本人から話を聞く事に決めました
「村という一つの集合体として考えれば、それも無理はないでしょう。誰も、不安定になる事は望みません。先程村長を交えて話を聞いた際にも、村の者達を不安にさせる事はしたくないと仰っていました」
「ペータさんなりに、考えての事なんですね……」
村に余裕がないというわけではないんだろう。
だけど、新しい事を始めるのはそれだけ、今とは違う手間をかけてしまう事になる。
現状で満足している状況で、無理をしたり、失敗するかもしれない事への挑戦は賛同されないか……デリアさんの話を聞く感じだと、ペータさん自身も新しい事と考えてはいても、何をどうやればいいのか、と詳細が分かっているわけではなさそうだしな。
何か挑戦しなければ村の生活が……という状況ならまだしもな。
「私が話を聞いた限りでは、決意は固いようでした。まぁ、本当にタクミ様やクレアお嬢様が雇うかは、別の話ですが」
「セバスチャンさんは、どう思いますか?」
「ふむ……タクミ様の事もあるので、不必要に人を増やし過ぎるわけにはいきませんが……私としては良い事ではないかと。成功するとわかってはいますが、それでも初めての試みではあるのです。ですから、畑に詳しい方を雇うのは賛成です。元々、タクミ様は詳しい方を求めておりましたからな。それに、栽培して放っておいた際の状況も考えねばなりません」
「そうですか、セバスチャンさんは賛成側ですね。まぁ、俺もペータさんがいてくれたら心強いなとは、ここで話していて感じていました。相談できる相手も欲しいですから。でも、あの砂漠化をどうにかできる方法ってあるんでしょうか?」
「それは私にもわかりませんが、何か対処法はわかるかもしれませんな。向こうは畑に詳しい……であれば、土の改良なども手掛けているはずです」
砂漠化は、『雑草栽培』で作った薬草が成長したり増えたりする状況を、何もせずに放っておいた場合に起きる。
単純に、土からの栄養を吸い過ぎたために、不毛の土……というより砂漠にある砂のようになる、という事だけど。
そうなる前に摘んだりするなどで、対処は可能だけど、もしもなった場合やどうしてもそうせざるを得なかった場合に、どうにかするための方法は必要だ。
それをペータさんができるかはともかく、ヒントなどは得られるかもしれない。
「私にとってのカレスのように、相談できる相手は必要ですね。私も賛成です、タクミさん」
「クレアも賛成……デリアさんは?」
「え、私ですか?」
「もちろん。デリアさんはリーザの家庭教師になってもらうつもりだけど、この村で育ったわけだから、ペータさんを雇っての影響とかも考えてくれるだろうからね」
本当なら、村にいる他の人達にも聞いてみたいけど、さすがに一人一人話を聞くのは時間がかかり過ぎる。
この村で育っているデリアさんなら、俺がもしペータさんを雇った際の影響とかも考えてくれると思った。
「えーっと、そうですね……私は同じ村のペータお爺ちゃんが、一緒なら安心と思います。畑仕事の方は、ペータお爺ちゃんはもうほとんどやっていないはずなので、影響は少ないかな。肥料の作り方とかも、教えているはずです。ただ……」
「ただ?」
「この村ではなく、ランジ村に行くとどうなるのか……タクミさんも会ったからわかると思いますけど、年齢が年齢なので。移動はできても、頻繁にブレイユ村に戻って来れるかな? と……」
「それは確かにそうかぁ……」
ペータさんの年齢は聞いていないけど、見た目で言うなら大体六十代くらいだろうか。
セバスチャンさんと違って、若々しく元気という事はなく、腰も曲がって来ているようだし、畑の様子を見るのにも椅子に座ってだった。
ずっと立ちっぱなしでいるのは辛い、とか言っていたからな。
無理じゃないだろうけど、馬車や馬に乗って移動するのはかなり体力を使うから、ブレイユ村とランジ村を往復するのは簡単ではなさそうだ……。
「……まぁ、そのあたりはなんとなくだけど、どうにかできそうではあるかな?」
「そうなんですか?」
「まだ、はっきりとした事は言えないけど、多分」
移動に関して、馬車や馬での移動は揺れたりとかもあるけど、時間がかかる事も体力を使う原因の一つだ。
それに対しては、今フェンリルに協力してもらってやろうとしている駅馬で、解決できるかもしれない。
駅馬に宿も併設すれば、途中で休息するのも簡単になるだろうし。
「とりあえず、デリアさんも賛成側で考えて良さそうだね。まぁ、俺もどちらかというと賛成なんだけど……畑に関して相談したり話したりする人は欲しいから」
『雑草栽培』を使うからとは言っても、畑に関する事はちゃんとしておきたい。
もし砂漠化が広まったら、ランジ村に迷惑がかかってしまうしな。
この場にいる皆と同じく、俺もペータさんを雇う事には賛成側だ。
「ただ、タクミ様の事は話さなければいけませんな。雇う人員には、元々話す予定でしたので大きな問題ではありませんか」
「タクミさんの事、ですか?」
「デリアさんには、見せたし話した事だよ」
「あ、あぁ!」
「タクミさん、デリアさんにはもう?」
「うん。ちょっと薬草が必要だったし、デリアさんはリーザといてもらうつもりだから……先に話しておこうと思って」
セバスチャンさんが言うのは、『雑草栽培』の事だろう。
他の人もいるので、この場ではっきり口には出せないけど、デリアさんには伝わったようだ。
クレアが首を傾げていたので、デリアさんに説明した事を伝えた。
セバスチャンさんが何故か悔しそうな表情になったけど……これは『雑草栽培』の説明機会を失ったとか考えていそうだから、気にしなくても良さそうだな。
「なんにしても、ペータさんと一度話してみます。聞いた限りでは、雇う方向で考えていますけど、本人が近くにいるんですから、本人からも話を聞いてみないと」
「そうですな、わかりました。村長にも伝えて、ペータさんとタクミ様が話せる場を作りましょう」
「はい、お願いします。……村長さんからは?」
「本人が希望するのであれば、止めはしないと伺っております」
「なら、ペータさんと話して決めて大丈夫そうで……うん?」
「遠くから何か……?」
とりあえず、雇う方向で考えながらも本人から話を直接聞いてみようと思い、セバスチャンさんにお願いする。
面談という程大袈裟じゃないと思うけど、話す場を設けてくれるみたいだ。
村長さんの方も、ペータさんを引き留めるわけではなさそうなので、安心して話せる……と思った瞬間、遠くから何か声のようなものが聞こえた。
セバスチャンさん達も聞こえたようで、キョロキョロとしている――。
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