フェンリルの名前が決まっていました
「ほんと、タクミの能力は凄いな」
「まぁ、簡単に薬草を作れるのはすごいと思うけど。でも、本当にすごいのは、傷跡すら治したロエだよ」
デリアさんの手伝いを終えたフィリップさんから、フェンリルを撫でたり一緒に喜んでいる姿を見て、感心したような呆れたような、よくわからない表情で話しかけられた。
傷跡すら綺麗に跡形もなく癒す薬草のロエが、一番すごい気はするけど、それを簡単に作れる『雑草栽培』が凄い事には変わりないか。
このロエで傷跡を治せるという効果、実は木こりの親方さんのおかげでわかった事だ。
親方さんの頬についた傷跡、それをロエでは治せないか? と思って……早い話が実験台になってもらったわけだな。
まぁ、失敗しても何も影響が出ないだけだろうから、安全な実験なのがわかっているからこそできた事だけども。
ともかく、適当な言い訳をしてロエを手に入れたと話し、もしかしたら効果があるかもと親方さんの傷跡に当てると、先程のフェンリルのようにみるみるうちに傷跡がなくなった。
この事から、ロエは怪我を治すというよりも、本来の状態に戻す効果なんじゃないか? という考えも浮かんだけど……この事はセバスチャンさんと話して考えた方が良さそうなので、保留。
もしかしたら、シェリーの時のように見た目や使用法が似ているだけで、俺が望んだ効果の薬草を『雑草栽培』が作ってしまったのかもしれないので、俺一人では考えないようにしている。
本来の効果はともかく、こうして怪我だけでなく傷跡も治せる事がわかったので、もしかしたらこちらにも効果があるかも、とフェンリルの右足に使ってみたら、思っていた通りに成功したってわけだな。
昨日、墓地から走り去るフェンリルを見た時、器用に走っていてもやっぱり不自由さを感じたので、なんとかしてやりたかったし、できて良かった。
「本当に、タクミさんは凄い人です」
「デリアさん。お墓の方は?」
「もう、終わりました。えっと、お願いできますか?」
「もちろん。そのために、俺もここに来たんだから……フェンリルの傷跡の事もあったけど」
木の板を立てたり、石を組んで墓石にしていたのが終わったようで、デリアさんからも感心された。
確認すると、ちゃんと墓地と同じようなお墓になっていた……最後の仕上げは、俺の役目だな。
「えっと、あまり多くを栽培するわけにもいかないから……よし、っと」
「ありがとうございます。最初からあったお花も、残してくれたんですね?」
「もちろん」
昨日と同じように、『雑草栽培』で菊の花、蓮の花、それからチューリップを生やす。
最初から咲いていた名もない花を邪魔しないよう、少しだけ距離を離してだ。
その花は、デリアさんを見守るように風で揺れていたので、取り除く事なんてできないからな。
「ガフー! ガフー!」
「あははは! フェルさんも、足が治って良かったですねー!」
「ガフー!」
「……いつの間にか名付けているし……獣人って、そうなのかな?」
『雑草栽培』での花栽培は、また来て摘み取ったりなどの調整は必要だが、それはともかく……予定していた事が終わった後、自由に右足が動かせるようになって喜ぶフェンリル。
それと、自分を守ってくれた母親の供養もできて、どこか晴れ晴れとした笑顔のデリアさんが、森の中ではしゃいでいる。
木々が生い茂っている場所でも、関係なく器用に避けながら走り回っているのは、さすがフェンリルと獣人と言ったところだろうか。
あと、いつの間にかフェンリルの事をフェルと名付けていたようで、これもリーザと同じく獣人特有なのかな? と首を傾げる。
ネーミングセンスも似たものをもっているっぽいしなぁ……。
「ガフ!」
「お?」
「ガフガフ、ガフー! ガフフ!」
「え、そうだったんですか!? フェルさんが……」
フィリップさんと一緒に喜ぶデリアさん達を微笑ましく見ていると、何やら急に俺の前で急停止し、お座りしたフェル。
何事かを鳴き声で伝え、頭を下げると、フェルの隣に来ていたデリアさんが驚いて声を上げた。
フェルから明かされる真実! みたいな感じで、デリアさんは驚かされっぱなしだなぁ。
それはともかく、フェルが伝えたかったのは、右足が自由になったおかげで、魔物を追い込むのも簡単になったという事での感謝だった。
なんでも、オークなどの人間が食べたりしている魔物を、遠目から観察して覚え、その魔物を発見したら村から森への入り口付近まで追い込んでいたりしたらしい。
さすがにフェルが姿を現すわけにはいかなかったので、痕跡を見つけさせ、魔物を追って狩りをするよう仕向けていたのだとか……。
痕跡を見つけたら、翌日以降にデリアさんが森に入って狩りをするようになってからは、必ず獲物を得られるように頑張ったと、誇らし気にしていた……こういう感じで褒めたり撫でられ待ちをするのは、狼の魔物というよりは、犬っぽいなぁ。
「それじゃあ結局、デリアさんの狩り運って……ここ数日も、俺と一緒に狩りをして、絶対に成果があったのも……」
「全部、フェルさんのおかげだったようです……何から何まで、フェルさんのお世話になっていたんですね、私」
親方さん達が言っていた、デリアさんの狩り運。
一緒に狩りをすると、大物も含めて必ず成果が出るというものだが、それはフェルが魔物を追い込んでデリアさんが狩るように仕向けていたかららしい。
俺も、村に滞在している数日間、アウズフムラ以外にも森の中に入って、一緒に狩りをしたけど……確かにデリアさんが一緒にいたら必ず成果が出ていた。
「そういえば、確かに不自然な点もあるにはあったか……」
アウズフムラを狩りに行った時、なぜかオークやサーペントも同じ方へ向かう足跡を見つけた。
時期がずれて、偶然同じ場所を通ったならともかく、それら三種の魔物が同時に同じ方向へ向かうのは、フェルに追われての事だったらしい。
そこまでフェルがやる事は……と思ったんだが、群れから離れて暇だったからとか、追い立てていると楽しくなってきた、なんて言っていた……牧羊犬かな? 犬じゃないけど。
ちなみに、フェル自身は痕跡を残さないようにしていたので、親方さんやデリアさん、俺達にも何も見つけられなかったようだ。
……フェンリルが近くにいたはずなのに、全く気付かなかったとわかって、フィリップさんが少し落ち込み気味だったのは……後で慰めておこう――。
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