村長さんの家を訪ねました
「ははは! デリアが昔やった言い間違えでな? それ以来、デリアはブタさんで通っているんだ。最近じゃ恥ずかしがって、あまり言わないようになったが……油断したな?」
「ちょっとカナートおじさん、やめて! タクミさんの前でなんて事を言うの! って、私がつい言っちゃったせいだ……あぁぁぁ……」
「えっと、デリアさん? まぁ、可愛い言い間違いというか、恥ずかしくはないから大丈夫だよ、うん……」
「移動は、少し先になりそうだな」
「そうですな。村の雰囲気と同じく、のんびりしていて良い事です」
笑いながら、からかうように言うカナートさんに、慌てるデリアさん。
結局、自分の言い間違えや思わず呟いてしまった事が原因と悟って、手で顔を覆ってしゃがみ込んでしまった。
尻尾は垂れ下がって地面に付き、耳もペタンと閉じてしまっているので、結構な落ち込みようだ。
いい恰好をしたいというか、ここまでのデリアさんの行動から、褒められるための行動をしているような気がしたから、余計に失敗した気分なんだろう。
後ろで楽しそうに見ているフィリップさんとニコラさんの視線を感じつつ、頭を撫でてデリアさんをしばらく励ます事になった。
両手で耳を解すようにしてやると、レオやリーザのように尻尾をぶんぶん振って、喜んでいるのがはっきり伝わって来たので、カナートさんが爆笑していたけど。
村長に会いに行くだけだったはずなのに、デリアさんが落ち込む事態になるとは思わなかったなぁ――。
「失礼します。村長、お客さんを連れて来ましたよー」
「失礼します……」
落ち込んだデリアさんを励まし、カナートさんも含めた二人で村長宅に案内され、安静にしている村長の寝室へ声をかけながら入る。
村長宅は、ランジ村のハンネスさんの家よりも少し大きめで、部屋数もそれなりにあるみたいだ。
家の中では、村長さんの奥さんや息子夫婦がいて、そちらには既に挨拶している……動けないながらも村長が暇をしているので、相手をしてやって欲しいと言われてしまった。
……挨拶するだけのつもりなんだけどなぁ。
「おぉ、おぉ。デリアや、相変わらず元気そうじゃのう。お客人も、よくブレイユ村に来なさった」
「あ、村長。無理して体を起こさなくてもいいですから。安静にしてなきゃいけないんでしょ?」
「しかし、寝たままではお客人に失礼ではないかの?」
「あぁ、大丈夫です。事情も聞いていますし、そのままでも気にしませんから」
「無様な姿で申し訳ないが、ありがたいのう……」
寝室のベッドで寝たままの状態になっている村長さんは、顔だけを動かしてデリアさんや俺達を歓迎してくれる。
デリアさんを見る目が優しく見えるので、この村で可愛がられて育ったんだなというのがよくわかる。
村長さんは、ランジ村のハンネスさんより少し若いくらいに見えるが、腰が悪いからか、話し方のせいなのか弱々しい印象を受ける……年齢の割に、ハンネスさんが馬に乗って屋敷に来たりと、元気な印象があるせいかもしれないけど。
俺達を見て体を起こそうとする村長さんに、デリアさんが近付いて起き上がらないように手を添えていた。
ぎっくり腰に似たような状態らしいから、話は聞いていたし無理はよくないと、申し訳なさそうにする村長さんに寝たままで大丈夫だと伝える。
寝たままでデリアさんに目を細める優しそうな村長さんに、俺やフィリップさん達がそれぞれ自己紹介、村長さんも同じく簡単な自己紹介を済ませた。
……村長さんの名前はヤネサフカ、年齢は俺が見た印象通りハンネスさんより少し下のようで、温和な印象とデリアさんにはすごく甘く接している印象かな。
「では、俺達は外で待っています」
お互いに自己紹介が終わった後、フィリップさん達は外にいるカナートさんと合流するため家の外へ。
デリアさんはフィリップさん達を外へ案内するのと、村長や俺のお茶を用意するために息子さん達の所へ向かった。
まぁ、お互いの挨拶が済んだと言っても、来たばかりの客が村長宅を勝手に歩くわけにもいかないからな。
俺は、村長さんともう少し話すため、一人で部屋に残った。
「すまんのう、客人にこんな老人の相手をさせてしまって……いててて……」
「あ、無理に体を起こさなくても……!」
「いやいや、デリアや客人……タクミが気にしないと言っても、寝たままで話すのはどうにも落ち着かんのじゃ。すまんが、手を貸してくれるかの?」
「……はい」
デリアさんさん達が部屋を出てすぐ、また起き上がろうとするヤネサフカさん……呼び方は村長でいいと言われたので、村長のままでいいか。
痛みに顔をしかめているので、やっぱり動かすと腰が痛むようだし、慌てて無理をしないように止めたんだけど村長さんは寝たままで話すのが嫌なようで、俺が背中を支えてゆっくりと体を起こす。
立ち上がったり椅子に座るまではいかないが、ベッドの端、壁に背中を持たれるようにして、少し体をずらしたりと、ようやく腰が痛まない体勢に落ち着いた。
「さて……タクミ。この村に来た目的は、デリアかの? 確か、ラクトスで知り合ったと聞いたのじゃが」
「え、いや……デリアさんが目的というわけでは……ラクトスで知り合ったのは本当ですけど」
こちらを真っ直ぐに見て、村長さんから問いかけられるのに答える。
デリアさんが目的って……直球で聞かれるのは、男だから警戒しているとかかな? 村長さん、デリアさんの事を凄く可愛がっている様子だったし……。
ともあれ、はっきりとした目的は話せないけど、嘘にならない程度にブレイユ村へ来た理由を説明、これは事前にセバスチャンさんと話し合いをしていた。
「ふむ……嘘ではないが、真実でもない……といったところかの?」
「え、いや……」
「誤魔化さんでええ。まぁ、デリアが懐いているようじゃから、悪い人間じゃないのはわかるがの。ワシも村を任される村長をやっておる。村への来客は珍しいがないわけでもないし、人を見るのには慣れておるんじゃよ。……そろそろ、息子夫婦に村の事を任せようと考えておるがの」
村長さんは、さらに眼光鋭く俺を見つめて何かを見極めようとしているみたいだ。
エッケンハルトさんと初めて話した頃に、同じような事があったなぁ……村長さんは鋭い目つきになっているけど、エッケンハルトさんと比べたら迫力は劣る。
……腰が悪いせいで迫力が出せないのかもしれないけど。
ともかく、俺が話した事が真実ではないと見抜いてはいるけど、デリアさんが歓迎してくれている様子から、悪い方向では考えていないのが、救いかな――。
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