焚き火の煙が見えていたようでした
フィリップさんが示した先には、こちらに向かって疾走する人影……と言えるのか微妙な何かが見えるけど、人影と言うには、体が小さいというより地面に近すぎるような……?
開けた場所なので距離がわかりづらいけど、なんとか遠目に動いている何かが見えるくらいの距離だ。
「タクミ様ー!」
「あれ、もしかしてこの声、デリアさん?」
「あー、あの獣人の女性だったか。遠くだからまだよくわからないが……」
「女性の声で間違いないですし、ブレイユ村との関係と状況から考えると、デリアさんの可能性が高そうですな」
さらにはっきりと俺を呼ぶ声が聞こえて、ようやくデリアさんの声かな? と思えるくらいになった。
こちらに向かう何者かは、姿勢が低すぎて人間かどうかも怪しく思えていたんだが、俺の名前を呼んでいるのでデリアさんで間違いなさそうだ。
低い姿勢……ってもしかしてあれ、四つん這いというか手も使って走っているのか? レオとかみたいに……。
人間と違って、四足歩行のレオは縦ではなく横に長い……それでも十分大きいんだが、それはともかく……デリアさんが地面に手をついたら、ちょうどあれくらいの大きさになるような……?
「タクミ様ー!」
「あぁ、本当にデリアさんだ。どうしたんだろう、こんなところで? おーい!」
「それも疑問だけど、あの速度は……」
「獣人だからでしょうか、人間よりも身体能力が優れている証拠でしょう」
「俺達も、あぁやって走ったら、いつもより速く走れると思うか?」
「……やめておいた方が良いかと。普段やり慣れていない事を無理にやって、まともに走れるとは思えません」
さらにこちらへと近付いた、デリアさんのものと思われる聞き覚えのある声に応えるように、こちらも大きな声を出して手を振ると、俺達が気付いた事がわかったからか、さらにグンッとデリアさんの走る速度が速まったように見えた。
低いと思っていた姿勢は、四足というか、手も使って走っているようだ……あれ、馬が走るのと変わらないくらいの速度が出ていないか? やっぱり、獣人特有の魔法で身体強化とかが関係しているのかもな。
俺の後ろでは、フィリップさんが手をついて四足で走ると、デリアさんのように速く走れるのかも言っているようだが、ニコラさんに却下されていた。
人間は二足に慣れているからなぁ……特別に訓練をしているとかでもない限り、止めておいた方がいいと思う。
訓練したらできるかどうかは知らないが。
「お迎えに参り……んんっ! とっとっと……参りました!」
離れて見ていると、馬くらいの速度が出ているよう見えるデリアさんは、そのままの勢いで俺達に近付いて声をかけようとして……勢いのまま通り過ぎて行った。
すぐに手足で急ブレーキをかけて、勢い余って転びそうになるのを尻尾を振って上手くバランスを取り、すぐに引き返して俺達の前で停止し、片手を上げて迎えに来た事をアピールした。
……やっぱり、尻尾ってバランスを取るのに重要なんだなぁ。
「迎えにって……俺達がここを通るって知っていたの?」
「いえ……タクミ様達が来られる予定と知ってから、村の周辺を回っていました。けど、昨日にはここにいるってわかっていましたけど……村から、立ち上る煙が昨夜見えましたから」
「……煙って、確かに焚き火をした時に多少なりとも出るものだが、火を付けたのは暗くなってからだったよな?」
「そうですね。完全に暗くなる前に野営の準備を始めましたが、火を付ける頃には真っ暗でした。離れている村からは、通常は見れないかと……」
デリアさんには俺達がブレイユ村へ行く事を伝えていても、どこを通っていくかまでは伝えていないはずで、慣れた人が通る道はあるけど、あまり人が通らず、普段は使われない道なき道っぽい所を通ってきた。
なので俺達がここにいる事は知らないと思ったら、村から焚き火の煙を見て場所がわかったらしい……村の周辺を回っていた事はともかく、フィリップさんとニコラさんが確認しているように、日が暮れて完全に暗くなっていた時間に、遠くで立ち上る煙を見るのは人間には不可能だろう。
というか、煙で位置を知るなんて……のろしを上げたわけじゃないんだが……。
もしかすると、獣人だとか、猫っぽい耳や尻尾が関係しているのか? 猫は夜行性で夜目が効くっていうしな。
「タクミ様達を迎えに来ようと思って、村の周辺を回っていましたが、さすがに夜は魔物の危険もあるので村に戻っていました。そこで、ふと北を見たら煙が見えたのできっとタクミ様達だな……と」
「成る程。まぁ、遠くから見えたのはわかったし、迎えに来ようと思っていたのもわかったよ」
見えるかどうかではなく、実際に見てここまで来ているんだから、本当なんだろうと思うしかない。
迎えに来てくれたのは予想外だったけど、村へ到着する前に色々と話す事ができそうだし、むしろありがたいくらいなんだが……。
「その……左手に持っているのは? いや、持っているというより引きずっている状態だけど……」
デリアさん、俺達の前で右手を上げて声をかけて来たんだけど、その逆の左手には何やら見慣れぬ長い何かを持っていた。
持っていたというより、鷲掴みで捕まえている感じか……動いてはいないけど、数メートルにも及ぶ細長い物で、走っている時からずっと引きずっていた様子だ。
「あ、これですか? ここに来る前に仕留めて捕まえました。サーペントです!」
なんとなく、先程フィリップさん達と話していたから予想はできるんだけど、デリアさんに聞いてみると自慢するように左手を前に突き出して、サーペントの顔をこちらに向けた。
サーペントは、俺が知っている蛇とそっくりで、首元を掴まれている。
確かに仕留められているのか、ピクリとも動かないのはいいんだが……勢いよくデリアさんが左手を突き出したので、引きずっていた細長い胴体の方が、ブンッと俺達に向かって振られる形になる……当たりはしなかったが。
「サーペント、これが……フィリップ?」
「まぁ、毒があるので一人で対処するのは危険だが、対処できないわけじゃないから……とはいえ、見る限り斬った跡すらなく仕留めているのは、驚きだなぁ」
「……間違いなく、サーペントですね。咬まれる危険から、通常は武器を使って仕留めるのが基本なのですが……」
「キュッとやればすぐですよ?」
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