街道の安全は場所によって差があるようでした
「貴族の目が行き届いていないのでしょうな。公爵領でも、ラクトスのように街にスラムがある所もあります」
「そうね……領民が平穏に暮らせるようにするのが、領主の義務。ですが、全てを見られるわけでもないので、どうしてもそこから逃れる者達もいます」
治安の問題かぁ……日本でもそういう人達を取り締まるのは難しかったし、情報伝達の遅い世界では特に難しい部分だろう。
しかもこちらには魔物がいるからなぁ……。
「私は一人の旅でした。もちろん、商隊などと一緒にという事もありましたが、一時的なもの。一人で旅をしている際、公爵領では安心した旅ができましたが、他領ではそうでない事が多かったのです。結局、旅のほとんどは公爵領でとなりました」
「他領の事までは、私達がどうにかする事はできないのですよね」
「公爵領は定期的に兵士を巡回させ、魔物や良からぬ輩がのさばらないようにしております。ですが、これは公爵家に余裕があるからできる事でもあります。税金、貴族としての暮らし、貴族軍の維持など、様々な要素はございますが、余裕のない貴族は野放しになっているのが実情でしょう」
「それでも、お父様からは昔よりは良くなっているはずという話を聞いています。さすがに、全てが改善しているわけでもありませんが……公爵領にも、魔物はいますから」
危ない所は避けて旅をする、というのはまぁ当然だろうな。
それで結局、ペータさんは公爵領を多めに見て回ったって事か。
俺にはレオがいてくれるから、多少の事はなんとかなるけど……危険があるとわかっている場所には近付きたいと思わないし、同じく旅をするのであれば公爵領だなぁ。
「それでも、公爵領の街道沿いにはほとんど魔物が出ません。遭遇するのが珍しいくらいです。その事に、私は今更ながら深く感謝しているのです」
「感謝ですか……公爵家としては、当然の務めを果たしていると考えているのですけど。実際には、私ではなくお父様が当主なので……」
「はい、それは存じております。とは言え私が公爵様に感謝を申し上げるなどとてもできません」
「お父様なら、無碍にはしないと思いますが……そうですね……」
クレアさんの言うように、ペータさんが個人でお礼をと考えても現当主のエッケンハルトさんに直接というのは確かに難しそうだ。
もちろんエッケンハルトさんは、無碍には扱わないだろうし、直接訪ねて来た時に余裕があれば会ってはくれると思う。
けど、そんな対応を領民全員にしていたら、体がいくつあっても足りないからなぁ。
ペータさんみたいに、感謝をしたいという人だけならまだしも、こうして欲しいあぁして欲しいなんかの、陳情だってあるだろう……そういうのは、大体代表者がまとめて窓口的なところへ伝えるくらいだろうか。
「ですので、私は今回クレア様が薬草畑という、新しい試みを始めると知り、お役に立てればと考えました。きっと、これまで公爵様方の恩恵を受け、無事な旅ができたのはこうして役立てる知識を得るためではないかと考えます」
「そう、ですか。――タクミさん?」
「えーっと、俺が答えていいのかわからないけど……ペータさん、デリアさんがそうでしたけど、その時に応募しなかったのは何故なんでしょう? あの時も公爵家が広く募集していたはずなので、それに応募する事もできたはずです」
ペータさんが何かの役に立てれば、公爵家の試みを手伝う事で感謝に変えたい……という考えなんだろうな。
クレアが頷き、俺を見て問いかける……あくまで、薬草畑の事は俺に決定権があるって事かな。
まぁ、もしペータさんを雇うとしたら薬草畑の方だし、外に向かって販売網を広げるクレアとは別なためでもあるんだろうけど。
ただ、少し気になったのは公爵家が募集して来た時に応募してこなかったという事。
もちろん、ペータさんがこの場で嘘をついているとは思えないし、公爵家に感謝をというのも本気なんだろう。
嘘だったり取り繕ったりしていたら、クレアやセバスチャンさんが見抜くと思う。
俺は……あんまり自信ないけど、村で過ごしながらペータさんと話していて、こういった嘘を言わない人だと感じていから。
「以前の募集では、その……薬草畑というのがどういうものか、よくわからなかったのです。いえ、今もわかりませんが……公爵家からなのは間違いないので、おかしな事ではないとは考えていましたが。ですが、私のような老いた者にとっては、積極的に行こうとはあまり……」
「ふむ、そういえば応募のあった者の中で、ペータさんくらいの年の方はおりませんでしたな」
「そういえばそうですね」
あれは、セバスチャンさん達が応募者の中から問題なさそうな人を選別していたから、その時点で年齢の高い人がいなくなったんだと俺は思っていた。
あと、若い人の方が仕事を求めている人が多いのかなぁ、とも。
「セバスチャンさん、今さらですし全部任せていましたけど、募集はどのように?」
完全に任せていたので、今さら聞く事ではないけど……もらった応募者のリストでは、比較的二十代から三十代くらいの人が多かった。
ペータさんくらいと言わなくとも、五十代とかでまだ働けそうな年齢の人はいなかったし、どうやって募集していたのか聞いてみる事にした。
別に年齢が上の人がいなければというわけではないが、作業内容的に高い年齢層が集まるような気がしていたのもある……日本でのイメージのせいだろうけど。
薬草を調合したりする作業は、特に重労働ではない代わりに外で働く感じではない。
農作業というか、畑で薬草を栽培する作業は……通常の農耕よりは楽かな? というくらいで、こちらはある程度力仕事もあるだろうけど。
総じて、若い人よりも高い年齢の人がというイメージだ。
新しい事ではあるけど、農業とほぼ変わらないからな。
「本来ならあまり公に話す事ではございませんが……ペータさんは広める方ではありませんし、私もそうですが、タクミ様やクレアお嬢様の意向は聞いておりますので、よろしいでしょう。んんっ!」
「セバスチャン、楽しそうね……」
少し考えて、話す事に決めたセバスチャンさんは、咳払いをする。
その様子はクレアも言っているように楽しそうだ……説明できるからだろうなぁ。
セバスチャンさんの本領発揮といったところかな――。
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