食べられる限界に挑む事になりました
「おぉ、こっちのはイケるクチじゃのー!」
「ははははは! もっと飲めますよー!」
「フィリップ殿、それ以上は……」
「大丈夫だって、ニコラ。ノッているように見せかけて、実は量を飲まないようにしているんだから」
「はぁ……それならいいのですが。ですが、もし飲み過ぎて色々忘れてタクミ殿や周囲に迷惑をかけるようなら、セバスチャン殿に報告します」
「うっ! ま、まぁ、程々にするさ、うん」
他方、フィリップさんはお爺さん達から勧められるままに、蛇酒を飲んでいた。
飲み過ぎを注意するニコラさんがセバスチャンさんの名前を出した事で、体を一瞬だけビクッとさせるフィリップさん。
本当に大丈夫かどうか心配だが、こちらはこちらで料理を勧めるお婆さん達の対応をしないといけないので、ニコラさんに任せよう。
今も、フィリップさんの方へよそ見をしている間に、座っている俺の前のテーブルに、燻製肉の塊や野菜と肉を一緒に煮込んだスープなどが、次々と置かれているから。
……フードファイターじゃないが、お腹の容量の限界に挑戦しないといけない時が来たのかもしれない――。
「うっぷ……限界を超えた気がする」
「大丈夫ですか、タクミさん。すみません、お婆ちゃん達が大量の食べ物を持ってきてしまって……止められませんでした」
「ははは、まぁ、好意でしてくれるんだから、気にしていないよ。もう少し控えめにして欲しかったけど……うぅ……」
お腹を手でさすりながら、戻ってきた家の居間で椅子に座って、込みあがって来る物を堪える。
デリアさんは、料理を次から次へと持って来るお婆さん達を止められず、申し訳なさそうにしているけど、好意を無碍にできないからと食べ続けた俺にも原因があるので、気にしないで欲しい。
食べ過ぎで腹痛になる以前に、胃の容量と消化速度の限界により、お昼を食べさせてもらったお礼もそこそこに家へ戻ってきている。
結局、全部は食べられなかったなぁ……というより、あのお婆さん達は村に来た人を肥えさせる趣味もあるんだろうか? と次々と出される料理を思い出して不思議に感じた。
「タクミ殿、一度吐いてしまえば楽になれると思いますよ?」
「いや、さすがにそれは……お酒を飲み過ぎたとかなら、やるかもしないけど。はふぅ……」
フィリップさんの様子を見ていたため、食べ過ぎたりはしなかったニコラさんに、胃の中の物を吐き出すよう言われるけど……せっかく好意でご馳走してもらった物を、吐き出して無駄にするのはしたくない。
どうしても苦しいならともかく、少し安静にしていれば、なんとか大丈夫そうだからな。
お酒で気持ち悪くなって、というのなら何度も経験はあるけど、俺が料理を食べていた時のお婆さん達の嬉しそうな笑顔を思い出すと、同じ事はできないから。
仕事の飲み会で上司に付き合わされて、ひたすらビールを飲まされた時はトイレに駆け込んだりもしたっけなぁ……。
「お酒を吐くだなんてもったいない! いくら飲み過ぎて辛くても……翌日の訓練に支障が出たとしても、吐き出す事はしません……よぉ……っとっと……」
「フィリップさんも無理はせず、おとなしくしていて下さい」
フィリップさんが抗議するように、お酒を吐き出すのはもったいないと主張し、座っていた椅子から立ち上がるが、すぐにふらふらして座り直していた。
こちらは飲み過ぎという程ではないみたいだけど、酔いが回って足下がおぼつかないので、安静にしている状態だ……意地でも戻したりはしないようなので、酔いがさめるまでこのままにしておこう。
ちなみに、横になればと提案しようと思ったけど、それはそれでもし逆流した時に寝ていたら危険なので、椅子に座らせている……喉に詰まらせたら危険だからな。
「もう少し村の中を見て回りたかったけど、さすがに少し休憩した方が良さそうだなぁ」
「そうですね、無理は良くないです。私は、もう少ししたら子供達の相手をしに行かないといけませんが……断って来ましょうか?」
「いや、大丈夫。看病しないといけない程じゃないだろうし、少し経ったら平気になるよ。でも、子供達の相手って?」
お昼を食べた後は、また村の中を見て回りながら、暮らす人達がどう過ごしているのか見ようと考えていたんだけど、今は歩くのもしんどいので、少し休む方がいいだろう。
さすがに付きっきりで見ていないといけない、というわけでもないので、デリアさんにやる事があるならそちらを優先して欲しい。
子供達の相手って、何をするのか知らないけど……そういえば、まだ村に来てここの子供達とは接していなかったなぁ。
「そろそろお勉強が終わる時間なので。私の時もそうでしたけど、村のお爺ちゃんやお婆ちゃん。その他にも畑や森に行かない人が、子供達の面倒を見るようになっているんです」
「村の子供は皆の子供、みたいな感じかな? さっきのフィリップさんを見ていると、子供達にもお酒を飲まそうとするお爺さんがいそうだけど……」
「ですです。時折、子供にもお酒を勧めるお爺ちゃんはいますけど、さすがに他のお爺ちゃんやお婆ちゃんに止められます。まぁ、そのお爺ちゃんも冗談でやっているようですけどね」
「いるんだ……まぁ、本当に飲ませるわけじゃないなら、いいのかな?」
子供達は、働きに村の外へ行く親達がいない間、村に残った人達で勉強を教えたり面倒を見たりしているらしい。
デリアさんに詳しく聞くと、親達を見送った後は昼まで子供達を集めて勉強をさせているとの事……ここで読み書きを習ったりするらしく、デリアさんも昔そうして教えられたそうだ。
昼は戻ってきた親達がいればその子供は自宅で、それ以外の子供達は勉強をしているところで用意されている物を食べると。
料理は村に残った人達が協力して持ち回りで作っているらしい……給食に近いのかもな。
昼食後はまた少し勉強をして、終われば広場などで多くの子供達が集まって遊ぶらしい。
毎日ではないが、そこにデリアさんが加わって一緒に遊んで子供達の相手をしているようだ……放課後、友達と一緒に遊ぶような感じで、小学校に通っている子供達といった感じだろうな。
厳密に学校というわけではないだろうけど、ブレイユ村ではそうして子供達の教育がなされているようだ――。
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