村長さんからお礼を言われました
「それを言われるとな……だが、別にこの傷跡も悪さをしていてとか、箔が付くようなものじゃないんだが……」
親方さん自身、自分の人相の事は自覚しているようで、デリアさんから言われて少し落ち込んだ様子。
というか、あの傷跡ってどうしてできたものなんだろう? 木こりだから、森の中で魔物に襲われてとかかな?
「確か親方が子供の頃、森の近くで遊んでいたら転んで、近くにあったまだ処理する前の木に当たったから……だっけ? 私が拾われる前の事だから、聞いた話だけど」
「まぁ……簡単に言うとそうだな。正しくは……」
デリアさんが拾われるより前、子供だった頃の親方さんが転んだ事が原因らしいが、ばつが悪そうに詳しく話す親方さんの話を盗み聞いて何とも言えない気分になった。
なんでも、枝葉などの処理を済ませる前、伐り倒しただけの状態の木の近くで木こりさん達に見守られながら、他の子供達と遊んでいたらしいんだが……。
その時、足が絡まって転んだ親方さんは、慌てて手を付こうとしたらしいが、その際に手を付こうとした先に切り株があったらしい。
その切り株には新しい木の芽が出ており、それを潰してはいけないと咄嗟に判断した親方さんが身をよじると、その先には地面に立てかけてあった斧が……さすがにそれに当たって自分へ倒れ掛かられたら危険と感じたらしく、付こうと思っていた手を咄嗟に斧の立てかけてある木に伸ばした。
咄嗟の事で思い切りやった事で、体が反動で別の方向へ行ったらしく、この時起き上がれたら良かったらしいが、それも難しく思わぬ勢いが付いて倒れていた木にぶつかったんだそうだ。
その時、枝が頬をかすめてそれなりの怪我を負ってしまい、傷跡が残るくらいになったとか……目に当たったりしなかったのは幸運だったんだろうけど、なんだろうこのピタゴラスイッチ感は……。
ロエのような薬草がないために、傷跡が残ってしまったんだろうけど、確かに箔が付くような傷跡じゃないな。
名誉の負傷なんて言えないし、ばつが悪そうに話す理由がわかった……。
「今なら、ロエで傷跡も残らず治せるだろうけど……というか、跡になっている状態でもロエって効果があるんだろうか?」
「タクミさんや、楽しくやっているかい?」
「あぁ、村長さん。はい、皆が騒いでいる様子を楽しく見させてもらっていますよ」
ロエの効果を考えつつ、デリアさんや親方さんの様子だけでなく、それぞれでお酒を飲んだりお肉を美味しそうに食べたりする、村の人達の様子を見ながら楽しんでいると、いつの間に近くに来ていた村長さんに話し掛けられた。
俺の知っている神社とかのお祭りより人は少ないが、それでも皆が皆楽しそうにしている姿は、見ている方も楽しめる。
まぁ、一部言い合いをしているお爺さんとお婆さんもいるけど……それも、お互い楽しんでやっているんだろう。
そう思えるのは、この村に馴染んできていると言えるのかもしれない。
「そうかそうか、それは良かった。村で唯一の楽しみだからなぁ……それはそうと、デリアに頼んだ薬草探し、協力してくれて助かったよ」
「いえいえ、助けになったのなら良かったです。まぁ、森にも慣れている様子だったので、デリアさんを手伝う必要があったかは微妙ですけど」
嬉しそうに頷く村長さんだけど、他にも何か村特有かどうかはともかく、楽しみはあるんじゃないだろうか?
それこそ、苦労して育てた作物を収穫するだとか、伐り倒した木を木材にして出荷する時だとか……仕事の達成感というのはあるだろうし、それ以外にも何かありそうなもんだけど。
そう思いながら、デリアさんから聞いたのか、俺が薬草探しを手伝ったお礼を言われたので、『雑草栽培』の事には触れずに答えておく。
「ふむ……やはり、手伝っておったのか。デリアが持ってきた薬草は、頼んだ物とは別の物もあったし、すぐに使用できるようにもされておったから、村の者以外の手助けがあったのはわかっておったがの」
「あ……あははは、まぁ、そうです、はい」
片目を閉じて俺を見る村長さんは、どうやらいつもとは違う薬草採取の成果に、俺が協力したのだろうとかまをかけただけだったらしい。
確かに、デリアさんは俺が手伝った事を村長さんに伝えたとは言ってなかったなぁ……しくじった。
例が少なすぎて、『雑草栽培』とかギフトだと思われる事はなさそうだけど、それでも変に思われてしまうのは避けたいのに、鋭いと注意していたはずの村長さんの前で油断していた。
これも、お酒のせいだろうか……いや、相変わらず全く酔わないけど。
「まぁ、あまり気まずそうにするものでもない。ただ感謝を伝えたかったのじゃよ。デリアに温めるための薬草と、助言をくれたのじゃろ? おかげで、多少痛みはあるがこうして外に出られておるんじゃ」
「……役に立ったのなら良かったです」
そういえば、先日話した時の村長さんは起き上がるのも一苦労な感じだったけど、今は杖を突きながらではあるが、一応一人で立っている。
もしかしたら、元々それくらいはなんとかできるくらいに回復していた可能性もあるが、多少なりとも楽になれたのなら嬉しい。
それはともかく、これまでやってなかった事を急にデリアさんから言い出したんだから、かまをかけなくても村の外から来た俺達の誰かが助言したって、すぐに気付くか。
油断していなくても結局バレる事だったらしい……。
「ありがとうの、村の者達からもお主が来た事を喜ぶ声が上がっておるよ」
「はい……んぐっ……」
「ほっほ、照れ隠しかのう?」
改めて、村長さんからお礼を言われ、短く返事をして持っていたエールをグイっと飲み干した。
じんわりと村に馴染めている実感を感じて、体の中が暖かくなるような感覚があるけど、照れとかではなくお酒が原因だとしておこう。
……やっぱり酔わないけど。
「どれ、せっかくの機会なのじゃから、もっと飲んで騒いでも良いじゃろう。――おーい!」
「はいはーい!」
「あ、いやそんな……俺は皆を見ているだけでも楽しいので、騒いだりは……あ……」
「そんな事を言わず、飲んで騒いだ方が村の者達も喜ぶからの」
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