知りたい事が増えてしまいました
「えーと、噛むための木はこれくらいでいいか?」
「キャゥ、キャゥー」
「横に広い方が、いいってー」
「もう少し幅広の方がいいのか……」
「タクミ様、明日にでもラクトスから木材を少々買い付けます」
「そうだなぁ……木材のままだと大きいから、シェリーに合う大きさに切ってもらえるといいかな」
裏庭の端の方に落ちている枝を拾い、シェリーの主張とリーザの通訳と交えて丁度良さそうな木を調達する。
さすがに、落ちたままの物を部屋に持って行って……というのは躊躇われたので、拾った後は綺麗に洗ったり、少しだけ形を整えたりするけども。
あと、シェリーは幅広の平たい木が好みらしく、落ちているそこらの枝よりも建築の柱に使われる木材の方が良さそうだと判断……クレアがラクトスで買う事を決めた。
カンナで削られた日本家屋で使われるような、表面の滑らかな木材はないだろうが、それでも落ちている枝よりマシだからな……虫干しもされているなら、噛んでいて中からという事もほぼないだろうし。
まぁ、コッカーやトリースのおかげで、虫がいる心配はそもそもに少ないんだけども。
とはいえ、建築用ではないので少ない量を買う事になるため、木材を扱っている所が売ってくれるかどうか少し心配ではあるけど……その辺りは、セバスチャンさんとかがなんとかしてくれるらしい。
シェリーの問題がとりあえず片付いた事で、安心したクレアと共に最近は当たり前になって来ている、裏庭での夕食を終え、寝る前の鍛錬をこなした――。
――素振りを終えて汗を流した後、部屋でレオやリーザの相手をしながら、少しだけ考える。
内容は、生え変わりと共に成長しているシェリーの事……ではなく、薬草畑に関する事。
この世界に来てすぐクレアと出会い、公爵家の人達にお世話になっているから、薬草畑で人を雇うにしても、一般常識みたいなものがよくわからなかったりする。
ライラさんやゲルダさんに聞けば解決しそうではあるけど、やっぱりこういう事は実際に見た方がわかりやすいんだよなぁ……。
「パパ、何か考え事ー?」
「ワフ?」
「あぁ、ごめんごめん」
考え事に集中して、リーザやレオを撫でる手がおざなりになっていたようだ。
俺の横にリーザを座らせて、尻尾を撫でていたんだが……こちらを振り返って様子を窺うと同時に、尻尾が不満そうにフリフリ揺れていたので、謝ってちゃんと撫でる。
右手でリーザを撫でるのとは別に、左手でレオの喉下あたりを撫でていたんだが、そっちからも鳴き声と共に前足のつま先を軽く動かして、もっと撫でろと要求されたので、こちらも同様だ。
「にゃふー……やっぱりパパに撫でられるのが一番好きー」
「ワフワフ」
「そうか? まぁ、レオに撫で方の指導をされたから、そのおかげかもしれないな……」
俺に撫でられるのを喜ぶリーザに、同意するレオ。
喜んでもらえているようで、顔を綻ばせながらもっと喜んでもらおうと、慣れた手つきでそれぞれ違う感触ながらも、手触りのいい毛を撫でてやる。
そうしながらも、今度はリーザ達から変に思われないよう気を付けて考え事を再開する。
考える事は、もう少しこの世界の事……というよりも一般的な事を知りたいという事だ。
ラクトスは人通りの多い街だから、そちらでもいいんだけど……やっぱり村とかでの暮らしというのを一度見てみたい気もする。
ランジ村でも少しは見られはしたけど、あちらはありがたい事に俺を歓迎してくれるけど、その分いつもの生活風景と言うのとは少し違う気がするからなぁ。
もう少し、俺を歓待するとかではなく、自然な姿を見せてくれたらと思うんだけど……とりあえず、明日セバスチャンさんにでも相談してみよう。
そうして、あまりおざなりになってしまうとまた抗議されそうな事もあり、考え事を打ち切ってリーザやレオと戯れてから就寝した――。
―――――――――――――
「ふむ、一般的な人々の暮らしを見たいと……?」
翌日、昼食までの間に昨夜考えていた事をセバスチャンさんに相談を持ち掛ける。
リーザは、元気にレオやコッカー達と戯れている……ティルラちゃんはまだ勉強中だな。
今日はコッカー達が虫を食べる所に興味が引かれたらしく、裏庭の植物を見て回っている後ろをついて回っているようだ。
変に興味を持って虫を食べたりしないといいけど、レオが見てくれているから大丈夫か。
「はい。屋敷で暮らしていて、何不自由なくお世話をしてもらっていますけど……村や町に住んでいる人達がどう暮らしているのか、あまりわかっていませんから」
屋敷での生活には慣れた……というより不自由がないようにお世話をされているので、慣れるのも当然なんだが……薬草畑で人を雇うにあたって、ある程度の事は知っておかないと話が合わないかなぁとも思い始めている。
初めて部下を持つ事になるが、雇い主になる以上ちゃんとした関係を築かないといけない……薬草畑に関して雇う人員は、ライラさん達のような使用人だけではないからな。
「上の者は、下々の者の考えを理解しなくても良い……というのは一部の貴族の考えですな。タクミ様は、やはり公爵家の考えと近いのかもしれません」
「公爵家の? まぁ、身分差をあまり感じさせない人達、というのはわかりますけど……」
クレアやエッケンハルトさんを見ていると、貴族という事を忘れてしまう事があるくらいだからなぁ……いや、クレアはなんとなく高貴な雰囲気を醸し出していたり、一般とは少しズレたような発言をする時はあるけども。
エッケンハルトさんは街にいる時はともかく、屋敷にいる時は面白い事が好きなただの気のいいオジサンみたいに感じる事が多い。
あまり貴族という事を前面に出さず、一般の目線に立って考えるようにしているとも感じられるから、今回知りたい思う事と考えが近いと言えるのかもしれない。
「貴族は人の上に立つ者。そして称えるのが当然と考える貴族も少なくはありません。とまぁ、他の貴族の事は今は良いでしょう。しかし、タクミ様が知りたいとなると……やはりラクトスの街で観察するのが良いですかな?」
「んー……それもいいんですけど、ラクトスは人が行き交っている大きな街じゃないですか。やっぱり、村に住んでいるような人の暮らしというのを見たいですね」
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