デリアさんが食べ物を持って来てくれました
「狭くて悪いが、快適に整えた宿じゃないからな。できれば我慢して欲しい」
「いえ、これで十分です」
「寝泊まりできるだけでも、ありがたい」
「外で寝るのも慣れているので、問題はありませんな」
家の中を見て回っていると、狭い事にカナートさんが謝るけど、むしろ上等な部類の家を用意してもらったんじゃないかと思う。
過ごしやすさで言えば、野営とは天と地の差でこちらの家の方が快適だろう。
フィリップさんやニコラさんも同意見なようだ。
「あと、薪はこの村じゃ誰でも自由にもらえる。一応、数日分は家の裏に積んであるから、それを使ってくれ。水は、井戸から汲んで使って欲しい。男ばかりだから、そこまで苦にならないだろう?」
「はい、わかりました」
さすが、森の近くにある村というべきだろうか……木を伐り出す仕事も行われているようで、薪は自由に使ってもいいとの事。
ランジ村でもワイン樽を作るために、木を切り出す事はあったんだろうけど、ハンネスさんの村長宅にお世話になっていたから、薪に関しては用意される側だったからな。
水はさすがに井戸からだが、水瓶に溜めておいて使うようだな……初めての事ばかりで、ちょっと楽しい。
井戸から運ぶのはそれなりの運動になるだろうけど、俺だけじゃなくフィリップさんやニコラさんもいるし、この作業が苦になったりはしなさそうだ。
「とりあえず、村の中を見てみたいけど……寝泊まりする準備が先かな?」
「そうだな。ついでに昼食も用意しよう」
「では、某は水汲みに行きましょう」
「俺は村の奴らに客人が来た報せをして来るから、ゆっくりしててくれ。まぁ、デリアが言っていそうだが、一応な。しばらくしたら戻るから、何かあったらその時に言ってくれたら対応しよう」
「ありがとうございます。……それじゃ、俺はとりあえず荷物を整理しておくかな」
「あ、残っている食材は竈の方に置いておいてくれ。残り少ないが、昼食で全部使ってしまうから」
用意された家の中を軽く見た後は、各自それぞれ滞在するための準備を始める。
ニコラさんが水を汲みに、フィリップさんは昼食の支度のために薪を取りに行き、俺は荷物を各自の部屋に置いたりと整理担当。
昼食を食べながらでも、ここにいる間の担当とか順番を決めよう、水汲みや料理をずっと二人に任せるのは悪いからな……水はまだしも、俺が料理をして美味しく作れるかは微妙だが。
「よっ……と。ふぅ、これで完了かな」
カナートさんを見送った後、二階に荷物を運んで適当に部屋決め……と思ったんだけど、竈の薪を持って入ってきたフィリップさんから言われて、俺はニコラさんとフィリップさんの間の部屋になった。
階段を上がってすぐ右がニコラさんで、その奥に俺、フィリップさんと続く。
なんでも、護衛をするうえで端の部屋は侵入されやすく、階段の傍も同様なので二人に挟まれる形がいいとの事だった……この村で、誰かが侵入してきたりはしないと思うけど、何があるかわからないので従っておく。
各自の荷物は各自の部屋に置き、野営のテントなどの荷物は残った部屋の中に入れて終わりだな。
残っていた水と食料は竈場に置いてあるから、フィリップさん達が使ってくれるはずだ。
「タクミさーん! っとと……失礼しまーす」
「あぁ、デリアさん。いらっしゃい……でいいのかな?」
荷物を整理した後、ベッド用のシーツなども用意されていたので、皆の部屋のベッドメイキングを簡単に終わらせ、水汲みの終わったニコラさんと居間のテーブルについて、料理をしているフィリップさんを眺めていたら、デリアさんが戻ってきた。
尋ねてきたっていう方が正しいかな?
「滞在中は自分の家だと思っていいので、それでいいと思いますよ。あ、それよりも……これ、食べて下さい!」
「ん……お肉?」
「はい。お爺ちゃん達にサーペントを渡したら、お礼にと燻製肉をもらいました。あと、お婆ちゃん達が作ったニャックもあります」
「おぉ、燻製肉! これを食べる時にちょっと火で炙ると、美味しいんだ! まぁ、俺が食べた事のある物と同じかはわからないが……」
家に入ってきたデリアさんは、サーペントのお礼にもらったと燻製肉の塊と、ニャックを水の入った桶に入れて持って来てくれたようだ。
燻製肉と聞いて、フィリップさんも竈場からやってくる……料理の方はいいんだろうか?
デン! と置かれた燻製肉の塊は、こぶし大の大きさで糸で縛られていて、なんとなくお中元とかで贈り物をする時に見た、ハムにそっくりだった。
色は黒いけど、燻製にしてあまり時間が経っていないのか、香草や燻した香りがふんわりと居間に漂った。
残りの食材で料理を作ってくれていたフィリップさんには悪いけど、デリアさんのおかげでそれなりに美味しい食事にありつけそうだ。
ニャックは……調味料や別の食材と一緒にしないと、味気ないけど。
「お爺ちゃん達も、そのまま切って食べたり、炙って食べたりしていますよ。大体、お酒を飲む時に食べていますけど……でも、美味しいです!」
「ありがとう、デリアさん。頂くよ……お酒はないけどね」
「んー、ちょっと固めか。でも、薄く切って炙れば難なく食べられそうだ。これは、期待できそうだなぁ……むぅ、ラクトスで酒を買っておくべきだったか」
「フィリップ殿、分けてくれたデリアさんにお礼を伝えるのが先ではないですか?」
「おっと、そうだったな……」
フィリップさんからデリアさんにお礼を伝え、ニャックや燻製肉を竈場へ持って行く。
お酒に関しては、ランジ村での事が思いだされるのでできれば控えめにして欲しい……今は持って来ていないので、飲めないから良かった。
「あ、お爺ちゃん達に言って、お酒をもらって来ましょうか?」
「いや、今日は止めておくよ。フィリップさんは飲みたそうにしていたけど、移動して疲労がたまっているからね。……飲みすぎるかもしれないし」
「フィリップ殿にはあまり飲ませないよう、セバスチャン殿から言われておりますからな。少量ならいいのですが、フィリップ殿はいつの間にか大量に飲んでいる事が多いので……」
デリアさんからお酒の提案を受けたけど、ニコラさんと一緒にお断り……フィリップさんの事を思ってだ、うん。
決して、サーペントを漬けたお酒を飲むのに及び腰になったわけじゃない、他にもお酒はあるかもしれないが――。
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