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819/1997

セバスチャンさんはなんとか無事でした



「ワウ!」

「ガウ!? ガウー!」


 少しの間レオがかなりの速さで走り、かなり遠くまで行っていたフェンに追いつく。

 後ろから、追いついたぞ! と言うようにレオが吠えると、走りながらも器用に後ろを見たフェンが驚きの声を上げた。

 こういう反応は、リルルやフェリーと似ているな……まぁ、馬で追いかけるのも難しいくらいの速さで走っているから、追いつかれると驚くのも無理はないのかもな。

 前回馬車を曳いて走った時、ヨハンナさんが目印になって引き返すようにしていた場所と、同じくらいの場所だな。


 屋敷からラクトスへの距離にすると、約三分の一程度だが、数分程度でその距離を移動できるのは凄いな……。

 このまま走れば、ラクトスまで二十分もかからないだろうし、レオやフェンが全力で走ったら十分程度で行けそうだな。


「おぉ、タクミ様、レオ様! これでようやく助かります!」

「あーいや、セバスチャンさんを助けに来た訳じゃ……」


 俺とレオの姿を見て、フェンにしがみ付いていたセバスチャンさんが、救われたような表情で叫ぶ。

 けど……目的はセバスチャンさんを助けに来たり、フェンを止めるためだったりはしないので……。


「ガウ!」

「ワウー!」

「え……そんっ……!」


 俺が話し終わる前に、フェンが吠えてさらに加速……それに対し、レオも負けずに吠えて加速をした。

 なんとなくこうなるんじゃないかと予想していたため、備えていた俺は大丈夫だが、セバスチャンさんは悲鳴とも取れる声を途中で途切れさせて、フェンにしがみ付くので精一杯の状態になる。


「レオ、ちょっとだけ走ったら、フェンに止まるよう言ってくれ。さすがにそろそろ、セバスチャンさんがかわいそうだ」

「ワフ」


 顔色も悪かったし、ちょっとだけレオやフェンに走らせたら十分だろう。

 そう思って、レオに声をかけて頷くのを見届け、少しの間かなりの速度で走るレオから落ちないように気を付ける。

 以前レオが言っていたが、走っている時は前面に風避けの魔法だったかを使っているのが、なんとなくわかる。

 まぁ、教えられないとわからなかったんだが……ともあれ、前方からの風があまりなく、左右から吹き付ける風だけなので息がしづらいという事はない。


 確かにこれなら、走る時に空気の抵抗があまりなくて速度が出るのかもなぁ……全くないわけじゃないけど。

 正面からの空気抵抗っていうのは結構影響があるものだし、速度が出れば出る程きつくなってしまう。

 これなら、向かい風とかも気にしなくて良さそうだ。

 走る時もそうだけど、自転車だとペダルを漕ぐのもあって向かい風が強い時は、かなりきついもんな……。


「ワフ?」

「あぁ、そうだな。そろそろいいと思うぞ? それに、レオもそれなりに走って満足しただろ?」

「ワウー」


 フェンと並んで走っているレオの背中で、ある程度慣れてきたので思考する余裕ができていた俺に、レオからの問いかけ。

 それに頷き、毛を掴んでいる片方の手でレオの体を撫でておいた。

 満足そうな声を出すレオは、それなりに体を動かせて本当に満足そうだった……フェンリル三体に追いついたり追い越したりしても、全力じゃないところが、シルバーフェンリルの凄いとこだな。

 できれば全力で体を動かして、もっと満足して欲しくもあるが……その際には何かを犠牲にしなければいけない気がする……主に、セバスチャンさんとかフィリップさんとか……。


「ワウワウー!」

「ガウ? ガウー」


 益体もない事を考えている俺を余所に、レオがフェンに対して吠えて速度を落とす。

 レオの声が聞こえたフェンは、一度首を傾げた後同じようにゆっくりと速度を落とし始めた。

 速度が速度だからな……急ブレーキをかけて止まると、乗っている俺やセバスチャンさんが放り出されかねない……その辺りは、フェンもわかっているようで少し安心した。

 まぁ、単純に急に止まれないだけかもしれないが……車と違って足を使っているからな。


 車は急に止まれない、ならぬ、フェンリルは急に止まれない……なんて標語が頭に浮かんでしまった。

 街中ならともかく、地平線すら見える広い場所で飛び出しがあるとは思えないけど……。


「ぜぇ、はぁ……や、やっと止まって下さいました……」

「大丈夫ですか、セバスチャンさん? あ、これを食べて下さい」

「大丈夫、とは言いかねますが……なんとか無事でございます。おぉ、ありがとうございます。またこれのお世話になりますな……」

「ははは、ラーレに乗った時は役に立ったようですからね」

「ワウ、ワフワフ」

「ガウ……ガウ!」


 完全に止まったフェンの背中から、一旦セバスチャンさんが降りて荒い呼吸を吐く。

 俺も同じように、レオから降りてセバスチャンさんに近付きながら、懐に入れておいた薬草を取り出して渡した。

 薬草は、疲労回復の薬草で、ラーレに乗った時にセバスチャンさんが食べて乗り切った物だ。

 まぁ、あの時は乗り物酔いのような状態で、今回は酔ってはいないようだが、息切れをしているしむしろ今回の方が役に立ってくれるだろう。


 お礼を言って受け取ったセバスチャンさんは、すぐに薬草を口に含んで飲み込んだ。

 レオの方は、フェンの正面から何やら指導するように鳴いている。

 ……多分、もっと乗っている人の事を考えろとか、走り方が荒っぽいとか言っているんだろうけど、今回のレオも相当なものだったぞ?

 体が振り回されたりとか、荒っぽい走りではなかったけどな。


「ワウワウ。――ワフ、ワフ?」

「何やら、レオ様が私に聞いている様子ですが……?」

「あー……なんというか、もう一度フェンに乗れるかどうかを聞いているみたいですね。まぁ、結構屋敷から離れたので、乗って帰らないと時間がかかりますから、仕方ないかと……」

「え、えーと……わかりました……ですが、少々手加減をして頂ければ……と思います」

「ワフ!――ワウ!」

「ガウ!」


 フェンに何事かを話したレオは、俺ではなくセバスチャンさんの方に顔を向けて首を傾げる。

 声と雰囲気から、レオが言いたい事をセバスチャンさんに伝えると、一瞬だけがっくりと肩を落とした後、力なく笑いながら承諾をしてくれる。

 セバスチャンさんは、疲労回復の薬草の効果はあったようで、すぐに呼吸も整っていたのに……またさっきのようになると想像したのか、顔色が悪くなってしまった――。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


別作品も連載投稿しております。

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■7巻書影■mclzc7335mw83zqpg1o41o7ggi3d_rj1_15y_1no_fpwq.jpg


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神とモフモフ(ドラゴン)と異世界転移


完結しました!
勇者パーティを追放された万能勇者、魔王のもとで働く事を決意する~おかしな魔王とおかしな部下と管理職~

申し訳ありません、更新停止中です。
夫婦で異世界召喚されたので魔王の味方をしたら小さな女の子でした~身体強化(極限)と全魔法反射でのんびり魔界を満喫~


― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 セバスさんがお姫様ポジションに!?
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