ニャックを使った料理について相談されました
厨房に入って、忙しそうな料理人さんの中からヘレーナさんを見つけ出し、声をかける。
ヘレーナさんは俺を呼び付けたと謝っているけど、厨房内の様子を見る限りでは仕方ないだろう……皆、忙しなく動いて夕食の準備中だし、手が離せなかったんだろうから。
ちなみに、部屋からゲルダさんが付いて来て、ニャックに興味がある様子なのは俺がクレアに話していたのを聞いていたからだと思う。
ダイエット食品的な事を、話していたりしたからなぁ。
あと、こういう場合にはいつもどこからか現れるセバスチャンさんは、今回はいない様子だ……まぁ、街から帰ってきたばかりだし、色々とやる事があるのだろう。
「それで……ですけど……」
「ニャックの事、ですよね?」
「はい。クレアお嬢様が大量に買われたとか。なんでも、本日持ち帰った樽とは別に、まだ六樽程届く予定と聞きました。日持ちはするようですが……さすがに無駄にするわけにもいきませんので、タクミ様のお知恵を借りようと考えた次第です。ニャック自体は、話に聞いていた事くらいはあるのですけど、扱った事がなかったもので……」
「初めて扱う食材ですから、少しでも知識が欲しいというのはわかります。どんな物かわからなければ、どう扱っていいかもすぐには思いつきませんからね」
トフーのようにプルプルしているのは同じだが、弾力や見た目の色なんかも違う。
以前、俺がニャックというかこんにゃくの事を聞いたりと、知っている風だったので相談しようと思ったんだろう。
「えーと、試食とかは?」
「全員ではありませんが、一部の料理人と一緒に。色以外は、なんとなくトフーと同じに見えましたが、その弾力は全く別物で、食感が楽しい物であると感じました。味は……トフーよりは、はっきりと感じられますね。ただそれだけでは美味しいとも美味しくないとも、判断が難しいところです」
「芋から作られる物ですけど、芋とはまた違った味なんですよね。味に関しては好みが別れるかと……まぁ、極端に嫌う人はあまり多くないと思いますが。ティルラちゃんやリーザとかの、子供達は美味しいと言っていました」
あの二人は、食感が面白いと感じて、味も美味しいと多少錯覚をしている部分もあるだろうけどな。
逆に、人間のような歯ではなく牙を持つレオやシェリーは、食感を楽しむ事ができず、あまり歓迎されていない様子だった。
肉の方がいいというのはあるんだろうが、トフーよりも微妙な反応だったので、単純に味の好みなのかもしれない。
「そうですか……という事は食感は残った方がいいですね。タクミ様は、何か良さそうな料理をご存じでしょうか?」
「んー……あまりこれと言って、知らないんですよね……」
ハンバーグにしろ、トフーをサラダにという案にしろ、なんとなく知っていたという部分が大きい。
というよりも、ハンバーグは料理初心者で簡単に作れる料理というだけだしな……気を付けるのは、焼き加減と空気を抜いたり混ぜる食材くらいか。
焼き加減はヘレーナさん達、料理人慣れている人達に任せた部分が多いし、食材に関しては完全に同じ物ではなくとも近い物があったからだ。
特に珍しい物や、使い方や分量に気を付けないといけないような物は入っていない。
空気を抜く事も、やり方を知っていてれば難しい事じゃないし……トフーをサラダと混ぜて食べる、なんてどこかで見かけた食べ方なだけで、簡単な使い方だし特別な事は何もしていない。
料理をほとんどして来なかったのもあって、ニャックを使った料理で良さそうなものが思いつかない。
時間を使って料理をする暇がなかったとも言えるが、時折ハンバーグを作る以外は、あまり自炊をしていなかったからなぁ……やっても適当に食材を突っ込んで炒めたりとか、その程度だし、凝った料理なんかはとてもじゃないけどできない。
「ニャックを使った料理……とりあえず思いつくのは、煮物とか……ですかね?」
「煮物、ですか?」
こんにゃくの入った煮物と言えば、最初に思いつくのは家庭的な料理として、日本人なら多分誰でも知っているであろう、肉じゃがだ。
あれなら、ニャックも美味しく食べられるし、既に茹でてある物だから味が染みるのも早い……でも、あれって醤油がいるんだよなぁ?
調味料として必須だったはずだから、醤油がないとどうにもならない……ここにあるんだろうか?
「とりあえず、思いついたのは肉じゃがという料理です。水の中にじゃがいも……じゃないや、ポテトを一口サイズに切って、ニャックや他の物も小さく切る。それと一緒に炒めた肉を少し入れて、味が食材に染みるまで煮込むという料理です。ただ、一番肝心な調味料の醤油がないと、美味しくはならないんですよ……」
「ほぉ、そんな料理が。ブイヨンやフォンといった煮汁と一緒に、食材を煮るという料理はありますが……そうではなく、水に調味料を加えて煮るだけなのですね」
まぁ、ポトフのような料理も出て来た事があるし、ロールキャベツもどきとかもあるんだから、コンソメもあるわけで、それならブイヨンやフォンといった出汁もあるだろうからな。
ヘレーナさんが考える煮物の基本は、ブイヨンなどで煮込んだ物で、出汁を取るというよりも調味料で調節するというのはあまりしないみたいだ。
いやまぁ、肉じゃがもそれぞれの素材から出汁が出て、うま味が増すというのはあるだろうけど、それはまた別だろう。
あと、ブイヨンに関しては聞いた話では、長時間煮込まないといけないみたいで、時間がかかるから薪が燃料のここではそれなりに費用が掛かるので、高級料理として扱われているみたいだ。
もちろん公爵家では問題ないが、一般の人はほぼ食べた事がなく、存在は知っていてもどんな味かは知らない人の方が多いらしい。
「それで、醤油がないとちょっと難しいと思うんです。なので別の料理を……」
「え? 醤油ならありますよ、タクミ様?」
「は?」
なんだろう、今の俺は結構間抜けな表情をしている自信がある。
何せ、口から出た声も間抜けだったから……。
というか、醤油あるの!? 大豆があるから、あってもおかしくないけど……あれってこうじ菌がないといけないはずで……こうじ菌は米の稲がないといけない。
つまり……探せばどこかに米がある……という事?
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