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912/1998

意を決してフェンリルに近付きました



「た、タクミさん?」

「多分、大丈夫だと思う。とりあえず、デリアさんはそのままで」

「は、はい……」

「もし何かフェンリルが動きを見せたら、動きます。……間に合わないかもしれませんが」

「はい、お願いします」


 確証はないんだけど、なんとなくあのフェンリルは俺達を襲おうとしているわけじゃない、という感覚がある。

 自分の感覚だけなので、保証はできないけど……安心させるように、デリアさんに微笑んでフィリップさんの言葉に頷き、もしもの際を頼んでゆっくりとフェンリルに向かって歩く。


「……やっぱりだ」


 フェンリルは、俺をずっと見つめて動きを見ているのは間違いないけど、俺が近付いて来るのに対して何か動いて見せたりはしない。

 それどころか、さっきまで俺でも感じられていた強大な気配のようなものが、何も感じられなくなっている。

 一応、油断しないよう、いつでも動けるように気を付けながら、距離を縮めていると他にもいくつか気付く事があった。

 特にわかりやすいのは、先程まで遠目でも毛先が立っているように見えていたのが、今は何事もなく触り心地が良さそうなモコモコになっている事か。


 フェリーやフェン達と同じように、何事もなくリラックスしている状態と同じ感じだ。

 あと気になったのは、お座りしている状態のフェンリルだけど、少し不自然な重心な事か……右前足はちゃんと地面に付いているのに、なんとなく左前足で体を支えているような、少し傾いて見える。

 このフェンリルの癖とかそういうものなのかもしれないが、レオで見慣れているお座りって大体両足で均等に支える物なんじゃないだろうか?


 重心が傾くのは、後ろ足で耳を掻くときなど、リラックスしている時の事が多かったりする……何かで動き出す時に、支障が出るからな。

 何か理由があるなら別だけど、俺を警戒したり襲おうとしているのであればそれは不自然だ。


「まぁ、安全そうに見える一番の理由は、わかりやすいあれなんだけどなぁ……」


 近付くごとにはっきりと見えるようになったんだが、遠目でも確認できる大きな尻尾。

 こちらに体を向けているうえ、お座り状態だから確認しづらいが、左右に振られている様子が見えた。

 レオだけでなく、シェリーやリーザ、デリアさんもそうだが……尻尾は感情が特にでやすく、無意識に動く事が多いように思う。

 そう考えると、先程の威圧するような気配はともかく、今は俺達を襲おうとしていないんじゃないかな? これから襲う相手に、尻尾を振るなんてしないだろうし。


「……やっぱり、敵意はないんだな?」

「ガフ……」


 ゆっくりと近付き、手を伸ばせば届く距離まで接近する頃には、大丈夫だという感覚が確信に変わる。

 フェンリルが本気で襲う気なら、ここまで近付くまでになんとでもできただろうしな。

 ただ、鋭く見つめられているのは変わらないので、ちょっと気圧されつつも、声をかけながら恐る恐る手を伸ばすと、俺の手に鼻先を寄せて匂いを嗅いだ後、無抵抗で受け入れ、答えるように鳴いた。


「うん、大丈夫なようだ。けど、どうしてさっきまでは威嚇するような感じだったんだ?」

「ガフ? ガフゥ……ガフ!」

「んー、さすがに何を言っているかわからないけど、手違いみたいだったみたいな感じか」

「ガフ」


 顔から体に手を移動させ、撫でながら聞いてみると、レオやフェリー達と同じように首を傾げて、少し申し訳なさそうに鼻を下げた後、何かを伝えるように力強く鳴く。

 相手はレオではないし、俺は獣人じゃないから何を言いたいのかははっきりわからなかったけど、とにかくちょっとした間違いだった、と伝えたいような気がした。

 俺の言葉に、肯定するように鳴いて頷いたので、間違ってはいないようだ。


「ともかく、俺達を襲う気はないんだな?」

「ガフガフ!」

「そうか、わかった。――おーい! フィリップさん、デリアさん! 襲う気はないそうだし、大丈夫みたいです!」


 もう一度念を押すように確認すると、コクコクと頷いたフェンリル。

 俺達を騙すための演技には見えないし、尻尾は撫で始めた時からさらに激しく揺れているうえ、さっきまで鋭かった目つきも気持ち良さそうにトロンとしているから、本当に大丈夫だな。

 そう思って、まだ警戒しつつも俺が撫でているのを驚いているらしい、フィリップさんとデリアさんに呼びかけた――。



「タクミ様……いや、タクミ。さすがに今回は驚きを隠せないんだが……」

「まぁ、驚いているのは俺もだけどね。でも、フェンリルから敵意のようなものは感じられなかったし、大丈夫かなーって。あと、フェリー達から、元々人間を見たら見境なく襲うわけじゃないって聞いていたし……」

「はぁ……寿命が縮んだような気がする。そもそも、色々な覚悟をしていたから……はぁ……」


 呼ばれて、撫でられてご満悦なフェンリルと俺のいる所へ寄ってきたフィリップさんは、緊張を解いて安心した様子を見せながらも、何度も溜め息を吐いていた。

 まぁ、俺より何かの気配に鋭く、フェンリルだとわかったらそうなるのも当然か。

 魔物と戦えるとはいっても、三人くらいで敵う相手じゃないしなぁ……確か、エッケンハルトさんから聞いた話では、軍隊で囲んで距離を離し、魔法を打ち込んで疲弊するのを待ってから突撃だとか、かなりの被害を覚悟する相手って、聞いていたしな。


「……えーっと、大丈夫なのでしょうか……いえ、タクミさんを疑うわけじゃないんですけど」

「大丈夫だよ。それに、俺からっていうよりも、フェンリルから直接聞いた方が信じられるでしょ?」


 俺が離れたから、代わりにフィリップさんの背中に隠れているデリアさんは、フェンリルに圧倒されているのか、まだ本当に大丈夫か半信半疑の様子。

 デリアさんフィリップさんよりも先に気配に気付き、方向までわかっていたみたいだから、特に気配に対して敏感なんだろう。

 獣人だからかもしれないが、俺達よりも鋭いという事は、絶対に敵わないと本能的に理解しているという事でもあるからな。


「ガフガフ」

「は、はい。確かに、フェンリルは私達を襲う気はないって言っています……」


 フェンリルがデリアさんに向かって鳴くと、言葉が伝わる獣人なのもあって、ようやく胸を撫でおろして安心してくれた。

 まぁ、それでも耳と尻尾はまだピンとしているから、無意識に警戒しているんだろうけど、仕方ないか――。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


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