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901/1998

デリアさんは情報の整理が追いつかないようでした



「一応、森の中に入るので、汗や汚れを拭うための使い古した……いえ、使い捨ての布なら持って来ています」

「じゃあ、それで……」


 面談の時の事を話しながら、ニコラさんに包む布がないか聞くと、雑巾とまではいわないが汚れてしまった時のために、いらなくなりそうな布を持って来てくれていたようだ。


 使い古したと言った後に言い直したのは、公爵家に仕えている身としての見栄なのかもしれない。

 公爵家の人間が、使い古した物を何度も洗い直して使っている、というのは外聞が悪いのかな?

 もったいない精神が染みついている、庶民の俺からは、好感が持てるくらいなんだけど……貴族関係者には、見栄も必要って事なのかも。


「……えっと、これはこっちで、これは……と、よし。デリアさん、これを村長さんに」


 ササッと、『雑草栽培』でラモギモドキとイヌホツキを状態変化させ、いつでも使用できる状態にする。

 ニコラさんから受け取った使い古し……使い捨ての布は、ちゃんと洗ってあって清潔なので、そのまま使えるように薬草を包み込む、というより染み込ませた。

 薬草は両方とも、磨り潰した状態になって水分量が多目だったので、布に包んで余った部分は切れば、村長さんの腰にそのまま使えるだろう。


「はい、わかりました……けど、今更に不思議な現象を見た気がするんですけど……?」

「あぁ、俺の『雑草栽培』は、薬草を使用できる最適な状態にする事もできるんだよ。だから、一瞬で乾燥させたり、磨り潰した状態にするのもできるってわけ」

「はぁ……そうなんですか……はぁ……うーん……?」


 目の前で状態変化を見て、さらに不思議顔というか微妙な表情になったデリアさんだけど、こういうもんだと思って納得して欲しい。

 簡単に説明しつつ、デリアさんに渡した薬草湿布で、用が終わったと村への帰路に就いた。

 途中、デリアさんは何度も目をグルグルしながら、頭の整理をしていたようだ。

 尻尾や耳は力なく垂れ下がっていて、狩りをする時の元気がなくなっていたので、もう少し順序を経て説明した方が良かったかな? と申し訳なくも思った。

 でもまぁ、薬草という事だったし、他に人がいなかったので教えるのにちょうど良かったんだよなぁ――。



 ――薬草を持って、デリアさんと共に村へと戻ると、そこでは広場に多くの人達が集まっていた。

 広場の中心に向かって輪になっているから、おそらくそこにアウズフムラを運んだんだろう。


「お、デリア。早かったじゃないか。村長からの頼まれ事は、もう済んだのか?」

「え、あ、うん。まぁ、なんとか……?」

「あん、はっきりしねぇなぁ?」

「デリアさんデリアさん、ちゃんと薬草を採ってきた事を言わないと」

「あ、はい!――大丈夫、薬草は採ってきたから……えっと、村長に届けて来るね!」

「おう!」


 俺達が戻った事に気付いた、木こりさんの一人に声をかけられたが、デリアさんはまだ軽い放心状態というか……頭の中を整理中だったらしく、よくわからない返事をする。

 やっぱり、村に戻るまでに整理できなかったかぁ……仕方ないよな。

 そう思いながら、デリアさんに声をかけるとハッとなって、一応の返答をしてすぐに村長さんの家へと向かった。

 少し慌ただしい感じだったけど、なんとかなったかな? しかし、村に来て初めて見る数の人達が集まっているなぁ……それだけ、アウズフムラを狩れたのは喜ばしい事なんだろう。


「あんちゃん達は、こっちか?」

「えぇ。薬草はデリアさんが頼まれた事ですし、こちらにも興味がありますから。って、もうアウズフムラは捌いたんですか?」

「まぁ、運び込んだらすぐ捌いておかねぇとな。見れなくて残念かもしれないが、親方が捌くのは中々見ごたえがあったぞ!」

「そ、そうですか。それは残念です」


 デリアさんを見送って俺達が残る事を、木こりさんに聞かれるが、薬草というか湿布薬はでき上がっているので俺が行く必要はないからな。

 アウズフムラがどうなったのかも気になるし、ここに残る事を伝えた。

 ただ、親方さんが既にアウズフムラを大方捌いたようで、人の輪の隙間から見えるのは、骨だけだった。

 とりあえず口では残念がっておくけど、実際は少しだけホッとしている……狩る事に関してや、魔物と対峙する覚悟みたいなものが必要、とかなんとか考えておきながら情けないが、生き物を捌く瞬間を見なくて良かったと思ってしまう。


 オークを捌くレオとかを見ているから、かなり慣れてきているはずだし、食べる直前のお肉になった状態ならなんともないんだがなぁ……。

 積極的に魔物と戦いに行くわけではないけど、これから追々慣れて行かなきゃなと反省はしておく。


「お、そっちにいるのは客人のあんちゃんか! おーい皆、このタクミ達がアウズフムラを狩ったんだ! 村で歓迎してやれ! まぁ、大体はデリアが追い立てていたが……」

「ど、どうもー」


 アウズフムラを捌いていたらしい親方が、大きな鉈にも見える刃物を持ちながら、俺達に気付いて輪の中心から大きな声で俺を紹介。

 俺達は止めを刺しただけだし、ほとんどデリアさんのお手柄だと思うんだけど、今はいないので代わりに片手を後頭部に当てながら頭を下げる。

 村の人達に挨拶、という事なんだけど……数十人はいそうな人達が一斉にこちらへ振り向いたのは、ちょっと迫力があって怖かった。

 まぁ、屋敷の使用人さん達の送り迎えで、視線が集まるのに慣れていたおかげで、臆せず挨拶できたのかも。


「親方、こっちはもう既に知ってるよ! デリアも懐いていて、子供達とも遊んでくれたし、随分見込みのある若者だよ!」

「そうじゃぞー。親方の方が後に会ったんじゃから、偉そうに紹介するでないわい!」

「な、なんだ……タクミ達は既に爺さん婆さんとは会っていたのか……」

「あははは、まぁ……昨日は畑も見に行ったので、農作業をしている人達にも会っていますね。さすがに全員ではないですけど……あ、どうもー」


 俺達を振り向いた人達、というより集まっている人達の多くは昨日一昨日と、何度か話した事のあるお爺さんお婆さんが多い。

 なので、既に俺を知っていると、むしろ今更だと親方さんが野次を飛ばされていた……まぁ、わりと村の人達が元気で勢いのある声が飛び交うのが、この村の特色と言えるのかもしれない。

 親方へと近付きながら、自分からの紹介とできなくて残念そうに呟いていたので、苦笑。

 ついでに、昨日会った農作業をしていた人達もいたので、そちらにも挨拶をしておいた――。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


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[一言] 更新有り難う御座います。 ……まぁ、いきなり草が生えればねぇ?
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