ラクトスでは街道整備の準備が進められているようでした
「……レンガが積み上がっているけど、そちらで整備するようにしたんだね」
「はい。石を敷き詰める方が、費用などは安いのですが……まず初めにという事もあって、惜しまずやる事にしました。お父様が、特に意気込んでいるようですから」
「ははは、エッケンハルトさんなら面白そうだと言って、笑いながら取り掛かりそうですね」
旋回して上空に留まっているラーレに合図を送り、降りて来るのを待つ間、セバスチャンさんの向かった東門を見る。
そちらでは、街道整備に使うためだろう、レンガが大量に積み重なっているのが見えた。
馬車道とか、馬が通る道を平らに保つ事で、既存の移動手段でも少しくらいは時間の短縮ができるか……という試みなんだけど、今は資材を集めている段階といったところか。
クレアが言うには石畳の方が費用が安いらしいが、レンガの方が平坦な道を作れると、そちらを選んだらしい。
レンガの方が脆いから、メンテナンスもしなきゃいけないだろうけど……最初から費用をケチるよりも、やってみて考えて行こうって事かな。
エッケンハルトさんが、面白そうに笑って多くの費用を出す姿が想像できる。
まぁ、さすがに何も考えず、莫大な費用を出したわけじゃないと思いたいが。
「レオ様に姉様ー! タクミさんにリーザちゃーん!」
「キィー」
「ワフワフ」
「ティルラお姉ちゃーん」
積み重なっているレンガを見ながら話していると、ラーレが地上に降り、背中からティルラちゃんに呼びかけられる。
後ろで固まった状態のヨハンナさんはともかく、空の旅はティルラちゃんにとって快適だったようだ。
最初は、落ちそうな恐怖で泣いていたのになぁ。
「ティルラ、このままラーレに乗って屋敷まで向かうのだけど……大丈夫?」
「はい、大丈夫です。ラーレも疲れていないようですから」
「キィ!」
ずっとラーレに乗ったままだから、少し心配な様子のクレアに対し、ティルラちゃんは元気が有り余っている様子。
ラーレも、翼をバサバサと動かして疲れていない事をアピール。
「それに、ここから屋敷まではラーレだったらすぐですから」
「そうね。私達が街を抜けるまでには、屋敷についているくらいかしら? でも、気を付けて行くのよ?」
「はい! レオ様、リーザちゃん、タクミさんも、先に屋敷で待っています!」
「ワフワフ」
「ティルラお姉ちゃん、また後で」
「うん、また後でね。――あ、ヨハンナさん……これを……」
「……これは、疲労回復の薬草……ですか……?」
「はい。セバスチャンさんがラーレに乗った時、少しは役に立ったようなので」
ラクトスの東門から屋敷まで、ラーレなら直線で移動できるし、大体三十分くらいで到着できるくらいか。
ヨハンナさんを除いて元気そうなので、大丈夫だろう。
元気よく皆に声をかけるティルラちゃんに答えながら、ラーレの横に回ってヨハンナさんにそっと薬草を渡す。
昼食の休憩時にも、ヨハンナさんは消耗していた様子だったので、セバスチャンさんの時にも渡した疲労回復の薬草を作っていた。
まぁ、俺が作っている間にラーレが空を飛び始めていたので、渡す機会が遅くなってしまったけど。
少しだけ目を潤ませたヨハンナさんが、感謝をしつつ薬草を受け取ってくれたので、邪魔にならないよう離れる。
早速口へと薬草を運ぶヨハンナさんだけど、俺が離れたのを見てラーレが翼を広げ、すぐに浮かび上がっていた……薬草、喉に詰まらせたりしなきゃいいけど。
「さて、それじゃラクトスに入ろうか。リーザはこっちだな、よっと……」
「ありがとう、パパ」
「ワフ」
「そうですね、行きましょう。あら、シェリーはこっちなのね?」
「キャゥ!」
屋敷へ向かって飛び去ったラーレ達を見送り、リーザをレオに乗せてクレア達と一緒にラクトスへ向かう。
フェリーや他のフェンリル達も、レオの後に続くようにゆっくり歩き始める。
シェリーは、リルルの背中から飛び降りてクレアの足下へ。
一緒に横を歩きたいみたいだ。
東門では、十人程度の衛兵さんが動き回っていたり見張っていたり、その他レンガなどの資材を運んで積み重ねたりと、それなりに人が行き交って賑やかだった。
その中で、フェンリル達を連れた俺達は目立って視線を感じるけど……まぁ、これは今更かな。
今いるのはラクトスの人達が多いらしく、レオ達を恐れるような感じじゃないから、問題ないだろう。
驚いてはいるけど。
「ふぅむ……成る程……」
「セバスチャンさん?」
「どうしたの、セバスチャン?」
「おぉ、タクミ様、クレアお嬢様」
セバスチャンさんは、積み重なるレンガの近くにいた一人の中年男性と話し込んでいて、何やら少し深刻な様子。
そちらに近付いてクレアと声をかけて、ようやく俺達に気付いたくらいだ。
目立つレオを連れているのに、近付く俺達に気付くのが遅れるのは、結構深刻な問題が起こったとかかな?
「何か、深刻に話し込んでいましたけど……問題でも?」
「問題と言えるかは微妙なのですが、少々考える事がありましてな」
「それはどんな事なの?」
「ふむ……ここで話し込んでしまっては、街を出入りする者達を邪魔してしまいます。街の中を移動しながら話しましょう」
「わかりました」
「では、こちらで決まった事があれば、お報せします」
「はい!」
何があったのか聞いてみると、想像したような深刻さはないようだけど、検討しなきゃいけない事ができたみたいだ。
セバスチャンさんに促され、今まで話していた男性に挨拶をして離れて、衛兵さん達とも挨拶をしながら街の中へ。
道行く人達の視線を浴びているのを意識しながら、東門から西門へと向かう道中、セバスチャンさんが話し始める。
「街道整備ですが、今のところ滞りなく進んでいるようです。まぁ、まだ資材を集めている段階ではありますが。集める資材も遅れはないそうですな」
「でもセバスチャン、さっきは話し込んでいたわよね? 滞りなく進んでいる、とは見えなかったわよ?」
「予定の方は問題ないのです。ですが……そうですな……この街道整備、ラクトス周辺での雇用推進の意味合いもあるのですが……」
「雇用推進……まぁ、数人でやる事ではないので、多くの人を雇う必要がありますからね」
公共事業のようなものだからなぁ。
公爵家が主導しているので、怪しい働き口では決してないし、大掛かりな工事になるので大人数を雇う事ができる。
現在働こうにも職がない人も、この機会に真っ当な働き口ができるので歓迎されるはずだ――。
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