公爵家当主様と対面しました
しかし……自分の服にも無頓着とは……一体どんな人なんだろう……豪快とは聞いてるけど。
とりあえずティルラちゃん、そこは本人には言わないように気を付けようね?
多分、父親が娘に言われてショックな言葉トップ3に入るだろう威力があると思うから……。
もし俺に将来娘が出来たら、身だしなみはきちんと整えようと心に固く誓った。
朝食の時と違い、和やかな雰囲気のまま俺達は食堂に入る。
どうやら、当主様のお見合い話対策はしっかり出来たようだ。
食堂には先にライラさんとゲルダさんがいて、食事をするための準備を進めていた。
その後、昼食をたっぷりと食べ、食後の休憩にライラさんが淹れてくれたお茶を飲み、当主様が屋敷に来るのを待つ。
昼食を食べ終わってすぐ、一人のメイドさんが食堂に入って来て出迎えの準備が終わったと伝えてくれた。
屋敷の使用人さん達も大変そうだな……お疲れ様です。
「そろそろですね……」
「クレアお嬢様、手筈通りに」
「わかってるわ」
「緊張してきました」
「ワフー」
「キャゥ?」
セバスチャンさんがクレアさんに何かを言っているが、多分お見合い話を断る算段だろう。
ティルラちゃんは久しぶりに会う父親相手に緊張してる様子だが、実際緊張してるのは初めて会う俺の方だと思う。
色んな人から豪快だとか無頓着だとか聞いていても、やはり初めて会う貴族の人。
初対面の印象は大事だというし、失敗しないよう気を付けなければいけない。
レオの方は暢気に牛乳を飲んで、シェリーの方はレオの背中の上に乗ったまま、何が起こるのかわからず皆を見た後首を傾げてる。
レオは人と会うのに緊張なんてし無さそうだなぁ。
それにシェリーの方も、まだ子供だから偉い人と会うという意味とかわかって無さそうだ。
どちらも人間相手に緊張という事をするのかすら怪しいけどな。
そんな事を考えて、緊張を紛らわせていると食堂の扉が開き、執事さんが一人入って来た。
「旦那様がご到着されました」
その言葉で、にわかに緊張が走る食堂内。
俺や使用人さん達はまだしも、クレアさんとティルラちゃんは実の父親に会うのにそんなに緊張してていいのかな?
クレアさんはセバスチャンさんに促され、俺とティルラちゃんはそれを見て椅子から立ち上がる。
レオやシェリーも俺達に続いて立ち、レオは俺の隣、シェリーはクレアさんの隣に移動した。
「……行きましょう、タクミさん、ティルラ、セバスチャン」
「はい、クレアさん」
「畏まりました」
「行きます」
「ワフ?」
「キャゥ?」
相変わらずレオとシェリーは緊張感も無く、何故皆がこれだけ緊張してるのかわからないようだが、俺達はそれに構っていられる余裕も無く、食堂を出た。
と言うか今更だが、何でこんなに当主様と会うのに、ゲームで言うボスと戦う直前みたいな雰囲気になってるんだろう……。
緊張してる俺が言う事でもない気がするが、クレアさん達の父親と会うだけで、戦うわけではないはずだ。
そう考えても、緊張が解ける事は無く、俺達はそのまま玄関ホールに移動した。
玄関ホールで数十人のメイドさんや執事が並んで待機しており、全ての使用人が揃ってるんじゃないかと思う程壮観な光景だった。
実際には、この大きな屋敷を維持するにはもっと人の数が必要だと思うから、今動ける人達が集まったんだろうけどな。
あ、メイドさんに紛れてヘレーナさんがいる。
玄関の扉横にいるのはフィリップさんとニコラさんかな。
「公爵家当主、エッケンハルト・リーベルト様ご到着です!」
玄関の外から、男性の声が聞こえてホールに揃っている皆が姿勢を正す。
俺もどう動けばいいかわからないが、一応他の使用人達の真似をして姿勢を正した。
ちなみに俺がいる場所は、クレアさん達の後ろでライラさん達に混ざって並んでいる。
それにしても、エッケンハルトって名前だったんだな。
そういえば当主様の名前を聞いた事が無かったなと思いつつ、名前の語感から美形の紳士を想像していた。
フィリップさんとニコラさんが両側から玄関の扉を開け、3人の護衛と思われる鎧を来た人達を連れて、一人の男性が入って来た。
「「「「「エッケンハルト様、我々使用人一同歓迎致します!」」」」」
「うむ」
ホールに集まった使用人さん達が一斉に声を上げてエッケンハルトさんを出迎える。
それを見たエッケンハルトさんは頷いて応えた後、クレアさんのいるところに顔を向けた。
それを受けてクレアさんとティルラちゃんが前に進み出る。
セバスチャンさんはクレアさんのすぐ後ろだ。
「ようこそお越しくださいました、お父様。今回はご心配をおかけしたようで、申し訳ございません」
「お父様、お帰りなさいませ」
「クレア……無事で何よりだ……そして二人共……しばらく見ないうちにまた綺麗になったな……父さんは嬉しいぞ」
おや……この人、いきなり大きな手を自分の顔に当てて泣き始めたぞ……どうしたんだ?
というか、エッケンハルトさん、想像してた美形の紳士とはまるで違った。
無精髭を伸ばし、あご髭ともみあげが繋がっていて、武骨な顔付きは粗野な印象を与える。
服も、皆が言っていたように確かに無頓着と納得出来る物で、街中を一人で歩いてたら絶対に貴族とはわからないような服装だ。
……これで斧でも持ってたら、山賊と間違えられるんじゃないだろうか……そんな風貌のオジサンは、今娘を前にして何故かいきなり泣き始めた。
髭をしっかり整えたら、渋いダンディなおじ様風なのになぁ……とか考えつつ、泣いてるエッケンハルトさんを眺める。
いきなり泣き始める事や、粗野な風貌を見てさっきまでの緊張感はどこかへ行っていた。
まぁ、体つきも大きくて頑強そうだから、殴られでもしたら軽く吹き飛びそうだなぁ、なんて怖さはあるが、クレアさんの父親だ、そんな事をする人じゃないだろう……多分。
しかし、あの父親からクレアさんが……母親似なのかもなぁ。
「お父様、皆の前ですよ、泣き止んで下さい」
「おう……すまないな」
「旦那様、クレアお嬢様が無事との報せも出したと思いますが」
クレアさんの言葉で、乱暴に目を拭って泣き止むエッケンハルトさん。
セバスチャンさんがクレアさんが森に行ってすぐと、帰って来てからの二回報せを出したって言ってたな。
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