ある意味ソウルフードな物を買いました
「はぁ……人心地着きました……」
「大丈夫ですか?」
「タクミ様、これからまだラクトスからブライユ村まで、長い時間馬に乗らないといけないですよ? 平気ですか?」
「まぁ……なんとか大丈夫だと思います。ここまでで少し慣れて来ましたから」
ラクトスに到着し、とりあえず昼食を取ろうと大通りを歩きながら、ようやく一息と言ったところ。
心配してくれるニコラさんやフィリップさんには、苦笑しながら返しておく。
上下の揺れはレオに乗っている時よりも激しかったんだけど、それによる乗り物酔いは特にない……元々、そういうのには強い方だからだろうと思う。
もしかすると、レオが曳いた馬車……狼車に乗ったり早い速度で走るレオや、何度か馬車に乗った経験があるのが大きいのかもしれないな。
乗り物酔いは大丈夫でも、硬い鞍の感触に慣れず、お尻がちょっと痛いのが一番辛いか……ともあれ、多少慣れてきているので、上下の揺れやお尻の痛みはなんとかなると思う。
……最悪、疲労回復とか筋肉回復、ロエなどの薬草を使えば大丈夫そうだしな。
「それはそうと、馬の方は任せておいて大丈夫なんですか?」
「えぇ、それはもちろん。ここの衛兵とは顔見知りですし、こちらが公爵家の関係者だと知っているますから」
「元々、この街の孤児院で育っているので、顔見知りは多い方でしょう。離れてからずいぶん経っているので、多少減っていますけど」
ラクトスまで乗ってきた馬は、門から入ってすぐに衛兵さんへと預けた。
馬もちゃんと世話をしないといけないから、水を飲ませたり餌をあげたりする必要があるので、俺達が昼食を取っている間にやってくれたうえで、さらに東門の方まで連れて行ってくれるとの事だ。
公爵家との拘わりがある事と、フィリップさん達がラクトス出身で顔見知りの衛兵さんが多いからこそ、頼める事らしい。
それとは別に、馬の世話をしたり管理を任せる商売をしている人もいるらしいけど……こういう話を聞くと、駅馬の事も含めて何か良さそうな案が浮かんできそうでもある。
「とにかく、昼食を済ませましょう。タクミ様は、何か美味しそうな物を知っているようですから」
「出身のフィリップさん達の方が、知っているんじゃありませんか?」
「いえ、某達は普段、屋敷で食事をしているので、現状での街で何が美味しい物か……というのは実はよくわからないのです。この街は、人の出入りが多い分、入れ替わりも激しいので」
「ヘレーナさんの料理は美味いからな。――タクミ様が来られてから、ヘレーナがさらに工夫をするようになったのか、今まで以上に美味しく食べられるので、わざわざラクトスで食事しようとも思わないのですよ」
「最近では、ハンバーガーが評判いいみたいですね。作った甲斐があります。確かにヘレーナさんの料理が美味しいから、屋敷を離れてラクトスで食事をとは、あまり思わないかぁ……」
フィリップさんから振られて、昼食を買う屋台で美味しい物を期待されているようだけど、元々この街出身の二人の方が詳しいだろうと思ったけど、違ったらしい。
新しい物が入って来る事も多い代わりに、古い物は売れなくなったり売られなくなるという事か……あと、ヘレーナさんの料理が美味しい事も一つの理由だそうだ。
以前、セバスチャンさんの話にもあったけど、休みがあったとしてもわざわざラクトスに行く人は少ないとかなんとか……護衛兵士という職業柄、屋敷を離れる事はさらに少ないんだろうが、その事も影響しているのか。
頻繁に……というわけじゃないけど、エッケンハルトさんとラクトスで食べ歩きをして、ある程度屋台の食べ物は把握しているし、それからも何度か来て食べ物を買っている俺の方が詳しいと。
当然だが、この世界での暮らしはフィリップさん達の方が長いのに、ちょっと妙な気分だ。
「ハンバーガーでしたか。あれはすごくいい料理ですね。味もさることながら、ボリュームもあってお腹にも溜まる。食べ方も簡単なので誰でも気軽に食べられますし、急いでいる時は一気に食べられます」
ハンバーガーが、屋敷の人達全体で評判がいいというのは聞いている。
食べ方が簡単だとか、一気に食べられるというのはまぁ、ファストフードならではでもあるからな。
ニコラさんがハンバーガーを称えてくれるが、和風っぽい物以外でも気に入るんだなぁと思うのは、少し偏見が過ぎるか。
材料はともかく、作り方は俺がヘレーナさんに伝えたから、ある意味日本風ではあるけど……まぁ、誰が作っても大きく変わり映えしない物だから、関係ないか。
「それじゃあ……まずはあれかな? ハンバーガーが好きなら、気に入ると思いますよ」
「ほぉ。タクミ様がそう仰られるなら、期待ができますね」
「これは、美味しい食べ物を発見したと、屋敷に残っている者達にも広めなければ……」
「いえ、皆が喜ぶかはわかりませんから、広めるまではちょっと……」
一つ思いついた物があったので、そこを目指して歩くようにしながら、ニコラさんに言う。
期待され過ぎると、外した時に申し訳なくなってしまうけど……多分大丈夫だ。
けど、さすがに皆に広めないといけないという程ではないだろうから、フィリップさんは少し落ち着いて欲しい。
「あ、あったあった。あれです!」
「あれは……パンに何かを挟んでいる? ハンバーガーみたいな物、ですか?」
「ふむ……挟んでいるのはパスタですかな?」
「まぁ、似たような物です。ハンバーガーとは違って、肉がメインというわけではないので、ちょっと期待外れかもしれませんけど……」
大通りを歩いて発見した屋台……俺が手で示した先にあるのは、パンでパスタを挟んでいる物を売っている。
フィリップさんもニコラさんも、初めて見るらしくどういった物かを予想しながら不思議顔だ。
エッケンハルトさんやクレアと、大通りの食べ歩きみたいな事をした時にはなかった屋台で、先日デリアさんと歩いている時に、実は前を通りがかって目星をつけていた。
覚えがあるような、ちょっと違うような香ばしい匂いが屋台から漂っていたので、よく見てみると……だな。
あの時は、さすがに見つけたから買って食べましょう! と言える状況ではなかったので、またラクトスへ来た時にと思っていたけど、想像以上に早く食べる機会ができた――。
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