狩りが開始しました
「つまり、デリアさんに手伝ってもらうと、魔物が多く見つかって狩りの成果が多くなるからって事ですか……」
「そういうこった。デリアがいる時に限ってだから、俺達は狩り運と呼んでいる」
それはなんというか、何者かの作為を感じてしまうのは、俺が穿った考え方をしているからだろうか?
いや、誰かが何かを仕掛けている……という痕跡が見つかっていないのだから、本当に偶然でデリアさんの運がいいだけなのかもしれないが。
「タクミ殿……」
「うん、わかってる。一応、気を付けるよ」
親方さんを始め、俺達以外の木こりさん達は「またデリアの狩り運が出たかぁ」とか、「これでしばらくはご馳走が続くな」なんて言っている様子から、変な疑いを呈する雰囲気じゃない。
そんな中、ニコラさんがこちらを真剣な様子で見て小さな声で呼びかけられたので、頷く。
フィリップさんもこちらを見ているけど、あっちもニコラさんと同じ事を考えているようだ。
護衛としての訓練をした二人なので、俺と同じ考えはあるだろうし、森の中ではちょっとした異変も警戒するようにしているからだろう。
楽観的に物事を考えるだけじゃ、護衛として働けないだろうからな。
俺も、自分の感じた違和感を信じる事にして、もし何かがあった時に動けるよう、気を抜かないように引き締めた――。
「そりゃあ!」
「ブモッ!?」
「デリアちゃん、そっちに行ったぞー!」
「はーい、お任せあれー!」
数種類の魔物の痕跡を発見し、一応の警戒をしながらデリアさんが聞いたという音がした方へ行くと、アウズフムラと思われる魔物を発見した。
その姿は、大きくて黒い牛そのままで、確かに巨体に似合わず突進の速度や勢いは凄まじいの一言……そんな突進を軽々と避けたうえ、追い付いてナイフで斬りかかるデリアさんも相当なものだが。
……俺にはできそうにない、というか避けるだけならまだしも、木々の合間を縫って追いかける速度は人間には出せそうにないなぁ。
ちなみに、足跡を発見したオークはアウズフムラと遭遇したのか、突進を受けた様子で木に叩きつけられているのを発見した。
そちらはアウズフムラに対応している木こりさんとは別の人が、止めを刺したり回収したりとしている。
目的はアウズフムラでも、食料になるのだからきっちり持って帰るようだ。
「周囲に魔物はいなさそうですし、俺達の出番はなさそうだな」
「ですな。しかし、見事にアウズフムラに追い付いて、的確に足を狙っています」
「アウズフムラの方が、木々に遮られて逃げづらそうにしている、かな? デリアさんは、邪魔にも思っていない動きに見えるけど」
デリアさんや親方さん達がアウズフムラを狩る様子を、フィリップさんやニコラさんと一緒に見守りながら、感心する。
サーペントは先にオークと戦っていたのか、体に巻き付いているようで向こうも大丈夫そうだし、デリアさんの方は着々とアウズフムラを追い込んでいるので、俺達が何かをする必要はなさそうだ。
親方さんを始めとした木こりさん達が、斧やらのこぎりを適当に振り回してアウズフムラを驚かし、逃げた先にデリアさんが待ち構えて突進を避けながらナイフで足を斬りつけたり、すれ違った後に追いすがったりと、慣れている様子。
サーペントの毒で動きが鈍っていたりはしなかったけど、段々と動きが遅くなっているし、狩られるのも時間の問題だろう。
アウズフムラは馬で走るくらいの速度を突進で出しているが、体が大きいのもあって、木々を器用に避けているようでも時折速度を落としている……それでも、人間が走るよりは早く見えるから、オークよりも器用なんだろう。
しかしデリアさんは、木々の隙間を軽々と抜けて速度を落とす事もないようで……これは、体格差が如実に出ていると言っていいかもしれない。
森の中に慣れている様子なのも大きいか。
「そろそろ、足が止まりそうだな」
「あれだけ斬られたら、当然ですね。デリアさんが持つナイフが斬れ味の鋭い物だったら、もっと早く終わっていたでしょう」
フィリップさんとニコラさんの二人は、鈍ってきたアウズフムラを見て狩りの終わりを悟ったようだ。
ちなみにデリアさんの持っているナイフは、後ろの腰に取り付けていたんだけど、リーザの持っているグルカナイフっぽい物よりも大型で、おおよそ小柄なデリアさんには似合っていないように見える。
まぁ、似合っていなくとも使いこなしているようだからいいんだけど。
ともかく、そのナイフは刃がギザギザになっていて、斬れ味というよりも斬った時に痛みを多く与えるためなのかもしれない。
サバイバルナイフとか、軍用のアーミナイフと言えば簡単に想像ができそうだが……俺が知っている物との違いは真っ直ぐなストレートの刃がなく、本来のエッジ部分がギザギザになっている。
確かセレーションっていったかな? 繊維質の物を切るのに使用するのが本来だったと思うが、直刃より切断するのには向いていはず。
でも、その刃の効果からか、斬りつけられたアウズフムラの足はいたるところがズタズタになっており、血を流しているのに加えて痛みからか、段々と突進の速度が遅くなっていっている。
そろそろ、木こりさんも走れば追い付きそうな速度だ……デリアさん、結構やり方がエグい。
「……上手いな。一定方向にのみ走らせず、向きを変えるように正面に出たりもする」
「木々を使って邪魔もしているのでしょう。おそらく、自分も含めて森の奥に行ってしまわないようにと、他の者達も追い付けるように、でしょうな」
「これで訓練されていないんだから、獣人ってすごいなぁ」
アウズフムラの狩りは木こりさん達が複数で追い立て、逃げようと突進したアウズフムラの行き先に待ち構えていたデリアさんが、斬りつけてダメージを与えて行くというやり方だ。
好戦的ではなく臆病なんだろう、複数いるのもあって木こりさん達からは逃げようとするが、進んだ先にいるデリアさんに斬られたり追い付かれたり、さらに木々が邪魔して方向転換を余儀なくされている様子。
そのため、遠くへ離れていく事もなく、俺達がいる場所の周囲を回るように移動している。
狩りに慣れているんだろうな……あと、デリアさんが優秀過ぎるのか――。
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