敷まで頼むよ。村からラクトスまでより、近いけどな」
「ワフー!」
おやつ休憩の後、西門からラクトスを出て屋敷へ。
村からの移動と同じように、レオやフェンリル達に別れて乗り、出発だ。
馬車では一時間くらいかかる道のりも、レオ達にかかれば大体三十分くらいで到着するだろう。
夕食のための腹ごなしと考えれば、丁度いいかもな。
「それにしても、スラムか……ディームの時やリーザを見つけた時に行ったけど、難しい問題だなぁ」
俺が考える事じゃないんだろうけど、なんとなく気になり、後ろにいるリーザやクレアに聞こえないように小さく呟く。
リーザがいじめられていた場面を見ているし、孤児達も見ている。
孤児院で話をしたりもしていて、さらにスラムでディームを探す際にいくつかの建物の中や、住み着いている人達も見た。
一部のならず者はともかく、抜け出したくても抜け出せない人もいるだろうしなぁ……。
「それに、俺やクレアがランジ村に行ったら、屋敷に残るティルラちゃんが一番近くに住む事になる。まぁ、さすがに何かやれとはエッケンハルトさんも言わないだろうけど……」
ティルラちゃんがランジ村に遊びに来る時は、ラーレに乗って来るだろうからラクトスはあんまり関係ないだろう……。
とは言っても、屋敷とラクトスは近いので何か街で問題が起こると、俺達より先にティルラちゃんの方へ話が行くような気がする。
エッケンハルトさんやクレアが、まだ十歳のティルラちゃんに何とかしろとかは絶対言わないだろうけど、ティルラちゃん自身がなんとかしたがりそうな性格なんだよなぁ。
ランジ村に行く前までに、何か考えておかないとトラブルが起こりそうな予感も……。
「……スラムに住んでいる人達は、固定で住む家がない。だから管理されていない建物や路地で暮らしているんだし。そして、働き口がなくお金がないため、食べる物にも困る状況か……」
治安を悪化させる原因、というか悪い事を考える理由の一つはそこだろう。
だったら、逆に追い出すとか人を減らすとかは考えずに、安心して寝られる場所や食べ物があれば……? いやでも、そのための建物や食料を買うお金が問題か。
うーん……。
「ワフワフ!」
「あぁ、もう屋敷が見えて来たな……」
考え事に没頭していると、いつの間にか屋敷付近まで来ていたらしく、レオの鳴き声で思考から引き戻される。
遠目に大きな建物、公爵家の別荘である屋敷が見えていて、ちょっとだけ懐かしい気分だ。
あぁ、いつの間にかあの大きなお屋敷が、帰る家みたいになっていたんだなぁ――。
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