なぜか褒められ続ける流れになりました
「ここへ来る前、村の皆からは獣人だとバレたらいけないって言われていましたし、私もバレたら酷い目に遭うものだと思っていました」
「村の方達は、デリアさんの事を心配していたんでしょうな。あと、噂の事も知っていたためでしょう。それに、この街は最近はともかく、以前はもう少し治安が良くありませんでしたからなぁ。今では、タクミ様とレオ様のおかげで、大分安全になりましたよ。……とはいえ、外から流れつく者がおこすいざこざは無くなったわけではありませんが」
村はラクトスと離れているから、都会への偏見とかも混じっていそうだ。
とはいえ、噂の事は知っている人が多いし、一部……というかスラムではディームの扇動もあって、獣人を敵視するような向きもあったのは確かだ。
実際にリーザがイジメられて酷い目に遭っていたのは間違いないし、何も対策を講じなければ、デリアさんが単独でこの街に来ていたら、何かしらのトラブルに巻き込まれていたかもな。
そう考えると、レオと一緒にディームを捕まえてよかったと思う。
おかげで、最近はスラムに住む人達がおとなしいとかなんとか、セバスチャンさんから聞いたし、衛兵さん達も少しやりやすくなったらしいから。
「そうなんですか? タクミ様も、シルバーフェンリル様の……えっと……れ、レー……」
「レオ?」
「そうです、レオ様です。凄いんですねー。ありがとうございます、タクミ様。おかげでこうして尻尾を出して歩けます!」
「いや、俺は特に何かしたってわけじゃ……」
「ない、わけではありませんよね? スラムを牛耳る者を捕まえましたから」
「あー……まぁ、確かに」
まだちゃんと紹介していないせいか、デリアさんはレオの名前を覚えきれていないようだ……まぁ、名前というよりも、シルバーフェンリルとしての認識が強いからだろうけど。
デリアさんから感謝されて、なんとなく照れ臭かったのもあって否定しようとしたんだけど、セバスチャンさんに追い打ちをかけられた。
そりゃ、ディームの事もあるし、レオが街によく来るとあってあの大きな体を見て、悪事を働こうとする人間が減ったんだろうけどなぁ……最近のラクトスで広まっている噂もあって、悪事を働くと俺とレオが捕まえに来る、というような話もあるらしいから。
というか、ディームを捕まえるのもレオがいなかったらできなかった事だし、大半がレオの功績な気がしなくもない。
もう少し、頼らずに色々できるようになって、相棒と胸を張って言えるようになりたいなぁ。
既に相棒と周囲に言っているし、レオも頼られるのが嬉しいみたいだから、焦る必要はないんだろうけど……リーザにも頼られると嬉しそうだしな。
「公爵家の方々と協力して、タクミ様とレオ様がこの街の治安を良くしているんですね!」
「協力……は確かにしているか。でも、ほとんどレオのおかげなんだよねぇ……」
「ほっほっほ、レオ様の活躍が大きくともそれはタクミ様がいらっしゃるおかげ、でもあると私は考えておりますよ」
「……やけにおだてますね、セバスチャンさん?」
「いえいえ、私は事実を申しているだけですので……」
カレスさんの店へ移動しながら、嬉しそうにピョンピョン飛び跳ねるデリアさんだけでなく、セバスチャンさんも加わって、やたらと俺が褒められながら歩くという状況になってしまった。
隣ではライラさんが頷いているし、護衛さん達も頷いていたり……なんだろう、褒められ慣れていないせいか妙に面映ゆい。
何かの罰ゲームを受けているような気分でもあるけど、皆はからかうつもりはないようだ……セバスチャンさん以外。
そんな風に、なんとなく恥ずかしかったりなぜこんな話に、なんて考えつつ、尻尾が自由になって楽しそうなデリアさんを見つつ、レオ達のいるカレスさんの店へと向かった。
しかしデリアさん、興奮しているのもあってか、一度は落ち着こうとしたみたいだけど、すぐにまた動き回るようになったなぁ……。
なんとなく、遊んでいる時のリーザに似ている気がしなくもない……いや、容姿とか耳や尻尾は全く違うんだが、雰囲気がな。
リーザも、大きくなったらこんな感じなのかな?
「ワフン!」
「うぎゃー! やられたー!」
「あははは、レオ様つよーい!」
「ん? 騒がしい……のは子供達と遊んでいるから当然だろうけど、思っていたのと違う?」
「楽しそうな声に混じって、悲鳴のようなものも聞こえましたな。いえ、その悲鳴も楽しそうではありましたが」
「シシシシ、シルベーフェンリリ様の気配が……」
目的のカレスさんの店が見える辺りまで来ると、何やら騒がしい声。
子供達を集めてレオと遊ばせているはずだから、騒がしいだろうというのはわかっていたけど、考えていたのと少しだけ様子が違って、セバスチャンさんと顔を見合わせて首を傾げる。
あとデリアさん、レオはシルベーフェンリリなんて新種じゃなくて、シルバーフェンリルだからね?
さっきまでは尻尾をフリフリしながらはしゃいでいたのに、獣人特有の感覚でレオの気配を感じ取ったのか、緊張感を全身に漲らせて体をプルプル震わせている……何か新種の生き物のようでちょっと面白い。
耳はペタンとしおれ、尻尾は足の間に挟まっていて、しまっていた時のように歩きづらくなるんじゃないかと思ったが、特にバランスを崩す事なく歩いているので尻尾が外に出ているのが重要なのかもしれない。
レオに会いたいと切望していても、実際に気配を感じ取ったり近付いていると思ったら、激しく緊張するものなんだろう。
まぁ、最強の魔物だし、強さの気配がなんとなくわかってしまう方が、緊張したり恐怖したりするのか……フェンリル達なんて簡単にお腹を見せて、降伏のポーズをしたりしてたしな。
「ワウ? ワウー!」
「あ、ママ?……パパだー、お帰りー!」
「ははは。ただいま、レオ、リーザ」
「おー、私達を飛び越えて行きましたー」
「すげー、カッコいい!」
「ちくしょー、俺はまだ負けてねーからな!」
デリアさんの様子を見つつ、セバスチャンさんと首を傾げながら、カレスさんの店の近くにできている人だかりの方へ近づいて行くと、途中でレオが気付いたようでリーザを背中に乗せたまま、人の輪を軽々と飛び越えて俺達の目の前に着地した――。
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