デリアさんには事情が伝わってしまいました
もうそろそろ、遠目にブレイユ村が見え始める頃、一旦馬を休めるために休憩を取る。
その最中、デリアさんは俺とフィリップさんが丁寧な話し方じゃなくなっているのが、気になったようだ。
その事も、ちゃんと説明しておかないとな……。
「砕けた話し方にするのは、ここに来る途中で決まったんだけど……俺やフィリップ達は、友人として一緒にラクトスからブレイユ村に行くという事にしたいんだ。だから、今のような話し方の方が、自然にみえるでしょ?」
「そうなんですね……ラクトスで一緒にいた時は、丁寧に話していた気がするのにと思って、気になっていました。けどタクミ様は、本当に公爵家やレオ様との拘わりを内緒にするつもりなんですね。報せが届いた時は驚きましたけど……」
「その方が、村の人達も気兼ねなく接してくれるかなと思ってね。まぁ、歓迎してくれたりするのが嫌なわけじゃないんだけど、それだと本来の目的である一般の村の人たちの暮らしっていうのが見れないから」
「そうですね……確かに、公爵家と拘わりがある人物と言われると、警戒はしませんけど、皆恐縮してしまうかもしれません。畏れ多いと言う人もいるかもしれませんから……いい案ですね」
歓迎される事や、村の人たちを恐縮させたりするのが目的じゃないからな。
村の中に溶け込めるかどうかは俺次第だけど、できるだけ普段の生活を見たいからと、デリアさんに説明すると、すぐに納得してくれた。
「ラクトスのような大きな街はわかりませんけど、ブレイユ村は小さな田舎村ですからねぇ……公爵家と関係ある人が来たら、皆驚いてしまいます」
「ははは、そうかもね。あ、俺の事は様を付けて呼ばない方がいいかな?」
「あ、そうですね。そちらの方が、変に思われないでしょう。でも、いいのですか?」
「様と呼ばれたいわけじゃないから、大丈夫だよ」
「わかりました、タクミさん」
ランジ村以外の村というのは行った事がないので、ブレイユ村が田舎と言えるのかはわからないが……街ではなく村という部分で、相対的に街を都会とするなら村は田舎になるんだろう。
閉鎖的というわけじゃないにしても、他の街や村との拘わりが少ないようだしな……無駄に刺激するのは避けた方が良さそうだ。
というより、お世話になっているだけで俺自身が権力をもっているわけでもないし、驚かれるだけならまだしも畏まられたりすると困るだけだから。
ついでに、俺への敬称も様を付けて呼ばないようにしてもらう……一般人なのに、様を付けて呼ばれるなんて、違和感しかないからな。
「そういえば、リーザちゃんやレオ様はもう一度会ってみたかったのですけど……事情があるようですから、仕方ありませんね」
「読み書きの先生をお願いしているから、特にリーザには会って判断してもらいたかったけど……ちょっとリーザが動けなくて。レオや公爵家の人達に見てもらっているから、大丈夫だけどここまで来るのはね……」
村の人たちに変に思われないよう、話を合わせるように打ち合わせみたいな事をしている中で、レオやリーザの事が気になっていた様子のデリアさん。
以前会った時、リーザは同じ獣人という事もあってデリアさんに懐いていたし、改めてもう一度会って欲しかったけど……そこは仕方ない。
元々、デリアさんのお迎えがなければ村の手前で引き返すはずだったので、今回会ってもらう予定じゃなかったからな。
リーザの事情は、男の俺から女性のデリアさんに伝えるのは躊躇われるので、動けないとだけ言ってぼかして伝える。
「んー……そういえば、そろそろですかね?」
「うん?」
「周囲に自分しか獣人がいなかったので、はっきりとした事はわかりませんが……私の時はそうだったので。獣人は、人間より若年期の成長が早いようなんです。お婆ちゃん達が昔聞いたって言う話によると、狩猟をする種族なので、早く狩りができるように早熟だけど、人間より青年期? が長いのかも……って聞きました。えっと、若くて狩りができる時期が長いらしい、です」
「狩猟をよくしていたから……かぁ……」
人間ですら、この世界での成長速度が日本と違うのかもわからないが……見た限りではそう変わりがないような感じだ。
それはともかく、獣人……というより獣は俺の知っている知識だと、狩猟をする、または狩猟される側などの弱肉強食のため、生まれてからの生育が早いのもいるとかって話を聞いた事がある。
まぁ、状況によっても違うらしいが、狩猟を生業にしてきた獣人からすると青年期……デリアさんは女性だが……全盛期とも呼べる、一番体が活発に動かせる時期が長いという事かな。
あと、子孫を残すという本能の事も考えれば、女性が早熟なのもそこに理由があるのかも……このあたり、セバスチャンさんに話すと獣人の知識として喜ばれそうな気がする。
「私は村の人達に育てられたので、なんとなくしかわかりませんけど……確かに村にいる子供達よりは、成長が早かったと思います。だからリーザちゃんももしかしてと思ったのですけど、初潮ですか?」
「ぶっ!」
「あれ?」
人間に育てられたので、本当に獣人に関する知識は少なくともなんとなく理解できる部分はある、という事だろうと思うが……それはともかく、俺が言いづらくてぼかしていた部分を、あっけらかんと発言するデリアさん。
思わず、飲もうとしていた水を噴き出してしまった……もったいない。
デリアさんは、俺の反応を見て違ったかな? と首を傾げているけど、そういう事じゃない。
「ごほっ、ごほっ……はぁ……えーっと、まぁ……うん、そういう事だね」
「そうですかぁ。私も、リーザちゃんくらいの大きさの時だったので、もしかしたらと思ったんですよ。それなら確かに、今は無理をしない方がいいですね」
驚いてさらに咳き込みながら、なんとか頷いてデリアさんの言った通りだと肯定する。
納得がいったデリアさんは、自分の予想が当たったと嬉しそうだけど……デリアさん自身の事まで明け透けに語っているのは、それでいいのか? と思わなくもない。
いや、女性なら必ず恥ずかしそうにしろとか、そういう事が言いたいわけじゃないんだけど。
……もしかすると、獣人だからというのも関係しているのかもなぁ……成長だとか、子供をと考えれば重要な事なのは間違いないし、そちらが優先されているんだろう――。
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