すり合わせが終了しました
「とりあえず注文として、樽を……ラクトスで買ったのと同じ数を下さい。ニャックは大きいままで大丈夫です。まぁ、大きい分数は少なくなるでしょうけど、量は変わらないでしょうから」
「了解した。大量注文だが、ラクトスでの事を考えると驚きは少ないな」
「あの時は、突然でしたからね……俺も驚きましたし」
樽の大きさは変わらないのに、ニャックは大きいのだから数としては少なくなるけど、結局中に入っている量は変わらないだろうから、前回と同じ分だけ買う事に決めた。
おそらく、屋敷での様子を考えるに、ここで買って運び込んでいるうちに前回買ったニャックはほとんど消費されているだろうからな。
頷くカナートさんは、クレアが買い占めに近い大量買いをした時よりは、驚いていないみたいだ……まぁ、あの時はまだニャックを初めて見たのに、大量に買う事をすぐに決めたのに驚いた、というのが大きいだろうけど。
「あと、残りや続けて作ったニャックを、定期的に屋敷の方へ持って来てくれるように、というのはできますか?」
「うーむ……そのあたりは、村の者達と相談だな。売る事自体は問題ないが、元々売っていなかった物を運んだり定期的にというのは、考えなきゃいけない事もある。だが、だから一度に全部買わなかったのか?」
「まぁ、そうですね。今あるニャックを全部買っても、すぐに食べられるわけじゃありませんから。それなら、分けて買った方がお互いやりやすいでしょうから」
保存が効く物だけど、一度に全部持ち帰ってもな……それに、この先もニャックをと考えたら、定期的に買った方がいいだろうから、分けて買おうと考えた。
その間に新しくニャックを作ってもらえるだろうし、定期的に売れるとなればニャック芋の畑を大きく、多く作るようにしてくれるかも、という期待もある。
場合によっては、ラクトスの方でも継続して売る事だってできるだろう……そのあたりは、俺じゃなく公爵家との折衝も必要かもしれないので、俺の領分じゃないけど。
「ともかく、定期的に売れる。そして公爵家との繋がりもできるので、今後売りやすくなったり村の人達も期待できるかなと思います」
「……色々考えているなぁ。俺や村長は、とりあえず今あるニャックが売れればとしか考えていなかったが……」
「さすがタクミさんですね!」
大半は屋敷の女性達からの期待が大きいため、継続して買えるようにした方がいいかなという考えだけど、商品としての価値があるとわかってもらえた方が、村としても生産しやすいだろうからな。
何も価値がないとか、売れるかもわからない物を、非常食だから仕方なく作っているよりは、価値があってちゃんと売れる事を示した方が品質が上がる事も期待できる。
まぁ、品質に関しては現状で大丈夫なので、無理せずこのままでいいんだけど。
ともあれ、作る側の人達が気持ち良く作れる環境は大事だから。
「そうだな……樽が六個になるか。ニャックが入る数と輸送する費用、樽も含めて……金貨五枚ってところだな」
「わかりました、金貨五枚ですね。……ちょっと、安くなってません?」
樽が六個で、輸送費その他の費用を足して金貨五枚と言うのは、俺が考えていたのより少し安い。
大体、樽一つにニャックを詰められる数と樽その物の値段、荷馬車での輸送費用を考えたら一個で金貨一枚くらいだと計算していたんだけど。
「よくわかるな……まぁ、大量に買ってくれるから、ほんの少しだけな。村の方は十分に利益はでるさ」
「ならいいんですけど」
「……通常なら、安くしてもらった方が喜ぶし、売る側の利益は気にしないもんだが」
お互いの信用があるから、相手側の利益を全く考えないと言うわけではないんだろうけど、通常の交渉だと自分達の利益を優先して考えるから、カナートさんが不思議そうにするのも無理はないかな。
ただ、俺が買うのは公爵家の屋敷へだから、村が無理をするような買い方は良くないし、クレア達もそうするだろうと考えている。
村にも利益が出るような形じゃないと、治めている公爵家が巡り巡って苦しむ事になるだろうしな。
「あ、輸送はラクトスの、カレスさんという人がいるお店に持って行ってください。公爵家の運営している店と聞けば、すぐにわかると思います」
「あぁ、以前そこに売ったニャックを持って行ったから、わかるぞ。……街までなら、もう少し値引きできると思うが……」
「いえ、そこは大丈夫です。あまり値引きされても申し訳ないですし、このままで」
カレスさんのお店に持って行けば、すぐに屋敷へと届けてくれるだろう。
セバスチャンさんから話は行っているはずだから、前回と同じくニックが屋敷に来るついでにでも、運び込んでくれるはずだ。
カナートさんは屋敷まで運ぶつもりだったようで、ラクトスまでなら距離が短くなった分値引きできると言ってくれたが、それは断っておいた。
あまり値引きされても、無理を言っているようで申し訳ないから。
「よし、それじゃこれでニャックの交渉は終わりだな。交渉と言えるのか怪しかったが」
お互い、安く売ると高く買うで通常考えられる交渉とはかけ離れていたし、売買が成立するのはわかっていた事だからな。
交渉と言うよりは、すり合わせとかそんな感じだ。
「定期的に売れるかどうかは、村長や村の者達と話してからになるが……まぁ否定的な意見は出ないだろう。元々売っていなかった物が売れて利益が出るわけだし、作る婆さん達にも仕事ができるからな」
「はい、よろしくお願いします」
「頭を下げるのは、俺の方だ。村にとって益となる話ばかりだ」
とりあえず定期的にニャックを買うのはまた後日という事で、買ったニャックの輸送や村長さん達との話し合いの事も含めて、頭を下げておいた。
カナートさんも同じくで、お互い頭を下げ合うちょっと不思議な光景になったけど。
その後は、輸送中や輸送後のニャックの保存に関しての話を聞く。
村から出す際に、樽に綺麗な水で満たして蓋をするので、それだけでしばらく保存できるが、念のため受け取ったら水の交換をした方がいいだろうという事。
そのあたりは、前回買った時も同様だったので大丈夫だろう。
あと、フィリップさんがまた運び込む担当にされるだろうと予想してげんなりしていたり、子供達の相手をしなかった分そちらで働くべきと、ニコラさんが妙ににこやかな表情をしていたくらいかな――。
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