出発の朝になりました
「ふふふ、レオ様はふかふかですね。これは上等なベッドよりも気持ちいいです」
「本当ですね。ティルラお嬢様やリーザ様が、よく抱き着いているのもわかります。レオ様、ありがとうございます」
「ワフワフ」
ベッドのすぐ傍から、レオに包まれるようにしながら楽しそうにひそひそ話すライラさん達の声を聴き、リーザの寝息を耳元に感じて安心しつつ、夢の世界へと旅立った。
明日の朝には、少しでもリーザの痛みが和らいで、元気になっていますようにと、誰にともなく願いながら――。
―――――――――――――――
「パパ、起きてー。朝だよー」
「ん……リーザ?」
「おはよう、パパー!」
「ワフ!」
体を揺らされる感覚に目が覚め、可愛い声に意識が向けられる。
目を開けると、俺の顔を覗き込むようにしながら、俺の体を小さな手で揺らしていたリーザが見えた。
昨日寝る前の様子は見られず、元気に挨拶をすると同時、リーザの後ろからレオも鳴いて挨拶……今日は俺が一番起きるのが遅かったようだ。
「ん、おはようリーザ、レオも。――ライラさんとゲルダさん、おはようございます」
「はい、おはようございます」
「おはようございます!」
体を起こしながらリーザやレオだけでなく、同じく部屋にライラさんとゲルダさんが起きているのを見つけたので、そちらにも挨拶。
ライラさん達はともかく、レオやリーザより早く起きる事が多いのに……一番最後はちょっと恥ずかしいな。
まぁ、それだけ昨日の騒動の後に安心して眠れたという事にしておこう。
「っしょっと。リーザ、体調は大丈夫なのか?」
「うん。もう平気……ちょっと痛い感じがするけど、大丈夫だよ!」
「そうか。無理はしないようにな?」
「うん!」
ベッドから降りながら、リーザに声をかけるとまだ万全とは言えないけど、昨日のように我慢しなければいけない程の痛みはないらしい。
とはいえ、少しは痛みを感じるらしいので、やっぱり今日も安静にしておかないとな。
「リーザ様、朝食はこちらにお持ちしますね?」
「ううん、大丈夫。クレアお姉ちゃんやティルラお姉ちゃんもいるし、シェリー達もいるから、皆と一緒に食べたい」
「畏まりました。ゲルダ、セバスチャンさんにはそのように」
「はい。失礼します」
「すみません、ゲルダさん、ライラさん。お願いします」
「いえ、痛みはまだ完全に引いたわけではないようですけど、こういう時はやりたいように過ごしてもらうのが一番かと」
ライラさんが、リーザを気遣って朝食を部屋まで運んでくれるとの事だったが、リーザは皆と一緒がいいと断った。
まぁ、動けない程の痛みではない様子だし、シェリーやラーレ達と一緒にいた方が、気が紛れるか。
ゲルダさんが、セバスチャンさんに伝達に行ったのを見送る。
「んしょ……あ……」
「ワフ!?」
「お……っと。大丈夫か?」
「うん……なんでかわからないけど、力が入らなくて……」
俺に続いて、まだベッドに座っていたリーザが、床に降りて足を付いて立ち上がった瞬間、体を揺らめかせた。
ずっと見ていたレオが驚きの声を上げたが、すぐ近くにいたので俺がリーザの体を支えられた。
リーザ自身は、なぜか理由はわかっていない様子だけど……これは立ち眩みというか、貧血の症状、かな?
「リーザ様、無理をなさらず。――タクミ様、私が傍についておきますので」
「ワフゥ……」
「はい。お願いします。けど、リーザは今までこんな事がなかったんですけど……やっぱりあれの影響ですかね?」
「だと思います。その……昨夜はタクミ様やクレアお嬢様が外へ出ている間に処置をしましたが、相当なものだったので。おそらく、血が足りないのだと思われます」
「そうですよね。――リーザ、あんまり無理はせずに、ライラさんやレオと一緒にいて、無理な時は頼るんだぞ?」
「うん、わかったー」
「ワフ!」
「お任せください」
俺と交代するように、リーザの体を支えてくれるライラさんと、何事もなくて安心した様子のレオ。
個人差はあるし、最初は血の量が少ない人もいるらしいけど、リーザは多い方だったようだ……まぁ、詳しくは俺にはわからないが、個人差もあればその時その時にも依って違うらしいからな。
リーザ自身も、いつもと自分の調子が違う事がわかっているのか、ライラさんやレオに頼れと言う俺に対し、素直に頷いた。
レオとライラさんは請け負うように頷いてくれたし、大丈夫そうだな。
「リーザ様はこちらに……では、タクミ様。リーザ様を少々お借りいたします。昨夜処置してから何もしていないので、交換が必要でしょうから」
「あ、はい。よろしくお願いします」
そう言って、リーザを連れてゆっくりと部屋を出て行くライラさん。
まぁ、なんだ……明言しないのはリーザや俺への気遣いなんだろうけどな、うん。
とにかく、汚れてしまった物の交換をする必要があるみたいなので、ライラさんに任せる事にしよう……ベッドのシーツとかが汚れたら、洗濯が大変だからな。
……痛みもそうだけど、これが定期的にかぁ……女性って、大変なんだなぁ。
「ワフゥ……」
「こればっかりは、レオには頼れないから仕方ないだろう。戻って来たら、背中に乗せてやればいいさ」
「ワゥ」
ライラさんを見送ったレオは、なぜ自分は連れて行ってくれないのか……と言っているようだが、レオがリーザの世話をするのは難しいからな。
というより、交換の意味も分かっていなさそうだが、こういうのは服を着る側の問題だから、仕方ないか。
レオを慰めるように体を撫でながら、遠回しに人間や獣人にはこういう事も必要なんだと伝えておいた……理解してくれたかどうかは微妙だけど。
「あ、そうだレオ。多分、昨日の夜にセバスチャンさん達と話したのは、聞いていると思うけど……ブレイユ村には俺だけで行く事になったからな。レオは、リーザの事を見ていてくれ。今日は大丈夫だろうけど、数日は安静にしておいた方がいいかもしれないから、無茶な遊びはさせないようにな?」
「ワフ、ワフワフ。ワウ!」
レオは耳がいいから、リーザの事を心配していても俺やセバスチャンさんの話を聞いていたはずだ……同じ部屋内だったし、耳がピクピク動いていたからな。
ブレイユ村には一緒に行けないから、リーザの事を頼むように伝えると、やっぱりわかっていたらしく、任せてくれとばかりに頷いて鳴いた――。
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