近い場所でもそれなりに違いはあるようでした
「私の時は、村の人達総出でお祝いしてもらいましたから、リーザちゃんにも、何かお祝いしないといけませんね」
「うん? ブレイユ村では、皆でお祝いしたの? えっと、男女関係なく?」
「はい。お爺ちゃんやお婆ちゃん達が特に喜んで、お祝いしてくれました」
獣人は気にしないのかな、と思っていたらそうではなかったようで、ブレイユ村の人達がそもそも恥ずかしがったりしない方向で考えられている、のか?
いや、デリアさんだけ特別だったりするのかもしれないな。
「そ、そうなんだ。それはもしかして、デリアさんがフェンリルと拘わりがあったからとか、獣人だからとか……かな?」
「いえ、そんな事はありませんよ。村にいる子供達も、成長している証としてお祝いしてもらえます。まぁ、男の子達はわかりづらいので一定の時期にまとめてですが、女の子ははっきりわかりますからね。翌日には、お祝いについて村の皆で話し合いが行われたりします。半分くらいは、遠慮なくお酒を飲むための口実になっている気もしますけどね、あはは……」
「う、うん……成る程……」
文化の違いなのだろうか? それとも、一般の人達ではこういう感覚なのか?
セバスチャンさん達は、どちらかというと秘匿と言わないまでも、あまり大っぴらに話す様子はなかったから、あれが通常なんだと思っていたんだけど。
いやでも、長く公爵家で執事をしているセバスチャンさんはともかく、ライラさんやゲルダさんは、元々孤児院で育ったから一般寄りだしな……。
特殊という程ではないかもしれないが、ブレイユ村ではそういう文化や感覚が根付いているという事だろう。
ところ変わればとは考えたが、ラクトス付近の村でもここまで違うのか……ある意味、こういう違いとかも知りたかったから、収穫の一つと言えるのかもしれない。
……ランジ村ではどうなんだろう? と気になったが、男の俺から言い出すのも微妙なので、誰かに聞いてもらうか自然と判明するまで触れないようにしておいた方がいいかな、うん。
「タクミさ……んんっ、タクミ、馬はそろそろ良さそうだ。村に向けて出発しよう」
「わかりま……わかった。……お互い、もう少し気を抜かないようにしないと、つい丁寧に話しかけるなぁ」
「そこはまぁ、気を付けて行こう」
「村までもう少しですから、休憩はこれが最後ですね!」
デリアさんと話し込んでいると、馬の休憩や水やりを終えたフィリップさんから声を掛けられる。
フィリップさんもそうだが、俺も咄嗟に丁寧な話し方をしそうになってしまうので、今は大丈夫だけど村では気を付けないと。
お互いに苦笑しつつデリアさんの楽しそうな声を聞きながら、馬へと乗り込んだ……相変わらずフィリップさんの後ろだけども――。
「ん? あの煙は……?」
「立ち上っているな。白い煙だから、家屋が燃えているわけではなさそうだが……」
再びクラウチングスタートっぽい体勢から、馬と並走するデリアさんに感心するやら驚くやらで、ブレイユ村へと移動していると、遠目に建物群が見え始めた。
そろそろ到着だな……と思いつつ村の方を見ていると、何やら煙が立ち上っているのがわかる。
フィリップさんの言う通り、煙は白いから不完全燃焼ではないため火事ではないようだけど、なんだろう?
デリアさんに聞いてみたいけど、こちらは馬で向こうは四足走行……位置の高さもあるし速度も出ているから、声を掛けられずにそのまま村へと向かった。
「はい、到着です。お疲れ様でした!」
「ははは、馬に乗っていた俺より、デリアさんの方がお疲れ様だけどね」
煙の事を聞けないまま、村の入り口に到着。
並走していたデリアさんは、少し荒い息を吐いてはいたけど、あまり疲れている様子は見えない……さすがだ。
村の入り口は……なんの変哲もない、というと失礼だろうか? ランジ村と似たような感じで、建物群を取り囲むように木の柵が作られており、入り口から中央へかけて道らしきものが伸びているのが見える。
見通しがいいので、中央の道の先を見てみると広場になっているようだな、ランジ村と同様に、その広場で宴会とか集会とかを行うんだろう。
「……んー、少し、ランジ村より建物が多いか? まぁ、村によって人の数も変わるから、変化という程じゃないか」
「森が近いからでしょう、村を囲んでいる柵は高いようですね」
「フィリップ、ニコラも……俺が確認するより前に、色々調べているし……」
「これも訓練の成果と言えるんだろうけど、初めて訪れる街や村に到着したら、外観をある程度観察する癖が付いているんだ。もしもの時、逃げる必要があれば護衛対象を逃す事も必要だからな」
「戦闘を常に考えている、とも言えますか。護衛兵になる際には、徹底して叩き込まれます」
馬から降りてデリアさんと話している俺とは違い、フィリップさんとニコラさんは、それぞれ村を観察して入り口からでもわかる部分を確認し合っていた。
確かに、魔物や人に襲われた際、護衛をする人達は逃げ場の確保だとかを考えないといけないから、必要な事なのかもな。
そういえば、ランジ村に初めて行った時も、フィリップさんが村の雰囲気について言及していたっけ……あれも、そういった観察をしたからなんだろう。
「それで……デリアさん。あちこちから煙が立ち上っているんだけど、あれは?」
遠目にも見えていたんだから、入り口まで来れば当然煙はよく見える。
村の中にある建物で、いくつかの建物の中……いや、建物付近かな? そこらで煙が空高くまで立ち上っているのは、この世界に来て初めて見る光景だ。
火が燃えあがっているわけでもないので、予想通り火事ではないし、何か問題が起きているわけではないんだろうけど。
とはいえ、焚き火というか火を扱うとしても、煙の量が多過ぎるのでさすがに料理をするためとかではないと思うんだが……?
「あれは、お爺ちゃん達が燻製肉を作っているんです。時折、森から出てきたオークを倒すと、その肉を使って保存できるように干した肉を煙で燻すんです。美味しいんですよー。肉以外を燻製にする時もありますけど」
「燻製肉……あー、そういう事かぁ」
「おぉ、燻製肉かぁ! 干し肉と違って、燻製された方は美味しいんだ!」
燻製するための煙だったのか。
各家で肉を燻して燻製を作っているから、あちこちで煙が立ち上っているのか……納得した。
デリアさんの説明に、フィリップさんは嬉しそうに反応しているけど、携帯食を聞いた時に言っていた干し肉とは違うんだな――。
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