新しい魔法を使ってみました
「段々と、御屋形様と似たようなやり方になって来ましたね、フィリップ殿?」
「こういうのは、実践した方がわかりやすいだろう? 失敗すると危険というわけではないし、できなければ俺達が代わりに火を付ければいいだけだからな」
ニコラさんが溜め息を吐くように言うのに対し、フィリップさんは飄々とした様子。
でも確かに、こういう機会はあまりないし、失敗しても構わない状況なのはありがたい。
今後必要になるかはともかく、今までとは違う魔法を試しに使えるので、少し楽しい気分にもなってきた……リスクはないんだから、気負わずにやってみよう。
「えーと、フレイムバーンアップ……でいいんですよね?」
「はい。昨日のフィリップさんのように、ストロングを付けてしまうと勢いがあり過ぎます。焚き火の周辺は軽く掘り返して草花がないようにしてありますが、もしもの事を考えたら避けるべきかと」
ニコラさんに確認すると、無いと思っていたリスクがある事が判明。
そうだよな、地面から生えて青々とした草がそこらにあるんだから、乾燥していないと言っても炎で包まれたら燃えてしまう。
延焼がどこまでになるかはわからないが、かといって試す気もないので素直にストロングを魔法に付けないようにして使ってみよう。
……考えてみたら、魔法を使うのも結構久しぶりだな……森の中で、オークに対して牽制にライトの魔法を使って以来か。
「……えっと、手をかざしてそこに魔力が集まるように……」
意識を体内の魔力に集中させ、組んである焚き火用の薪や枝葉に近付き横から右手の平を向ける。
かざした右手に体から魔力を集め、それを放出するような感覚で……昨日、ニコラさんが手本として見せてくれた炎を思い浮かべながら、魔力を絞り出す。
「……ファイアエレメンタル・フレイムバーンアップ!」
少し意気込んで呪文を唱えると同時、自分で集めた魔力が変換されて行くのを感じる。
それと共に、手のひらから変換されて燃え上がるようになった魔力……炎が噴き出した。
「……あれ? 昨日ニコラさんに見せてもらったのとは、ちょっと違うような……?」
「ふむ、確かにそうですな。少々、集めた魔力が多かったのかもしれません。魔力によって、魔法の威力も変わりますから」
「とは言っても、呪文で決まっているので強くなるにも限界はあるんですけどねぇ……ま、火は付いたようなので成功と言えるでしょう」
ニコラさんのお手本では揺らめくくらいの炎……ライターよりも大きな炎だったのに対し、俺が使った魔法で出た炎は、揺らめくどころか点火対象に対して吹き付けるような炎……ガスバーナーのようと言えば、わかりやすいか。
首を傾げていると、ニコラさんとフィリップさんが手際よく付いた火を、別の枝や薪に燃え移らせながら教えてくれた。
そうか、全力で手に魔力を集めたのが原因だったのか……遠慮なく魔力を魔法に変換するようにしたんだが、そういった調節も必要らしい。
とりあえず、他が燃えたりはしなかったので成功と言えるんだろうけど、反省しないとな……魔法、やっぱり難しい。
「よっと! はい、できましたよー。自信作です!」
「ありがとうございます。って言っても、ただ炒めただけですけど……」
「調味料があるので味はまともでしょうけど、これを自信作と言うのはちょっと……」
「文句を言うなら、食べさせないぞニコラ?」
「……某は、何も言っておりません」
なんとか点火に成功した焚き火の上で、平たい鍋……フライパンっぽい物を振るって料理を手早く作ってくれたフィリップさん。
ほとんどが、持って来ていた野菜類の皮を剥いて適当に切って炒めただけの、これぞ男の料理! と言った物だ。
まぁ、フィリップさんが妙に手間をかけて、工夫された料理を作る姿は想像できないので、予想通りではあるか。
ニコラさんが否定的な事を言えば、フィリップさんがサッと鍋を離して……という軽口を叩き合いながら、夕食を食べ始める。
味に関しては、塩などの調味料があるので食べれなくはないけど、ヘレーナさんの料理に慣れていると……というのは、取り上げられたくないので言わないでおく。
ハンバーグくらいならまだしも、同じ食材を使って料理をと言われたら、俺もフィリップさんの事を言えない物しか作れそうにないからな。
ヘレーナさんだけでなく、野営時に料理担当をしてくれて手早く作ってくれていたライラさんのありがたさが、よくわかるなぁ……。
屋敷に戻ったら改めて感謝しておこう、うん。
「あぁそうでした、タクミ様」
「んんっ……なんですか、フィリップさん?」
男同士の食事って、食べる事に集中してなんだか無言になるよなぁ……と思いつつ、野菜炒めを頬張っているとフィリップさんから声がかかる。
口の中に残っていた物を飲み込んで、返事をした。
「明日にはブレイユ村に到着する予定ですが……というより、あと一時間から二時間くらい馬を走らせれば、ブレイユ村です」
「はい、そうですね」
突然なんの確認だろう? と思いながら頷く。
実際、無理をすれば今日中にブレイユ村に到着はできたというのは、野営をする前に話をしたんだけど……深夜にお腹を空かせて村に行くのも不審がられそうだと、余裕をもって移動する事にしていた。
レオが来れないとわかった時から、移動に二日かける予定だったから、予定通りとも言える。
少し早めに移動ができたのは、途中で魔物と遭遇する事もなく平穏だったからと、俺が自分でも少し意外だったけど、馬になれるのが早かったためだ。
フィリップさん達は、俺が馬に乗った事がないと聞いて、もう少し休憩する時間を取る事になるだろうと予想していたらしい。
「以前、ブレイユ村では護衛ではなく、友人関係のようにして怪しまれないようにすると決めましたが……このままだと、あまり友人っぽく見えないんじゃないかと思いましてね?」
「フィリップ殿、こういう友人関係もあるのではないですか?」
「友人が少ないニコラは、余計な口を挟まないように」
「くっ……」
「うぅ……」
フィリップさんが気になったのは、俺達が友人っぽく見えないという事のようだ。
俺もニコラさんと同じく、男同士で気楽な雰囲気もあって友人関係に見えて問題ない……と思っていたんだけど……フィリップさんによる言葉の棘が、ニコラさんだけでなく俺にも突き刺さり、思わず一緒に唸ってしまった――。
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