カナートさんとも再会しました
「フィリップ殿は、お酒のアテとして好きなのでしょう。ですが、干し肉のようにしょっぱいだけではないので、燻製肉は携帯食としては人気のある部類ですね」
「あははは、固いのは干し肉と変わりませんけどね。でも、塩が少ない村では、塩の量を減らすために燻製にしているんです。お爺ちゃん達は、生活の知恵じゃ……って言っていました。他にも、調味料を使って漬けるので、しょっぱいだけの干し肉よりは食べやすいと思いますよ」
「成る程、塩を節約するためかぁ」
燻製肉は、デリアさんの話によると他の調味料に漬けたりする物もあるらしく、濃い味だろうからお酒に合うんだろう……フィリップさん、エッケンハルトさん程じゃないけど酒好きだしな。
公爵領は内陸部で海がないようだし、塩を入手するのも村では一苦労だろうから、節約の意味もあって確かに生活の知恵とも言える。
ランジ村よりも人が多いのもあるだろうけど、ワインを主に作っていたのと違って、ニャックも含めて様々な事をしているらしい。
うん、こういうのが見たかった……生活を見る先にブレイユ村を選択したのは、正解なようだ。
「お、誰か出てきた?」
「おーい、デリアー」
「あれはカナートおじさんですね。事前に話しておいたので、タクミさんの事もわかっているはずです」
燻製肉の事を聞いていると、俺達が村の入り口にいる事に気付いたのか、奥にある建物から男性が出てくるのが見えてきた。
男性は、俺達の方を見るとすぐにデリアさんを呼ぶ……聞き覚えのある声だと思ったら、カナートさんだったか。
確か、デリアさんへお願いをするのと一緒に、俺達の事を知っているカナートさんにも話を通しておいて欲しい、と伝えてあるはずだから、デリアさんはその通りにしてくれたんだろう。
「あ、ちょっと待っていて下さい。行ってきます!」
「あ、デリアさん?」
「どうしたんだろう?」
「すぐに戻ってくるような言い方でしたから、大丈夫でしょうけど……馬はどうしましょうか?」
カナートさんがこちらへ駆けて来るのを見ていると、デリアさんが何かに気付いたようで、俺達に待つように言って村の中へ駆けて行く。
どうしたんだろうと不思議がるも、理由はわからないのでとりあえずここまで運んで来てくれた馬を撫でて、労っておいた。
体に手を当ててゆっくり撫でると、嬉しそうに鳴き声を上げていたので、喜んでくれているようだ。
「タクミは、生き物に好かれる何かを持っているのか? 馬がそこまで喜ぶのは、あまりないぞ?」
「え、いや……そんな能力はないはずだけど……多分、レオから撫で方を教わったからだと思う」
「レオ様直々に、と考えると何か生き物が喜ぶ特別な方法があるのかもしれませんな」
デリアさんを待つ間手持無沙汰だし、馬も頑張ってくれたからと思って撫でたんだけど、喜ぶ様子を見てフィリップさんから訝し気に見られた。
リーザを撫でる時に、レオから撫で方講座をしてもらったので、馬に限らずデリアさんにもその時の事を生かすようにしているだけなんだが……というか、特別な撫で方って言う程でもないはずなんだけどな。
ニコラさんは、レオだから何か特別な方法があるのかもしれない、と呟いていた。
シルバーフェンリルが特別で特殊な存在だとしても、教えられただけで能力を授かるような事はさすがにないだろう……ないよな、レオ?
「お待たせしました! ほら、カナートおじさん!」
「お、おう。――えーと、タクミさん……と俺が呼ぶのも少し不自然か。タクミと呼ばせてもらいま……もらうが、いいか?」
「あ、はい。カナートさん」
「カナートおじさんに、呼び方とか話し方を言っておきました!」
少しして、何やら話していた様子のデリアさんが、カナートさんを連れて戻ってくる。
戻ってきたデリアさんに軽く小突かれて、少しぎこちないながらも俺を呼ぶカナートさん……そうか、先に話して、呼び方とかの注意を言っていたんだなと納得。
呼び方とかはデリアさんと合流してから話した事だから、カナートさんは知らなかったんだろう。
一仕事終えた様子のデリアさんは、満足そうにしながら誇らし気に胸を張って尻尾をブンブン振っている……耳も忙しなく動いているな。
その姿はなんとなく、レオやリーザと被るものがある……多分、褒めて欲しいんだろうなぁ。
猫って、こんなに人懐っこかったっけ? 猫とは今まであまり接点がないからわからないが、それぞれに性格が違うし、そもそもデリアさんは獣人だから日本のネコとは違うか。
「ほら、タクミ。ちゃんと褒めないといけないんじゃないか?」
「仕事をした部下を褒めるのは、上司の仕事かと」
「……はぁ……えっと、えらいえらい……?」
「わふふ~……」
「デリアがすっかり懐いているなぁ。まぁ、あの方やあの方達とおられるのだから、当然なのかもしれないが……」
フィリップさんとニコラさんも気付いたようで、面白そうにしながら俺にデリアさんを褒めるように促す……デリアさんは、まだ俺の部下ってわけじゃないんだけど。
とはいえ、褒めて欲しそうにしているデリアさんを無視するわけにもいかず、コッソリ溜め息を吐いて、出発前と同じように頭を撫でて褒めておいた。
ちょっとぎこちなくなってしまったが、リーザやティルラちゃんのような子供だったり、レオやシェリーとは違ってれっきとした女性の姿だからなのはわかって欲しいと思う。
あと、カナートさんが言っているあの方はレオの事で、あの方達というのは公爵家の事だろうと思う。
「デリア、喜んでとろけそうになっているところ悪いが、その手に持っているのは、爺さん達に持って行かなきゃいけないんじゃないか?」
「はっ、そうだった! って、別に私はとろけてなんかいないよ!」
「まぁ、そこはいいんだが、とりあえず先に爺さん達の所へ持って行った方がいいんじゃないか? そんなものを持っていたら、邪魔だろう?」
「うん……タクミさん、ちょっとだけ行って来ます。案内はカナートおじさんに!――カナートおじさん、ちゃんと案内するんだよ!」
「わかってるって。ほら、行きな?」
「すぐに戻って来ますからー!」
デリアさんが撫でられて、ちょっとあまりお見せしない方が良さそうな程、表情がゆるゆるになっているのを、カナートさんが突っ込んだ――。
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