フェンリル達が頑張ったようでした
「この声は……」
「デリアさん、わかる?」
「えっと、多分ですけど……」
「ワフ、ワフー」
「レオ?」
俺には、声っぽく聞こえるなぁ……というくらいなんだけど、デリアさんは声だとはっきりわかるような事を呟いたので、聞いてみる。
確信はなさそうながらも、声がなんなのかを話そうとしたデリアさんを遮って、俺の横へ駆けて来て急停止したレオ。
背中には、ちゃっかりリーザとティルラちゃんが乗っている。
他の子供達は遊んでいた場所にいて、急に駆けだしたレオを見てキョトンとしていた。
「ワフワフ」
「え、これフェンリルなのか?」
「ワフー」
「ガフガフ!」
「フェルまで……フェンリルって事は、フェリー達か。だったら、村の外から聞こえているのか」
「ワフワフ、ワフーワウ」
レオによると、辺りに響いている声はフェンリル数体の遠吠えらしい。
聞き返す俺にレオが頷き、いつの間にか近くに来ていたフィリップさんの寄りかかり所……じゃなかった、フェルも頷いていた。
さらにレオが何事かを伝えようと鳴く。
「獲物を掴まえたって事か」
「ワフ!」
どうやらフェリー達は、森の中で獲物を狩ってきた事を報せるため、遠吠えをしたという事らしい。
そういえば、さっき森の中に行ったってセバスチャンさんが言っていたっけ。
フェリーやリルル、フェンというフェンリル三体がいるのだから、オークとかの獲物を狩るのも簡単にやってのけるだろうな。
「とりあえず、村の外へ行ってみよう、クレア。デリアさんも」
「そうですね、タクミさん」
「は、はい。わかりました!」
村に入って来ずに、遠吠えで報せて呼ぶというのは、自分達が人間を驚かせないための配慮だろうか。
とにかく、フェリー達の方に行く事を決め、クレア達に声をかける。
二人共、頷いて一緒に行ってくれるようだ。
「私は、村長に今の話を伝えて来ましょう。ペータさんと話す事についても」
「お願いします」
広場の周囲では、お爺さんやお婆さん達がレオと遊ぶ子供達を見守っていて、遠吠えを聞いて不安がっていた。
それを見たセバスチャンさんが、問題とかではない事を報せるために、村長さん達へ伝える役目をしてくれるらしい。
ついでに、ペータさんとの話も進めてくれると……お願いします、セバスチャンさん。
ワオォォォォォォォォン――
ガオォォォォォォォォン――
「報せてくれたのか。ありがとなレオ」
「ワフワフ」
広場から村の外へ向かって移動を始めた直後、レオが空へ向かって大きく吠える。
それに応えるように、村の外からはっきりと……フェリーの声と思われる遠吠えが聞こえた。
向こうからの返答はわからなかったが、レオは今から行くから、と報せる内容だ。
近くで聞いていたから耳がキンキンするけど、連絡は大事だ。
大きく吠えないといけないので、それなりに離れていてもやり取りできるのは……便利なのか不便なのか微妙なところだ。
今回は便利だった、かな?
「これはまた……」
「大猟……ですね……」
「ワフワフ?」
「グルゥ、グルルゥ」
「わー、凄い重なってるー」
「凄いですねー!」
レオと一緒に、フェルやクレア達と連れ立って村の入り口に到着。
フェリー、フェン、リルルの三体がお座りして並び、尻尾を振りながら待機しているというのも、それはそれですごい事なんだろうけど、皆の目はその前にある物へ注がれている。
アウズフムラ、オークなどが数体ずつ積み重なっていて、見た事のない魔物も少し……あ、トロルドもいるな、食べられないけど仕留めたから持ってきたのか。
まとめるためだろう、サーペントの長い体を使って魔物の種類ごとに縛ってまとめられていたりもする。
一緒に来ていたニコラさんだけでなく、俺もクレアも絶句し、その光景を見ている。
レオはフェリーに近付き何やら話しているようで、背中に乗っているリーザとティルラちゃんは、魔物が積み重なっている状況に対して、無邪気に喜んでいた。
俺達の後ろから、村の人達も付いて来ているんだけど、そちらも驚きに口を開けるばかりの様子だ。
「キャゥ! キャウー!」
「シェリー!」
クレアを見つけたのか、フェンに乗っていたシェリーが飛び降りてクレアに向かって駆けて来る。
「キャウキャウ! キュゥー!」
「そ、そうなの。頑張ったのね」
「キュゥー」
クレアの足下をグルグル回りながら、何かを報告するように鳴くシェリー。
通訳してもらうと、自分が獲物を仕留めたと嬉しそうに報告していたんだそうだ。
なんでも、森にフェンリル達が入った際、ハンバーグを作ってもらうために獲物を取って来ようとなったらしく、シェリーの訓練も兼ねてアウズフムラやオークなどを探して仕留めたとか。
確かによく見ると、積み重なっている魔物の中には、凍っている状態の物もあるので、シェリーも含めたフェンリル達が魔法を使ったんだろうと思われる。
「しかし、ここまで傷を与えずに仕留めるとは。さすがフェンリルと言うしかありませんな」
「私も、親方達と森に入って狩りはしますけど、ここまで綺麗に仕留めたりはできません……」
「まぁ、剣とかの武器を使うとどうしても外側を傷つけてしまうからね」
「グルゥ!」
「キャゥ!」
落ち着いたニコラさんとデリアさんが、仕留めた魔物を見て感心しているのに同意すると、フェリーとシェリーがお座りしながらも誇らし気に鳴く。
積み重なった魔物は、多少傷が付けられている部分があるけど、ほとんどが凍っていたりするくらいで外傷のようなものが見当たらない。
全身が凍っているアウズフムラとかもいたりするので、魔法で仕留めたのは間違いないんだろうけど……さすがフェンリルだ。
「あれ? こっちのオークとアウズフムラは、結構傷が付いているけど……?」
「……キャゥ」
「グルゥ、グルルルゥ」
「ワフ? ワフワフ」
「あぁ、成る程な」
綺麗な状態の中に、アウズフムラが一体とオークが三体程、足が凍っているくらいで体に噛み傷のようなものが無数に見られる物があった。
他は綺麗なのにこれだけどうして? と思って首を傾げると、今まで得意気にしていたシェリーが俯き、フェリーが説明するように鳴く。
そうなの? とレオが首を傾げた後に教えてくれたけど、それはシェリーが仕留めた魔物だったらしい。
まだ戦闘が不慣れなので、綺麗に仕留められなかったとか。
アウズフムラの方はフェリー達も少し手伝ったらしいけど、それでも以前森に行ってオークと戦った時とは違い、しっかり狩りができたようなので上出来だと思う。
他のと比べて少しだけ落ち込んでしまったシェリーは、クレアと一緒に撫でて機嫌を直してもらった――。
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