心配し過ぎると逆効果にもなるようでした
俺が考えている事を察したのか、セバスチャンさんが先回りして延期を提案してくれる。
中止ではなく延期にするあたり、俺と違って冷静に考えてくれているようだ。
セバスチャンさんに同意しながら、さらに考えているとクレアからも一緒にいる方がいいと言われた。
俺は男なので、近くにいても何ができるわけでもないが……聞きかじった知識では不安感が大きくなったり、精神的に不安定になる事もあるらしいし、一緒にいてやるくらいはできるからな。
「それじゃ、すみませんが……ブレイユ村へは……」
「それは駄目だよ、パパ」
「……リーザ?」
決断して、とりあえずリーザの様子を見つつブレイユ村行きは延期すると、セバスチャンさん達に伝えようとしたら、リーザに止められた。
特に強く言葉を発したわけでもなく、かといって弱々しいわけではないリーザの声だが、そこには何か強い意志のようなものが感じられて、驚きながらリーザの方を見た。
「リーザのせいで、パパがやりたい事ができないのは嫌だよ……リーザ、パパにいっぱい助けられて、いっぱい楽しくしてもらってるのに。これ以上、パパに迷惑をかけたら……リーザ、自分の事が嫌いになっちゃうよぉ……」
「……」
ライラさんに言われたからだろう、ちゃんと休むために横になったままで、しっかりと俺の目を見て話すリーザだが、話しながら途中からは目から涙がこぼれていた。
リーザのために……って考えていたけど、その人のためと思ってやった事が重荷になったり、逆に思い悩む種になったりもするのか……。
そう言えば、俺も子供の頃風邪を引いた時、会社を休んでまで看病してくれた伯父夫婦に、凄く申し訳なく思った事もあったっけ。
結局は、大事に思ってくれるからこそで、仕方がない場合は気に病む必要はないんだと成長してから気付いたが……リーザの場合、今までの境遇もあって特にそういう意識が強いのかもしれないな。
「ワフゥ……」
「きゃふ……あはは、ママありがとう」
「ワフ」
リーザの言葉を俺が考えていると、レオが鼻先を近付けてこぼれていた涙を舐め取った。
こういう気遣いは、俺よりレオの方が上手いんだよなぁ……どこへ覚えたんだか。
ともかく、リーザがこれ以上思い悩んだり、自分の事を嫌いにならないためにはどうしたらいいのか……って、決まってるよな。
「……わかった。リーザの言う通り、ちゃんとブレイユ村に行って来る事にするよ」
「うん! リーザのせいでパパが嫌な思いは、して欲しくないから……」
「何を言っているんだ、リーザがいてくれて俺は嫌な思いどころか、楽しい事ばかりだぞ?」
「ほんと……?」
「ほんとだとも。まぁ、だから……少しの間寂しい思いをさせてしまうけど……」
「うん……パパと一緒にいられないのは寂しいよ。けど、パパがやりたい事ができない方が寂しいから、平気だよ!」
「そうかぁ……うん。ありがとうな、リーザ。なに、すぐに行って帰って来るさ!」
「うん!」
「ワフ!」
ブレイユ村へ行くのは、俺の我が儘だった部分が大きいけど、今ではフィリップさん達の護衛が付く事になったり、デリアさんに頼んだりもしているから、今更なかった事にするとさらに迷惑が掛かってしまう。
延期にしたとしても、改めて連絡する必要があるし、予定をずらす事での迷惑だってあるからな。
とはいえ、無理な事ではないしなんとかなるだろうとは思うけど、それでリーザが思い悩んでしまったらいけない。
ここはリーザが悩まないように、重荷に思わないようにブレイユ村行きを決行した方が良さそうだと思った……もちろん、当初考えていたよりも早く屋敷へ戻ってくると、内心決意しながらだけど。
リーザが頑張って寂しいのを我慢しているんだから、俺も張り切って村の暮らし、一般の人々の暮らしを学んで、滞在日数を減らせるようにしないとな。
最初屋敷へ連れて来た時は、寂しがったりして俺やレオから離れようとしなかったのに、今は寂しくても我慢しようと考えている……これも一種の成長なのかもな。
でも、今度からは絶対にリーザやレオを寂しがらせるような、思い付きの行動は止めようと心に誓った。
「とりあえず、そういう事に決まったようなので……明日は予定通りブレイユ村へ出発します」
「……リーザ様が、皆から心配されているのを重荷に感じている、とまでは思いませんでした。これは、私共の見落としですな、申し訳ありません」
「私は、少しリーザちゃんの気持ちがわかります。公爵家の娘として、何か行動を起こせば周囲に影響が出ますから。私がリーザちゃんくらいの頃、熱を出して寝込んだら、お父様やまだ元気だったお母様がつきっきりで診てくれたりしていましたから」
「そういう事もありましたな……しかしクレアお嬢様。それがわかっていながら、なぜ一人で森に行くような事を……タクミ様からも言って下さいませ」
「あの時は、ティルラの事で頭がいっぱいだったから……って、今はその事はいいのよ」
「でも、あのおかげで俺はクレアに会えて、この屋敷に来る事ができたので、俺からは責めるような事は言えません」
リーザと話し、少しの間だけレオとゲルダさん、布の替えを持って戻ってきたライラさんに任せて、クレア達ともう一度話す。
とはいえ今回は、部屋の中でベッドから離れてだが。
リーザが心配され過ぎて、迷惑をかけたくないという思いに苦しんでいる事に気付いて、謝るセバスチャンさん。
クレアの方は、昔から過保護気味に育てられたのか、リーザの気持ちが多少なりともわかるようだ。
過保護気味というのはまぁ、エッケンハルトさんを見ていればわかるし、母親を早くに亡くしているから周囲がそうなるのも無理はない気がする。
あと、ラモギを取りに一人で森へという無茶をしたのは、セバスチャンさんからすると事あるごとに注意したくなるみたいだけど、俺にとってはそれがあったからこその出会いだったので、あまり注意もできない。
あれがなかったら、今頃どうなっていた事やら……間違いなく、数日間はレオと一緒に森をさまよっていただろう。
ともあれ、話が逸れてしまったので本題に戻って……ブレイユ村へ行くのに、少しだけ話しておかないといけない事がある――。
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