アウズフムラの突進は強力なようでした
「ですが四足の力なのか、素早い動きからの勢いある体重を乗せた突進は、オーク以上です、タクミ殿」
「そういえば誰かが、アウズフムラを襲おうとしたトロルドが、簡単に弾き飛ばされていたって言ってたな」
「トロルドもですか? それはまた……」
ニコラさんに続いて、フィリップさんもアウズフムラの突進について教えてくれる。
トロルドって、三メートルくらいの巨体で怪力なのもさる事ながら、体重もかなりの物に見えるが、それを弾き飛ばすっていうのはどれだけの突進力があるのかと。
オークも相当な突進力があるけど、やっぱり四足だと直進する力が強いのかもしれない……あと体重もか。
「それでいて、結構簡単に方向転換したりするんですよね。まぁ、突進は避ければいいですし、方向転換する時は隙ができるのでチャンスでもあるんですけど」
「……それができるのって、かなり腕の立つ人じゃないと無理だったと思うが……」
「まぁ、某は先程子供達と遊ぶデリア殿を見ていたので、納得できます」
四足、巨体、勢いのある突進ときて、さらに小回りまで効くのは厄介だが、それも簡単に対処できるというようなデリアさん。
フィリップさんは見ていないから訝し気だが、ニコラさんは俺と一緒に子供の相手をするデリアさんを見ていたからな。
あの動きと、馬と同じような速度で走った事を合わせたら、少々小回りがきいたり素早い程度じゃ何ともないんだろう。
そりゃ、木こりの人達がデリアさんに手伝ってもらいたがるわけだ……。
「んー、デリアさん。明日のアウズフムラの狩りですけど、俺も参加してみてもいいですか?」
「「タクミ様!?」」
「フィリップ、ニコラ、素……というか、様が付いているよ?」
「……驚いたのでつい。けど、わざわざ魔物の狩りに参加しなくても……危険では?」
「申し訳ございませぬ。……ですが、御屋形様なら喜々として参加しそうではありますし、タクミ殿を巻き込みそうでもありますね」
「まぁ、旦那様ならアウズフムラくらい簡単に倒してしまうだろうからな。とは言ってもなぁ」
ふと思い立って、俺も参加できないかとデリアさんに聞いたんだが……デリアさんが反応を返す前に、フィリップさんとニコラさんが驚いていた。
そんなに驚く程かなぁ? まぁ、確かにわざわざ魔物の狩りに参加する必要はないのに、自ら危険に飛び込むような気がしたんだろうけど。
とりあえず、エッケンハルトさんとは違って面白そうだからという理由での参加ではないから、ニコラさんは変に納得しないように……まだ理由を説明していないから、仕方ないけど。
「タクミさん、どうして狩りに参加したいのですか? まだ会って時間は経っていませんけど、私が見るにタクミさんはどちらかというと、あまり好んで魔物を狩るような人に見えません」
二人で眉根を寄せて顔を見合わせ、何やら検討しているフィリップさん達はともかく、デリアさんからは真っ当な質問。
どちらかというと平和主義というか、戦わなくてもいいなら戦わない方を選ぶ性格だと、自分でも自覚しているけど……。
とりあえず、興味本位じゃない事だけは説明しておかないとな。
「木こりさん達とはまだ顔を合わせていないので、挨拶がてらという理由もあるね。それと、オーク以外を狩るのもやっておきたいというか……見ておきたいんだ」
「……興味本位ではないのは、タクミさんを見ていればわかりますし、木こりの親方達とはまだ顔を合わせていませんけど……」
畑で働く人達とは今日挨拶をしたけど、木こりの人達はタイミングが合わなくて、まだ顔を合わせてすらいない。
まぁ、絶対に挨拶しないといけないわけじゃないんだけど、色んな人や仕事を見ておきたいから、一度挨拶しておこうと思っていた……アウズフムラの事がなければ、自分から頼んで木を伐り出す作業を見せてもらおうとすら考えていたからな。
それとは別に、オーク以外の魔物ともちゃんと見ておかないといけないと思っている。
「その……トロルドを見た事くらいはあるけど、オーク以外ではそれだけなんだ。まぁ、デリアさんが捕まえていたサーペントは見たけど……で、魔物を見た事が少なかったり、種類を見た事がないから色々と見ておきたいと思ってね」
「街で暮らす人達は、オークすら生きて動いているのを、見た事がないという人が多いと思うぞ?」
「街には大体、魔物が入れないような壁と衛兵が守っていますからね。外に出なければ見た事がないのも当然です」
大まかに理由を説明すると、孤児だけどラクトスの街育ちの二人から突っ込みが入る。
街に魔物が入らないようにしているため、わざわざ外に出なければ魔物を見た事すらない人もいるらしい。
村とかだと、何かしらの魔物を見る事もあるのかもしれないけど、さすがに興味本位で魔物を見たいという人は少ないだろう……どんな事でも例外ってのはあるけど。
「でも、俺はオークと戦った事がある。剣の鍛錬の延長としてだけど、それでも魔物と戦った事があるから、他にも魔物を見ておかないとと思うんだ。あ、デリアさん達の邪魔はしないし、参加するというより見学しておきたいってだけだから」
狩りに参加と言っても、よそ者がいきなり加わったらチームワークを乱すだけだと思い、俺は邪魔しないよう見学するつもりだ。
魔物の事を詳しく知らないのに、俺が張り切ってもどう動いていいかもわからなければ、他の人達もどう連携したらいいのかもわからないだろう。
邪魔になるのはさすがに迷惑過ぎるからなぁ……なら、最初から言い出すなという事でもあるけど、なんとなくこれはやっておかないといけないと思った。
「まぁ、それくらいなら問題ないと思います。いざとなったら、私が守りますから」
「……それは、俺達の存在意義が薄れてしまうなぁ。デリアさん、俺達がタクミを守るから安心してくれ」
「そう言えば、お二人は護衛でしたね」
「だから、デリアさんはアウズフムラを狩るのに集中しても大丈夫だ。タクミの事は任せてくれ」
少し考えてデリアさんが承諾するように頷き、俺に怪我をさせないという決意を感じさせる視線を向けられた。
けどそれは、本来の護衛であるフィリップさん達に止められる。
まぁ、デリアさんは俺の事を気にせず、狩りに集中して欲しいからな――。
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