醤油は貴重品のようでした
「なんでも、昔の国王陛下が醤油を求めたらしく……詳しくはわかりませんが、この国では作られていないどころか、作る事ができないらしいので、他国から買っているのです。ただ、一般市場で誰もが買える料や値段ではありませんが……一応、この屋敷も少量ながら買ってあります」
「そ、そうなんですか……」
昔の国王陛下って、醤油の事を知って求めたっぽいから、ユートさんの事だよなぁ。
ユートさんの事を知ってから、色々とその影響を知って思い浮かべる事が多くなった気もするが、醤油は日本人にとって食を形成する重要な調味料の一つ。
日本人なら誰もが欲しがるだろう……というか、醤油があるという事は他国に米があるという事で……大豆もあり、米もあるなら醤油ができるのは自然の理。
でもそれなら種もみとかを買って、この国で根付かせようと思わなかったんだろうか? いや、その辺りはユートさんに直接聞いた方がいいか、ここで考えたって答えは出ないんだし。
少量しか輸入できないという事は、米や作れる醤油の量そのものが、何かしらの理由で少ないのかもしれないしな。
とにかく今は、醤油があった事を喜ぼう。
「ただ、その醤油を使うとなると……ちょっと難しいかもしれません」
「難しい? あ、量が少ないんでしたね」
「はい。醤油そのものは公爵家なので融通されたりもしますが、その値段が……一度だけの料理に使うのなら、その時の贅沢として作れるでしょうけど、大量に買ったニャックを消費する程までは、さすがに……それに、融通されると言っても、結局少量しか買えませんので」
「それは確かに……難しいですね。量が少ないと、大量に使う肉じゃがは作れません」
どれだけの量が買ってあるのかはわからないが、一食分だけはなんとか作れたとしても、頻繁に作れないのならあまり使わない方がいいだろう。
一人分ならまだしも、多くの人が食べるには醤油が大量に必要だしな……そもそも肉じゃがを一人分というのは、逆に作りにくいが。
「とりあえず、こちらがその醤油になります。舐めてみますか?」
「……確かに少ないですね。でも、それしかないのに舐めてもいいんですか?」
ヘレーナさんが取り出したのは、手のひらに収まる程度の小さな小瓶。
その中には、見覚えのある黒い液体が入っているけど……小瓶の大きさから見るに、百ミリリットルもなさそうだ。
それだけ貴重な物なら、肉じゃがには使えないな。
でも、久しぶりの醤油でヘレーナさんから舐めてみるか聞かれて、伺いつつも喜んでいたりもする…久々の醤油……!
「タクミ様なら、問題ないでしょう。そもそも、醤油があってもしょっぱいという感想が出るだけで、今までほとんど使われる事がなかったのですから」
「そうですか……わかりました。それじゃ、一舐め……」
ヘレーナさんにお願いして、小さめの皿に一滴程垂らしてもらい、それを舐める。
醤油を味わえるんだから、行儀が悪いとかそんな事を考えている余裕は一切ない。
まぁ、味見をすると考えれば、誰からも咎められる事はないと思うけど。
「ん……~っ!」
「タ、タクミ様、どうなされました!?」
「どこかおかげんでも悪く……!?」
「い、いえ……ちょっと感動してただけなので、気にしないで下さい」
醤油を舐めて、心の中でガッツポーズをしながら思わずしゃがみ込んでしまう俺。
その様子を見て、ヘレーナさんとゲルダさんから驚いて声をかけられるけど、心配いらないですよー。
厨房にいる他の料理人さんも、こちらを見ていた……醤油だから仕方ないんだが、ちょっと恥ずかしい。
しかしこの醤油……俺が日本で親しんだ物よりも、味が違うような……?
いや、日本の醤油も色々と味の違いがあったし、そういった違いの範疇ではあるんだけど……なんだろう、考えていたよりもしょっぱくて、確かにヘレーナさんの言うようにどういった料理に使えばいいのか、悩むのも無理はないように思えた。
高級な物で少ししかないから、試しに使ってみよう……なんて事ができないのもあるんだろうけど。
しょっぱいというか塩辛く、濃口醤油よりもさらに塩分が多く感じるけど、大豆の風味も感じられてちょっと不思議だ。
なんにせよ、俺が考えていた日本の醤油と多少は違っても、醤油である事には変わりなく、内心ではひたすら感動していたりもする。
……だって、久々だから仕方ないよな……ヘレーナさんの作る料理は美味しいし、この世界で食べる物に不満があるわけじゃないんだけど、慣れ親しんだ日本食を思い出してしまったんだ……。
「醤油に関しては、また後々考えましょう。とにかく、ニャックを使った料理です」
「は、はぁ……わかりました」
たった一舐めで俺を感動させた醤油は、肉じゃがで使ってしまうのはもったいないと、話を変えてニャックを使う料理に戻る。
ヘレーナさんはポカンとしていたけど、許して欲しい……醤油を使い切ってもうない、という状況よりも、使わずにまだ醤油がある……という状況の方が精神を保っていられるんだから。
なので、すみませんがヘレーナさん、時折でいいので一滴くらい舐めさせて下さいね……!
……いずれ、ユートさんとまた会ったら醤油に関して問い詰めよう……あと米もだな。
「これはこれで、今までと違った食感も加わって、美味しいですね」
「そうだね。ヘレーナさんが美味しく作ってくれたおかげかな」
結局、醤油に関してなんだかんだありつつも、ポトフの中に小さく切ったニャックを一緒に入れて、煮込んでみようとなった。
ニャック自体、味の主張が激しい物じゃないから問題なく食べられるし、コリコリしたような弾力も加わってそれなりに好評だ。
まぁ、レオとシェリーはソーセージとか別の肉料理に夢中だけど。
「歯応えがありますし、食べ応えがあるようにも感じます」
「芋や小麦を使った、穀物類の料理を減らして、ニャックを混ぜた物を多く食べれば、痩せる効果も少しずつ出て来ると思うよ。料理を減らすと言っても、品目を減らすのではなく量を減らす感じでね」
「成る程、カロリーという物が多い食べ物を減らし、ニャックを代わりに食べるのですね。食べる総量は変わらないように思えても、結果が違う……と」
「そんな感じ……かな。全体の量を減らすだけで痩せようとすると、必要な栄養を摂れなかったりもするから、ちゃんと食べたうえで痩せるのが一番いいと思う」
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