ブレイユ村でのんびり過ごしていました
――翌々日、墓地で『雑草栽培』の影響が強い花を摘み取ったり、森の方でもフェルに見守られながら、同じく花を摘み取ったりしているうちに、時間が過ぎた。
墓地では、花で賑やかになっているのを村の人達が驚いていたりもしたけど、カルヤカトさんのお墓周辺に花を植えてあげたかったと言うと、あっさり納得してくれた……一部でデリアさんへの点数稼ぎとか言われたりもしたけど。
ともかく、他のお墓や近くを通る際に邪魔になりそうな花もあったので、墓地周辺に植え替えたりもして、土と戯れながら過ごしていたりしたって事で。
ちなみにフェルは、翌日森へ行った時にも合流したんだが、その頃には既に両前足を使う事に慣れていたようで、不自然さはなくなっていた……さすがに適応が早い。
「……はぁ。そろそろ、ニコラが戻って来る頃かな?」
「そうだなぁ。あいつの事だから、昨日戻って来るかもと考えていたけど、うまく向こうで引き留めてくれたんだろう」
「さすがに、一日馬に乗って移動して、休みなくすぐ折り返すのは疲れそうだからね」
色々とやる事もやり、村で唯一のオープンカフェっぽい場所でお茶を嗜みながら、息を吐き出し、そろそろ戻って来そうなニコラさんへと思いを馳せる。
オープンカフェと言っても、お婆さんと娘さんが外から村に来た人に対して、お茶を提供したりちょっとした食べ物を提供する家の前なだけで、テーブルと椅子はその場で食べるなら持参というお店だけど。
ともかく、ニコラさんには三日くらいでと言っていたから、今日あたり戻って来そうだ。
最初は二日と本人が言っていたけど、フィリップさんの言うように一日ニコラさんを休ませたんだと思う……引き留めたのは、クレアかセバスチャンさんあたりだろう、グッジョブだ。
「タクミさん、帰っちゃうんですよね。寂しいです……」
「まぁ、いつまでもここでのんびりしていられないからねぇ」
やはり猫舌なのか、一緒に座ってお茶に息を吹きかけているデリアさんが、寂しそうに呟く。
村にはすっかり馴染んだし、自炊した時の食事に対する味以外は、問題なく生活どころかのんびりとして楽しく過ごさせてもらってはいる。
けど、本来は一般の暮らしを見るために来たのであって、この村で生活するために来た訳じゃないからな。
それに、屋敷に戻ったら引き続き『雑草栽培』による薬草を作った時の研究や、ランジ村で行う薬草畑の事も進めないといけない……そういえば、セバスチャンさんが執事候補が来るって言っていたから、その人達とも会わなきゃな。
あと何より、レオとリーザやクレアを始めとした屋敷の人達とも、しばらく顔を合わせていないから……特にリーザは、出発直前に大事な日を迎えたし、その後の経過も含めて早く会いたい……もちろん、レオも撫でてやりたいしなぁ……。
「ここはのんびりしていて、楽しく過ごせたなぁ。ほんと、念のためタクミの近くにはいたけど、本来すべき事を忘れて散々羽を伸ばした」
「フィリップは、少し羽を伸ばすというか、羽目を外し過ぎじゃないかな?」
「だってなぁ……少し戦えれば、集団で挑む狩りは危険が少ない。もちろん、警戒を怠ってはいけないんだろうが、それでもデリアさんがいれば、俺が必要ないんじゃないかとも考える事があったぞ? それに、のんびりと女性を口説きながら、酒を飲むのは素晴らしい日々だよ、タクミ君」
「誰がタクミ君か。まったく……セバスチャンさんが聞いたら怒りそうな事を。まぁでも確かに、色々やる事とかはあったけど、凄くのんびりできたのは確かだ」
フィリップさんは、暇があれば村の女性に声をかけ、お爺さんやお婆さん達からお酒を融通してもらっては、晩酌と洒落込んでいたり、かなり自由に過ごしていた。
相変わらず、村の女性達にはほとんど相手にされていなかったけど。
それでも一応、護衛兵士としての本分を忘れていないのか、夜に俺と鍛錬をしていたりもしたけど……でもさすがに、デリアさんがいるからと護衛が必要ないなんて言っていたら、セバスチャンさんに怒られると思う。
そんな俺も、フィリップさん程お酒を飲んだりはしていなくても、気持ちはよくわかるんだけどな。
村の人達は気さくに声をかけてくれるし、特にやらなければいけない事もなく、その日にやりたい事をやるのにも近い暮らしで、存分に羽を伸ばせたのは確かだ。
まぁ、デリアさんが手伝ってくれなかったら、俺とフィリップさんやニコラさんだけで、毎日の食事には不満が爆発したかもしれないが……。
皆、簡単に炒める、煮る、焼く、というくらいはできるけど、繊細な味付けとかができなかったから……フィリップさんなんて、放っておいたら炙った燻製肉とお酒だけで過ごしそうだったし。
ともあれ、ここには憧れの田舎暮らし! とか、スローライフと言える要素が沢山詰まっていた。
本当にこの村に住むんだとしたら、村の一員として畑なりなんなりといった、仕事をしないといけないんだろうけどな。
「私も、タクミさんと一緒に色々できて、楽しかったですよ」
「ははは、ありがとうデリアさん」
ようやく飲める温度になったのか、お茶を一口飲んで笑ったデリアさんの感想に、感謝を伝える。
デリアさんは俺に付いて村の案内だとか、ここの人達への紹介など、間に入って馴染むように頑張ってくれたからっていうのは、やっぱり大きいと思う。
とはいえ、さすがにデリアさんへというか、獣人やフェンリルに対して積極的に拘わろうとしない人とは、あまり馴染めなかったけど。
まぁ、別に無碍にされるわけではなく、当然何かしてくるわけでもない。
こちらから話しかけたら、ちゃんと受け答えしてくれるからな……用件が終わったら、そそくさと立ち去られたけど。
「まぁ、そうはいってもニコラが戻って来たら、一日か二日くらい休息してもらうつもりだし、もう少し後だよ。それに、デリアさんにはリーザの事も見てもらうから、また会えるからね」
「そうですね。私も、ちゃんとタクミさんについて行かないといけません。……それまでに、お婆ちゃん達から読み書きをもう一度教わろうかな?」
「余裕があるなら、それもいいかもねぇ……」
ニコラさんが戻って来たら、その日のうちに村を出るというわけでもないから、もうすぐお別れ、というわけでもない。
それにデリアさんは、一緒にいる時改めて聞くと、リーザの家庭教師としてランジ村に来ると意思を固めてくれたので、すぐかどうかはわからないが、また会えるからな――。
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