移動はなんとかなりそうでした
「一応、レオは置いて行く事にします。俺とレオが一緒にいなくなるのは、リーザも寂しくなり過ぎると思いますから」
「そうですな……レオ様がいてくれれば、リーザ様も安心なさって下さるでしょう」
「そうですね。私達もリーザちゃんを寂しがらせないよう、見るつもりですが、レオ様にいてもらった方が安心できますね」
俺とレオが一気にいなくなるのは、不安になりがちな状況ではあまりよくないだろうと思う……レオには、後で納得してもらうよう説明しないといけないだろう。
……リーザをずっと覗き込みながら、耳をピクピク動かしているから、こちらの話も聞いているだろうしリーザのためにもいてくれるだろうけど。
「ですがタクミ様、レオ様がいなくても移動は大丈夫ですかな?」
「レオがいないと……移動は馬、になりますよね?」
「ラーレに乗るのでしたら、ティルラに言えば乗れるでしょうけど……」
「さすがに、ラーレは……フィリップさん達もいますから、空を飛ぶのはあまり……」
レオがいないとなると、移動は車のない世界なのだから、馬移動になるのは当然だな。
頼めばラーレに乗って移動とかもできるだろうけど、さすがにそれは遠慮したい。
空を飛ぶのが怖いとかじゃないぞ? 馬に乗って移動するフィリップさん達に合わせた方がいいと思うからだ……なんて、誰に言い訳しているのかわからない理由を頭に思い浮かべる。
「ふむ……タクミ様、馬に乗った経験はおありですか? これまでの話で、タクミ様はここに来るまでに馬と接した事はあまりないように思いますが?」
「あまりないどころか、直に見たのもここにきて初めての事です……やっぱり、いきなり乗るのは難しいですよね?」
「レオ様が来られてから、屋敷にいる馬は以前より従順になりましたが……それでも難しいかと……」
レオが来てから従順になったんだ、馬……そう言えば、レオが近くを走っているのに馬が怯えた様子を見せなかったり、顔を寄せ合っていた事があるから、あちらはあちらで何かしらの話し合いみたいな事があったんだろう。
まさか、レオが脅してとかではないと思いたい……脅してたりしたら、もっと怯えているか。
ともかく、おとなしく従順だからと言って、馬に乗った事すらない俺がいきなり長距離の移動ができないというのは当然の事。
レオには乗っても言葉を理解してくれているおかげで、お願いするだけでいいけど……馬は違うからなぁ。
「馬に跨るくらいなら、誰かが手伝えば可能でしょうけど……手綱を握って走らせるのは、難しいと思います」
セバスチャンさんが眉根を寄せて難しいと言うのに続き、クレアからも厳しい意見。
跨るくらいなら確かにできそうだけど、手綱を握った事すらないからな……足を使ったりする事もあるらしいし、一度も経験した事のない素人が、いきなり走らせるのは難易度が高すぎる。
「ラーレに使った鞍を、馬に取り付けて使いましょうか。そうすれば、フィリップさんかニコラさんのどちらかが乗る馬の、後ろに乗る事ができるでしょう」
「あの鞍ですか。それなら確かに、乗って移動できそうですね」
「ただ、馬にかかる重量が大きくなるので、速度は落ちるでしょうな。移動に余裕をもって二日にしておいて正解だったかもしれません」
馬に二人乗り、さらに乗せる荷物も増えるから、当然速度も下がるか……まぁ、元々一日でなんとか到着できるかどうか、という距離なのを二日の予定にしていたから、そこはなんとかなりそうだな。
なんとか、レオがいなくても予定通りに移動はできるか。
「それなら、なんとかなりそうですね」
「はい。明日の朝、タクミ様が出発なさるまでに準備を終えておきます」
「すみませんが、よろしくお願いします」
「……これだと、途中で合流するのは難しそうね。リーザちゃんの様子を見ておかなきゃいけないし、今回は諦めるしかなさそうだわ」
「クレアお嬢様、何か?」
「いえ、なんでもないわ……」
セバスチャンさんにお願いをしていると、思案気な顔をしたクレアがそっぽを向きながら何事かを呟いた。
セバスチャンさんが聞き逃したように聞いているけど、きっと聞こえただろう……俺も聞こえてしまったからな。
というかクレア、一緒にブレイユ村へ行くのを諦めていなかったのか……ここ数日特に何かを言う事がなかったのは、諦めたのではなくて屋敷を抜け出す方法を考えていたのかもしれない。
まぁ、レオがいれば危ない事はほぼないと言っていいだろうし、シェリーを連れて来れば護衛にもなってくれるから、安全は確保されてはいるけど、さすがになぁ。
今回はリーザの事もあるし、クレアには屋敷にいてもらいたいから、諦めて欲しい。
その代わり、リーザやレオに我慢してもらったのもあるから、皆で屋敷やラクトスではない場所へ行ってみるというのもいいかもしれないな……セバスチャンさんが許可したらだけど。
あと、行き先で良さそうな候補があればな。
ティルラちゃんやラーレも連れて行ける場所だと、一緒にいる時間が増えて良さそうだなぁ……。
「リーザ、本当に大丈夫か?」
「少し痛いけど……大丈夫だよ。だから、心配しなくていいんだよ?」
「そうは言われてもな……まぁ、できるだけ頑張ってみるよ」
「ワフ」
セバスチャンさんに明日の予定変更に関する準備を頼み、クレアが部屋へと戻った後、もう一度横になったままのリーザへ問いかける。
あまり心配し過ぎてもいけない……とわかっていても、どうしても聞いてしまうなぁ。
いつもピンと立ってしきりに動かしている事が多い耳も、今はペタンと元気なく閉じかけているし、大きな尻尾も垂れ下がっている……これは、ベッドに横になっているせいだろうけど。
とにかく、いつものような元気が感じられないので、気にしないでいられない。
「タクミ様もリーザ様も、初めての事なので勝手がわからないのでしょう。痛みの強さや日数は個人差がありますが、慣れると心配する必要もなくなりますよ?」
「まぁ、そうなのかもしれません……」
ライラさんが微笑みながら、心配し過ぎな俺に言ってくれるけど……男からするといつまでも慣れる事がなさそうな気がしている。
どうしても、こういう事の苦しみって男には理解できないし、心配する事しかできないからな――。
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