サーペント酒が痺れる原因がわかりました
「サーペント酒と呼んでいるが、それは見た目にわかりやすいからじゃ。本来は薬味酒とも言ってな、この村で昔から飲まれている体を元気にするための酒なんじゃよ」
「体を元気に……?」
薬酒とか、そういった類の物だろうか。
どういう事なのかと村長さんに説明を求め、サーペント酒の事に付いて聞いてみる。
なんでも、サーペント酒は古くからこの村で造られているお酒で、ワインのみならず別のお酒にサーペントと薬味を一緒に漬けこむ事もされてきたらしい。
ただ、その中で一番飲みやすく、味もマシになったのがワインなので、今ではワインに漬け込むのが通常になったんだそうだ。
肝心の薬味に関しては、薬草を数種類煎じて混ぜる事が多いが、どういった薬草を薬味にするかは各家で違いがあるとか……ただ、その中でも絶対に混ぜる薬味が、プリクリィと呼ばれる物。
プリクリィ、実際に見た事はまだないが、セバスチャンさんから借りた薬草の本で見た事がある。
薬草というよりも、木の一種だが人間の身長くらいにしか育たない植物で、その葉を磨り潰して乾燥させ、粉末にした物が薬効成分のある物になると書いてあった。
そのプリクリィという木の見た目なども絵で描かれていて、粉末になった物を飲み込む際、辛みと痺れる感覚がある……ともあった事から、おそらく日本では山椒と呼ばれている物とほぼ同じだろうと思う。
そう言えば、山椒も舌が痺れたりするよなぁ……それに、確か英名がジャパン・プリクリィ・アシュとも呼ばれていた気がする。
そのプリクリィを粉末にした物の効果は、それ単体ではないらしいが、何かと混ざる事で様々な効果を得られるという、薬を作る際に加える物とされていた。
村長さんが言うには、それを利用してサーペントや他の薬味と混ぜる事で、体を温めたり体内の動きを活発にさせる……ような気がすると言っていたから、混ざる事で山椒に近い効果を発揮しているようだ。
そう言えば同じ物かはともかく、山椒は消毒効果もあったっけ……もしかすると、サーペントの毒と混ざる事で無害に消毒して、薬のような効き目を出しているのかもしれない。
そんな薬味酒、サーペント酒ができた理由として、村が森に近く採取しやすい事の他に、寒い時期や夜に暖を取るための手段として作られたとの事だ。
あとついでに、はっきりと実感できるほどではないけど、体の調子も良くなるからずっと作って飲まれてきているらしい。
暖を取るのは、木材が多くあるので薪で十分じゃないか? と思ったが、昔は人も多くなく木材を出荷する分を伐り出すので精一杯だったため、自分達の薪を十分に確保できなかったからとか。
場所が変われば、生活様式や歴史が変わるのはわかっていたけど、ランジ村からそんなに離れていない村でも、こんなに口にする物の成り立ちが違うんだなぁ、とちょっと感動した。
「何はともあれ、サーペント酒はこの村で当然のように飲まれておる。今は酒に頼って暖を取らなくてもよくなったが、それでも昔から続く村の伝統とも言えるじゃろうの。まぁ、好んで飲んでおる者がほとんどじゃが」
「そうなんですね……」
好んで飲まれているのには、それなりの理由があるって事だろう。
サーペント酒の事自体は、デリアさんに聞けば知れただろうけど、村に来て自分の目で見なければ成り立ちも、実際に飲む事もなかっただろうから、来て良かったと思える。
……味とか喉越しとかは、また別の話だけど……あと、痺れてしまうのに慣れないから、継続して飲みたいかと聞かれると微妙だ。
うなぎに山椒をかけて食べるのは好きなんだけど、ワインを飲んで同じく痺れるのはちょっとなぁ……そういえば、この世界にもうなぎっているんだろうか?
サーペントのような蛇の魔物もいるんだし、蛇じゃないけど似たような魔物がいてもおかしくないかもしれないな。
「ほれ、サーペント酒の事がわかったら、次は中に入っている……」
「え……」
サーペント酒の成り立ちや、痺れる原因がわかって喜んでいると、コップに入っている物体も食べるよう村長さんから勧められてしまう。
毒じゃないとわかったから、飲むのに抵抗感は薄れたけど……さすがにサーペントの体を食べるのは……。
と躊躇しても、村長さんが勧めるのは止まらない。
仕方なく、液体を飲んだ時以上の覚悟を決めて、サーペントの体を口の中へ……うん、味や食感などに関しては、あまり深く考えない方がいいと言っておこう。
ワインや薬味に漬けているせいらしいけど、ブヨブヨの脂身を生で食べたうえ、簡単に口の中に広がって行く感じや内臓っぽい苦み、臭みのあるまだ溶けだしていないサーペントの血のような水分など、どうしてこれが喜んで食べられるのか、疑問しか感じなかった。
ヘレーナさん辺りが知ったら、卒倒するんじゃないだろうか?
ともあれ、後から来る山椒のようなプリクリィの辛みと痺れが、唯一の救いだったとだけ言っておこう。
もしかして、お酒を先に飲んで痺れさせる事で食べられるようになるとか、かな……? やっぱり深くは考えない方が良さそうだ。
ともあれ、サーペント酒を飲んだ事で村長さん達だけでなく、俺を見ていた他の人達も盛り上がってくれたので、今まで以上に村へと溶け込むというか、馴染めている感覚が強くなった。
郷に入っては郷に従えというが、やっぱりの場所特有の親しまれている物を共有するのって、大事なのかもな。
そんな事を考えながら、村の人達のほとんどが楽しく過ごす宴会は進み、夜も更けて行った――。
―――――――――――――――
――アウズフムラの宴会から数日、村に馴染めている実感と共に、俺は一般での暮らしを満喫していた。
と言っても、驚くような暮らしに違いがある程ではないかな。
屋敷と違って、食事の支度も含めて基本的に自分達でやる事をやるというくらいで、独り暮らしを経験していればそこまで苦労はしない。
まぁ、水は井戸から汲んで溜めていたり、お風呂がないためタオルで体を拭くとか、そういう違いがあるくらいか。
あと、食料に関しては村の人達に分けてもらったり、狩りをして得る必要があるが、分けてもらう食料はラクトスで買うよりも安く、狩りでお肉を獲得すればなんと無料。
畑をやっている村だけあるという事だろう……お肉が欲しい場合は狩りをする以外にも、燻製肉はよく作られているので、そちらを買う事もできる。
燻製肉はフィリップさんお気に入りなので、毎食何かしらの手を加えて食卓に出ていたけど、こちらもデリアさんと一緒に狩りへ行ったら、必ずオークなりの成果があるおかげで、格安で譲ってもらえたりもした。
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