新しい思い付きを披露しました
「タクミさん、子供でも働く事ができる仕事というのはあるので、人手が足りない場所や、お金に困っている子供などは働く事もあるのです。禁止をしているわけではありませんから。とはいえ、全てを監視する事もできないので、無理に働かせられている子供もいるのですけど……」
「ですが、公爵様やクレアお嬢様は、施策としてしっかり取り締まられております。この街にはスラムがありますが……それでも、子供の立場が弱い事を利用する者は、他領よりも少ないと聞いています」
「ヴレイユ村でも、一部の子供は畑を手伝ったりしていました。森は、子供には危険なので手伝わされたりはしませんでしたよ」
「成る程。それなら、少しくらいの仕事をしてもらっても良さそうですね。さっきも言いましたが、無理矢理働かせたり、嫌がる事をさせるつもりはありません。けど……アンナさんはどうして難しい顔を?」
セバスチャンさんの説明から始まり、クレア、アンナさん、デリアさんと子供も働く事がある現状を教えられる。
そうか……機械化が進んでいないし、大人程ではなくても労働力として認められているのか……それに、一番警戒すべき大人による子供の搾取も少ないようだ。
それなら、孤児院の子供達を雇う話をした時、エッケンハルトさん達やセバスチャンさんが特に反対しなかったのも頷けるな。
俺自身が、子供を搾取しないと信頼されている、というのもあるんだと思う。
「いえその……孤児院では外へ行っても一人前になれるよう、教育をしております。ですがそれでも子供なので、まだまだ未熟な部分が多く、タクミ様やレオ様、クレアお嬢様方に迷惑をかけてしまうかもと……」
「あぁ、そういう事ですか」
成る程、ここにいる子供達の事だから、何か失敗した時に迷惑をかけてしまうのではと心配していたわけか。
まぁ、正直大人を雇うよりも不十分なところはあるのは当然だし、未熟なのはわかっているから、多少失敗するくらいは許容範囲だ。
それに、さすがに子供にいきなり重要な仕事を任せたりはしないし、簡単な作業をしてもらったりしながら、ランジ村で伸び伸びと育って欲しいというくらいだからな。
むしろレオやリーザの遊び相手になってくれるだけでも、ありがたい。
「それなら大丈夫です。子供でもできるような単純な仕事を任せますし、大人と同じように働かせる気はありません。まぁ、成長して大人になって、ちゃんと働く気ならその時にですね」
そういう気があるなら、改めて雇う事も考えている。
ずっと働いてくれていれば、他の事だって見ているだろうし、即戦力として期待できるからな。
そのためには、成人しても働きたいと思うように、運営する俺がちゃんとしないといけないんだが……あと、赤字経営で立ち行かないなんて事も避けねば……『雑草栽培』を使うから、そんな事にはならないと思うけど。
「単純な仕事と言いますと……?」
「そうですね……ちょっと力仕事になってしまいますが、畑を耕したりですね。あと、薬草を調合する際に混ぜる必要があるんですが、その作業をお願いしようかなと」
畑を耕すのは農具を使ってだから、それなりに肉体労働だろうけど、さっきの話なら農作業を手伝う子供もいるようだから、問題なさそうだ。
調合の方は、今ミリナちゃんがやってくれている、すり鉢とすりこぎ棒で混ぜる作業だな……さすがに分量の事もあるから、そちらは任せられないけど、棒を使って単純に混ぜる作業ならできるだろう。
「あと、仕事は二日に一日……休みと仕事を交互にしてもらって、三回仕事をしてもらったら二日休みを与える、というのを考えています」
これなら、大人と同じように連休が取れるし、一週間七日として週休二日に似たサイクルで働ける。
まぁ、実はデリアさんにリーザの家庭教師をお願いしている時に、思いついた事なんだけども。
子供という事は、まだ教育というか勉強が不十分なのだから、休みを多くしてその分勉強をしてもらったりレオやリーザと遊んでもらえればなと考えた。
元々、子供達に関しては労働力を期待というよりも、孤児院に空きを作る方法として考えたから、これくらいが妥当だろう。
新しく孤児院を作って、子供達をそこに……という事まではできなくとも、小遣いを稼いでもらいながらのんびりと育ってもらえればなと思う。
さすがに、いきなり孤児院を作るなんて言ったら、ランジ村にとっても迷惑がかかる可能性が高いし、建物も作らないといけないので時間がかかるうえに、まだ初めてもいない薬草畑の運営が不安だからな。
とりあえず今は、これくらいが俺にできる限界か……孤児に対して何かをしてやりたいと思うのは、自己満足だと自覚しているが、おそらく俺が両親を亡くしている経験からだろう。
ちなみに、この思い付きを話した時、クレアとセバスチャンさんだけでなく、デリアさんやアンナさんも驚いた表情で固まっていた。
なんとなく、セバスチャンさんの目はまたこちらにはない考えを……と訴えているような気がしたが、驚かせる事ができて満足だ。
……セバスチャンさんを驚かせるために、考えたわけじゃないけどな。
「二日に一日で、三回に二日休みですか……タクミ様のやろうとしている事は一体……?」
「あぁ、そういえばまだ何をするのか詳しく話していませんでしたね、すみません……」
いきなり来て、孤児院に関して聞いたり、子供達を働かせるなんて言ってアンナさんが疑問に思うのも無理はない、というより当然だな。
もう少し、段取り良く話せたらいいんだが……ともかく、セバスチャンさんにも手伝ってもらって、アンナさんにランジ村で薬草畑を始める事を説明。
さらに、クレアも運営に加わって共同とし、できるだけ領内に過不足なく薬草を行き渡らせるつもりだと伝える。
薬草に関して、『雑草栽培』の事は伝えていないけど、アンナさんは子供達が病に罹っても薬草を買う事ができず、困った経験があるので、薬草畑を作って供給を多くするというのに表情を明るくしていた。
孤児院の運営自体は問題なく、お金に困っていなくとも、薬草そのものがなければ大変な事になると体験しているので、薬草畑をやるのは歓迎してくれる様子だ。
そこから、なぜかセバスチャンさんが孤児院で人員を雇うと言い出した俺の考えを説明し始め、アンナさんと一緒に称えるような雰囲気になってしまった。
もしかしなくても、ついさっき驚かせた事への仕返しかな? と思うのは穿った見方ではなさそうだ――。
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