サーペント酒を勧められました
酔わない事だけでなく、俺の性格が原因なんだろうけど……皆と一緒に騒ぐよりは、楽しそうにしている皆を見ている方が性に合っているんだけどなぁ……。
なんて考えている俺を余所に、近くにいた村の女性を呼んで、新しいお酒を注がせる村長さん。
女性も酔っているのか、楽しそうに注いでいた。
まぁ、傍から見ているよりは、皆と一緒に騒いだ方が喜ばれるのはわかるけど……。
「えっと、このお酒って……」
注がれたお酒は、暗がりでもわかる程赤い。
しかも、注ぐ時に瓶からドボッと音を立てて、何かの塊も一緒に出て来ていた事から……サーペント酒だろう。
「もちろん、我が村自慢の酒、サーペント酒じゃ。ほら、お主の連れも飲んでおるぞ?」
「……いや、フィリップさんはもう慣れているでしょうし……あ、ニコラさんも飲んでいるんですね」
これまで勧められても避けていたお酒、サーペント酒……その名の通りサーペントがぶつ切りにされて、ワイン漬けにされているお酒だ。
さすがにこれはと、躊躇する俺に村長さんが示したのは、フィリップさんとニコラさんがいる方向。
そちらでは、楽しそうにお酒をかっくらうフィリップさんと、ちびちびとだがサーペント酒と思われる赤い液体を飲んでいるニコラさんの姿があった。
ニコラさんも避けていたはずなのになぁ……フィリップさんや村の人達から勧められて、仕方なく飲んでいるとかだろうか? 俺がサーペントの毒に効く薬草を渡しているのもあるかもしれない。
「ほれ、お主も酒を飲んでこの宴会を楽しむんじゃ」
「あー、えっと……」
ワインならともかく、サーペントという蛇の魔物の一部が入っているお酒だから、見た目がちょっと……。
味の方はわからないけど、それでもやっぱり躊躇してしまう。
蛇嫌いとは言わないけど、飲んだら痺れると言うし、毒が入っていると思われる物を飲むのはなぁ……せめてサーペントのぶつ切りになった体を一緒に注がないで欲しかった。
「なんじゃ、こんな村で作った酒なんぞ飲めないというのか? まぁ、漬けているワイン自体は、別に村で造っているわけじゃないがの」
「いや、そんなつもりはないんですが……」
村長さんは、悲しむように目を伏せているけど、それが俺にサーペント酒を飲ませるための演技だというのはわかっている。
わかっているけど……ここまで言われてしまうと、飲まなきゃいけない気になってしまう。
……むぅ、そうだな、魔物との命のやり取りだなんだってのも考えていたんだし、それを利用した物を毛嫌いして味見すらしないというのは違うよな、多分。
大分村長さんの押しに負けているせいな気もするけれど、せめて目の前に注がれた一杯くらい……一口飲むくらい……いや、舐めて味見をするくらいは……。
「わ、わかりました……飲ませて頂きます」
「おぉそうじゃ。それでこそじゃぞ!」
脳内ですら、段々と弱気になっていく自分を自覚したが、意を決して飲む事を決める。
村長さんはすぐに囃し立てるように言って来るが、やっぱりさっきの悲しそうな様子は演技だったんだな、わかっていたけど。
ともかく、躊躇していたら見た目のせいでどんどん飲まない方法を考えてしまいそうなので、決めた勢いのままサーペント酒の注がれたガラスコップを掴んで持ち上げた。
せめて、入れ物がガラス製じゃなくて外から中身の見えない物だったらなぁ……透明度がワイングラス程じゃないだけいいけど、しっかりサーペントの体がワインの中で漂っているのが見えるし。
まぁ、顔の部分じゃないだけマシだと思おう。
「いきます……! んっ……ゴクッ!」
持ち上げたコップを口元に持って行き、口を付けると同時に目を閉じて、液体を流し込む。
味わう余裕はないので、飲み会などで無理矢理ビールを飲むような飲み方になってしまったが、喉越しは全く違う。
「う……舌と喉が痺れる……」
「サーペント酒は特別じゃからの。その痺れる感覚が、癖になるんじゃ」
「……そうなんでしょうか?」
まだ飲み慣れていないからかもしれないけど、口の中を通って飲み込んだサーペント酒、それが通った部分が熱さを伴いながら痺れていく。
熱さはアルコールのせいだろうけど、この痺れる感覚はお酒を飲むのに正しいのか疑問だ。
ちなみに、喉越しは他のワインと違って少しどろりとした感触なのは、サーペントの成分などのせいだろう……味の方は、すぐに飲み込んだがそれでも苦みが強いように感じる。
少しだけ、ピリッとした辛さも感じたが、それを味わう余裕なんて俺にはない。
ランジ村のワインのような甘みはなく、一口だけだが美味しさというのはあまり感じなかったので、村長さんの言う通り本当に痺れるという感覚を楽しむ物なんだろう。
ビールも、味というより喉越しを楽しむ物っていう人もいるから、それに近いかも?
「でも、サーペントの毒で痺れるお酒を、いつも飲むというのはどうにも……」
「はて? 何を言うておるんじゃ? 痺れるのはサーペントの毒ではないぞ?」
「え、でも……サーペントは痺れ毒があるって……。それに、ぶつ切りにしてそのまま入っていますし……実際に痺れています」
痺れるのが癖になると言っても、毒が原因だと思えば見た目の悪さ以上に忌避感がある。
そう思って痺れる舌を動かしながら、村長さんに抗議するように言ったんだけど……毒のせいじゃなかったら、なんで痺れているんだろう?
「痺れるのは、サーペントと一緒に入れる薬味のせいじゃな」
「薬味? わざわざ別の何かも入れているんですか?」
「うむ。まぁ、本当にサーペントの毒じゃったら、村の者達も喜んで飲まんわい。デリアに聞かなかったかの?」
「いえ、聞いていませんけど……」
サーペントと一緒に、別の薬味を入れている事で飲んだ際に痺れる効果になっている、と村長さん。
デリアさんからは、サーペントをぶつ切りにした物をワインに漬けて、それを好んで飲むくらいしか聞いていなかったけど、他にも一緒に入れている物があるらしい。
その薬味の効果が痺れる感覚なのだとしたら、わざわざサーペントを入れたりする必要性って……。
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