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アンナさんの話に感銘を受けました



「ともあれ、子供達とは血が繋がっているわけではありませんが、それでも家族だと、私は考えています。ですので、あまり多くはありませんが、これまでレオ様やリーザちゃんとの接し方を見て、そしてタクミ様がさっき仰った事……信頼できると、私は思います」

「……ありがとうございます」


 ライラさんの冗談のおかげで、少し和やかになった雰囲気の中、アンナさんはしっかりと俺と視線を合わせながら、信頼してくれると言いきってくれた。

 家族か……ディームの適当な挑発に対して、血が繋がってなくても家族だと、レオやリーザがもう家族なんだと言ったのを思い出す。

 あの時は、本心ではあるけど勢い任せだった……それが今のアンナさんの言葉で、すんなりと自分の胸の内に収まった気がする。

 血が繋がっているだけが、家族じゃないよな……レオやリーザは、種族も違うけど……それも関係ない。


 もしかしたら、気付かないうちにディームが言った家族ごっこというのが、棘のように刺さって気にしていたのかもしれない。

 両親を早くに亡くし、伯父さんに育てられた経験から、ずっと本当の家族というのを追い求めていたのかな……?

 全てではないけど、一つの答えのようなものが見えた気がして、目頭が熱くなる。


「あらあら、私ったら……年甲斐もなく語ってしまったわね。申し訳ありません、タクミ様。今のは年寄りの戯言と思って、聞き流して下さい」

「……いえ、ためになる言葉でした。アンナさんの言葉を忘れず、子供達が笑って過ごせるよう、そして皆で家族になれるよう努めたいと思います」

「タクミさん……」

「タクミ様……」


 ちょっと語りに熱が入ってしまったのを、誤魔化すように笑いながら、恥ずかしそうにするアンナさん。

 でも、俺には響いた言葉だったから、聞き流したりなんてできないし、忘れる事はないだろう……いや、忘れないようにしないとな。

 でも差し当たって、クレアとライラさんから注がれる温かい視線が、逆に痛い……これ、絶対俺が泣きかけているのに気付いているんだろうな……アンナさんに話す声が、かすれ気味だったし。

 セバスチャンさんなんて「わかってますよ……」と言うように優しい笑顔で頷いているし、デリアさんはなぜかポロポロと涙を流している……あれ、何で泣いているの?


 もらい泣き……というかもしかして、アンナさんの言葉がデリアさんにもクリティカルヒットしたのかもしれない。

 薬草畑で子供を雇うと言う話だけのはずだったのに、なんでこんな雰囲気になったんだろう? と思いながら、ライラさんの淹れてくれたお茶を飲んで、誤魔化す事にした――。



「あー……失敗した……」

「あら、そうなんですか? タクミさんの珍しい表情が見れて、私は楽しかったのですけど」

「楽しむために来た訳じゃないでしょ、クレア。はぁ……」

「男性は、あぁいった部分を隠したいと思う方が多いのですよ、クレアお嬢様。今はそっとしておきましょう」

「そうなの?」

「セバスチャンさん、そう言われると余計に恥ずかしいんですけど……」


 アンナさんが席を外し、俺達だけになった部屋でテーブルに突っ伏し、溜め息と共に呟く。

 クレアは楽しくとも、俺は泣きそうになってしまうなんて思っていなかったから、恥ずかしいだけだ……最近は、以前よりクレアの方から楽しい事を表に出しているようだから、喜ばしくもあるんだけど。

 というかセバスチャンさん、止めを刺さないで下さい……男なんて、大体強がりたい生き物なんですから、泣きそうになったのを見られるのが恥ずかしいのは、俺だけじゃないんです、きっと。

 ちなみに、泣きそうになっただけで泣いているとは認めない……。


「ダグビざまぁ……」

「あぁ、ここにもっと酷い事になっている人がいるんだった」


 俺はまだ泣きそうに、で誤魔化せる範囲だと思っているけど、隣には完全に誤魔化せないデリアさんが、まだ涙を流していた。

 ライラさんがハンカチを……取り出したけどすぐに足りないと思ったのか、タオルを取り出して泣いているデリアさんの涙を拭い始めた。

 落ち着くまで、あちらはライラさんに任せた方が良さそうだ。


「獣人なので、感受性が強いのもあるのかもしれませんな。単なる予想ですが……まぁ、タクミ様は本日緊張の連続だったのでしょうから、その影響もあったのでしょう」

「あー、そうかもしれません。アンナさんの言葉があって、なんというか一気に肩の力が抜けたというか……もう少し頑張りたかったですけど」

「タクミさんは、十分頑張っていると思いますよ? 子供達の事に関しても、アンナを立派に説得して見せましたし」

「そうは言っても、最初からアンナさんは断りそうにはなかったから、説得と言う程じゃないんじゃないかな?」


 初めての面接……いや、面談をする前から街の代表であるソルダンさんと話をし、見学されながらの面談。

 さらに、デリアさんとの話や孤児院で子供を雇う事へのお願い……屋敷を出てから、ずっと頭の中はフル回転だったからなぁ。

 おかげで、子供に休日をさらに多くして雇う、というのも思いついたんだが。

 ともあれ、さっきのアンナさんと話していた様子を見るに、複雑な心境にはなっても、断られるような事はないと思ったんだけど……?


「タクミ様、院長はタクミ様からの話で人となりを判断し、信頼すると決めて任せる事にしたのです。おそらく、途中で自信満々に子供達を育てて見せる……なんて言っていたら、断られたでしょう。その辺りは院長をしているだけあって、厳しく見ています」

「そうね。――虚勢を張るだけの言葉なら、アンナは見抜いて断ったかもしれません。子供達と毎日接して、よく見ているだけはあります。だからこそ、あえて信頼するという言葉を選んだのでしょうね」

「そ、そうなんだ。まぁ、できるかわからない事をできると言いきったり、自信を前面に出してとかは苦手だから……いい方に働いたと思えば、いいのかな?」

「自信があるように見せるのは、場合によっては有効ですが、この場では普段のタクミ様で良かったのでしょうな」


 孤児院の院長だけあって、わりと強かなのかもな……今回は自分の情けなさのおかげで、なんとかなったと喜んでおこう。

 本当に情けなくなってしまうから、この喜び方は程々にしておきたい――。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


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