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762/1997

デリアさんは混乱の極みに達しているようでした



「た……たたたくくくみささささ……」

「……デリアさん、もう少し落ち着いて下さい」

「で、ですが……め、目の前にシルバーフェンリル様がい、いらっしゃいますので……」

「ワフ」

「あれ、この人も耳と尻尾がありますよ?」

「あぁ、この人はね……」


 後ろから声をかけられたが、その声は震えすぎていて、かろうじて俺を呼んでいるというのがわかるくらいだった。

 とりあえず振り向きながら、落ち着くようデリアさんに声をかけたが、あまり効果はなさそうだ……視線をデリアさんのさらに後ろに向けると、セバスチャンさんとライラさんが首を振っているので、これ以上落ち着かせるのは無理そうだ、仕方ない。

 デリアさんの耳や尻尾を見て首を傾げるティルラちゃんに、獣人である事を説明しつつ、ゆっくりとデリアさんに近付いて右手を持ち上げる。


「た、タクミ様……な、何を……?」

「大丈夫です。緊張する必要も、怖がる必要もないですから……ほら、レオ?」

「ワウー」

「くぅーん……」


 大丈夫だと声をかけながら、右手を引っ張ってレオの前に立たせつつ、俺の声と視線で察したレオがデリアさんの前に鼻先を近付ける。

 そんなレオに向かって、デリアさんの右手を頬のあたりに這わせて、撫でるようゆっくり動かす……なんというか、孫の手で撫でている気分だ。

 レオに触れたからか、それとも緊張が極限に達したからか、デリアさんから聞き覚えのある気のする声が漏れた……って、レオが鼻から音を鳴らすのと似ているから、聞き覚えがあるように感じるのか。

 耳と尻尾、瞳からは猫にしか見えないのに、やっぱり中身は犬っぽいんだなぁ……。


「レオ、この人はデリアさんと言って、見た通り獣人だ。さっきの面接……というより面談か、そこに来ていたんだけど、レオに会いたいのが一番の理由らしい」

「ワフ?」

「あぁ。シルバーフェンリルの噂を聞いたらしくて、別の村から来たらしい。まぁ、詳しい事は後で話すよ」

「ワウ。……スンスン、ワウー」

「あ、あばばばば……」


 レオにデリアさんを紹介すると、さらに鼻先を近付けて匂いを嗅いだ後、ぺろりと舌を出してデリアさんの顔を舐めた。

 さらに緊張やら恐怖やら、様々な感情が溢れている様子のデリアさんは、もはや言葉にならない声を上げるだけになってしまった。

 うーん、もう少し落ち着いてくれると、ちゃんと話せるのになぁ。

 レオが襲ったりするわけはないし、獣人だからレオが何を言っているのかわかるはずだし、リーザと同じとは言わなくとも、仲良くなれると思うんだが……。


「デリアさん、そこまで喜ばなくても……」

「いえ、喜んでいるわけではないと思いますよ? 顔から血の気が引いておりますし……」

「まぁ、冗談ですけど。レオなりの挨拶でしょうから、安心して下さい」


 おっと、セバスチャンさんに突っ込まれてしまった。

 デリアさんを和ませる冗談のつもりだったんだが、本人にはまったく聞こえていない様子……どうしたものかなぁ?


「タクミさん、お疲れ様です!」

「パパー、連れてきたよー!」

「あぁ、クレア。そちらもお疲れ様。ありがとうリーザ。カレスさん、お久しぶりです」

「お久しぶりです。ですがこれは……どういう状況ですかな?」


 デリアさんをどうやって落ち着かせようかと考えていると、リーザがクレアとカレスさんを連れて戻ってきた。

 どうやら話が長引いているとかではないようだ。


「こちら、クレアさんです。――クレア、カレスさん、こちらはデリアさん。見ての通り獣人なんです……けど……レオに会ったらこの調子で……」

「レオ様を見て、緊張してしまっているのですね? ともあれ挨拶をしないといけませんね。えっと、デリアさん? 私、クレア・リーベルトです」

「クレア……リーベルト、という事は……まままままささささかかかか!! こここ、公爵家の!?」

「えぇ、お父様が公爵をしておりますよ」

「っ!?」

「……さらに混乱というか、緊張が増したようだね……これは失敗だったかな?」


 クレアとカレスさんに、デリアさんを紹介し、簡単に状況を説明する。

 とりあえず自己紹介を、とクレアが名乗ると体をピシッと固まらせて、叫ぶデリアさん……先程よりは言葉になっているけど、結局驚かせてしまったみたいだな、無理もない。


「ししし、失礼しました! こここんな、私なんかがシルバーフェンリル様のみならず、公爵家のお嬢様とお会いするなんて……」

「ワフ?」

「いえ、いいんですよ。失礼な事なんてありませんから。それにしても獣人、ですか……」

「す、すみません……獣人です。人間でない私が、公爵家のお嬢様の前に立つ事は許されないのかもしれませんが……」

「そんな事はありませんよ。獣人も人間も、見た目に多少の違いがあるだけで許されないなんて事、あるわけがありません。――タクミさん、この方はもしかして面談に?」

「えぇ。レオと会う事が一番の目的ではあるみたいだけど、働くために面談会場に来たんだ。最初は隠していたけど、なんとなく違和感を感じて聞いてみたら、獣人だったんだよ。それで、リーザに合わせてみようかなぁと思ってね。レオにも会えるし、ちょうどいいだろうから」

「そうですか……確かに同じ獣人なら、リーザちゃんと会わせたいと思いますよね。私も、他で獣人と会ったとしたら、同じ事を考えると思います」


 レオから手を離し、クレアに対の方へ体を向けてガバッと頭を下げるデリアさん。

 緊張してしどろもどろになりながらも、撫でる手を止めていなかったのだが、急に手を離したのでレオが首を傾げていたから、俺が代わりに撫でてやる。

 クレアに恐縮するデリアさんだけど、俺やセバスチャンさんが予想していたように、獣人だからといって嫌悪の感情はなく、微笑みながら対応している……少しは、デリアさんの方も安心してくれたようだ。

 デリアさんの事をクレアに説明すると、向こうも俺と同じようにリーザと会わせたいと考えるだろうと頷いてくれた。


「ねぇねぇ……お姉ちゃん?」

「はい? え、この子……もしかしてどころかもしかしなくても、獣人、ですか!?」

「うん、そうだよー。それでね、パパとママに助けてもらったの!」

「パパ、とママ……?」


 はて? という様子で俺を見るデリアさん……まぁ、そこは引っかかるよなぁ――。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


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