家は想像よりも大きく考えられていました
「厨房や風呂場、客間とかの配置はこの屋敷に似ている気がしますね?」
今いる屋敷の構造図とかは見た事がないが、それなりの期間お世話になっているのでなんとなく、位置関係は把握している。
思い出しながら見比べてみると、似たような配置になっているのに気付いた。
「それは、クレアお嬢様もそうですが、タクミ様やレオ様、そしてリーザ様が移っても迷う事がないようにですな。使用人もそうですが、いきなり部屋の配置が大きく変わってしまうと混乱してしまう場合もあります。なので、一度住んだ場所と移り住む場所では、配置が似る事が多いのです」
「この屋敷が元ではありますが、現在本邸として使っている方も、配置としては大きく変わっていません。まぁ、向こうの方が大きいので、中を移動するのに少々戸惑うくらいですね。時折、気分を変えるためと言って、大きく変えてしまう貴族もいるようですが……」
「そうすると、共に移動した使用人も一から配置を覚え直すので、大変な事が多いのです。実際には、そういった考えで作らせた貴族の方本人も、屋敷の中で迷ってしまったという話も、お聞きしました」
「確かに慣れないうちは、使用人さんも大変でしょうね。それに、自分で作らせて移り住んだ家の中で迷うのは、ちょっと恥ずかしいですね……」
そもそも、大きな家で余裕のある部屋数を持てるのは、お金を持っている人くらいみたいだし、慣れて使い勝手がいい配置のままにしておいた方が、暮らしやすいという考えなんだろう。
奇抜な配置にしても不便なだけだし、俺も屋敷に来てすぐの頃みたいに、ライラさんに案内してもらわずに済むからありがたい。
それはいいんだが……ちょっとどころではなく気になる所が……。
「配置に関してはもっともなので、このままでいいと思うんですけど……ちょっとこれ、大きすぎませんか?」
「そうですかな? これでも、当屋敷よりは小さくなっているのですが……」
「そうよねセバスチャン?――新たに雇う人もいますけど、この屋敷よりも人が少なくなるのですから、これくらいがちょうどいいと思いますよ、タクミさん?」
「確かにこの屋敷に比べたら小さいんでしょうけど……」
配置図をよく見てみると縮尺までは書かれていないが、厨房などの大きさからなんとなく想像はできる。
そのうえ、二階があるのはまだいいんだけど、三階や四階……五階まで……。
公爵家の別荘である、今いる屋敷よりも小さいとは言ったって、この規模だともはや家というより屋敷という方が正しい。
それなりに大きくなってしまうのは覚悟していたけど、ここまでになるとは……というか、部屋数が増えて三階くらいならまだしも、五階まであるのは行き過ぎじゃないかな?
「本邸はここの屋敷よりも大きいですし、実際には作り始めたばかりなので図を見るだけですけど……これくらいならあまり時間もかからずに完成しそうです」
「いや、時間がかかるとかそういう事ではなくて……」
「広さで言えば、この屋敷よりも少々こじんまりとした佇まいと言ったところでしょうか。その分、階を増やして部屋の広さや数を確保しようと考えております」
うーん……なんと言ったらいいのか……こんなところでと言うのもあれだけど、一般庶民の俺と貴族とその関係者との大きな隔たりを感じてしまう。
今いる屋敷より小さいのは当然として、レオが自由に動き回れるようある程度広く空間を取る必要があるため、それなりの建物になるのは覚悟していた。
けど、さすがに五階建てになる程とは……というか、そんなに部屋数って必要かな?
「高く建てても三階とか……二階程度ではできませんか?」
「……それはできますが……タクミ様、そうしますと部屋数だけでなく建物その物も小さくなりますが?」
「権威を誇る建物、というわけでもないので小さい家でいいんですよ。レオがいるのである程度の大きさは必要なのはわかりますけど、さすがに五階建てというのは大きすぎると思います」
以前、エッケンハルトさんと話した時に解決した問題だと思っていたのに、ここにきてまた家を大きくするかどうかという問題が再燃してしまった。
まぁ、あの時抵抗したからこそ、この屋敷より小さく収まっているんだろうから、あの時の話が無駄だったとは思わないが……放っておいたら、巨大すぎる建物を作りそうだったからな、主にエッケンハルトさんが。
「ふむ……タクミ様やクレアお嬢様のお部屋は当然作りますし、リーザ様も必要でしょうな。……使用人部屋を少なくするか、小さくする事で対応できるでしょうか……」
「えっと……できれば皆に快適に過ごして欲しいので、あまり部屋を小さくするのはちょっと。他に縮小できる部屋ってないんですか?」
「あとは、食堂や客間を小さくしたりですかな。客室もありますので、そちらを減らすというのは……」
「セバスチャン、それはタクミさんが侮られることに繋がると思うわ。もちろん、主人であるタクミさんの部屋より大きくする必要はないと思うけど……」
「はい、心得ております。公爵家との関係もありますので、クレアお嬢様とタクミ様は同等のお部屋……レオ様が過ごされる事を考えて、タクミ様の方が少々大きくなりますかな。ともあれ、客室などの他の部屋よりも小さく済ませるという事はございません」
「えっと……そんなに大きな部屋じゃなくていいんですけど……」
俺の部屋なんて、ベッドと机があれば十分なくらいだ。
まぁ、レオがいてリーザとかと一緒に過ごすだろうから、それなりの広さは必要になるだろうが……今いる部屋でも、少し大きく感じるくらいだからなぁ。
大きなレオがいても、狭く感じる事がないくらいだから。
というか今の話を聞く限りだと、俺の部屋って一番大きな部屋になるって事なのか……食堂とか客間よりも? それはさすがに大きくし過ぎだろうと思う。
「タクミ様、クレアお嬢様や公爵家と共同で作る家とはいえ、主人はタクミ様となります。そして、その主人であるタクミ様が小さな部屋で過ごされているとなると……」
何やら、小さな部屋をと説得しようとした俺に、セバスチャンさんが真剣な表情で説明を始めた。
いつも説明する時は多少なりとも楽しそうな雰囲気を出すセバスチャンさんが、それを感じさせない様子になっているから、大事な事なんだろう。
クレアも真剣な表情をしているから、ちゃんと聞いておこう――。
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