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しまっていた尻尾が解放されました



「デリアさん、やっぱり歩きづらそうに見えるけど……大丈夫?」

「だ、大丈夫です! けど……やっぱりわかります?」

「そりゃね……」

「ほっほっほ、ゆっくり歩きますし、護衛がいるので人と当たったりはしませんが、何度も躓いておられますからなぁ」

「すみません……」


 役所の建物を出た後、カレスさんの店へ向かう道中に何度もデリアさんは何もない所で躓いていたからな。

 ライラさんが傍に立って、転ばないよう支えたりしているけど、さすがに回数が多い。

 急いでいないから、デリアさんが転ばないようにゆっくり歩くのは構わないんだけど、歩きづらそうにしているのを見るとなぁ。


「やっぱり、尻尾を出していないからバランスが取れないのかな?」

「……そうなんです。尻尾は完全に服の中にしまっていますので、違和感というか、歩く時にバランスがよくわからなくて……」


 やっぱりそうかぁ……デリアさんに違和感を感じた部分でもあるが、動物とかって尻尾でバランスを取っていたりするからと思ったんだけど、獣人もそうだったみたいだ。

 耳が猫っぽい事から察するに、尻尾も猫みたいな形だと考えると、無理矢理服の中にしまう事くらいはできるだろうから。

 リーザくらい大きい尻尾だと無理だろうけど。


「でも、尻尾を出すと獣人とバレると思って、隠していたんです」

「まぁ、特徴の一つだからねぇ。耳だけでなく尻尾も隠さないといけないか……レオがいれば運んでくれるんだけど」


 それこそ、耳付き帽子を被っても尻尾を隠さなかったら、頭隠して尻隠さず状態だ。

 獣人である事を隠すつもりなら、当然の事だろうけど……。


「……タクミ様、すみません。セバスチャンさんも含めて、視線を逸らしておいて頂けますでしょうか?」

「え? あ、はい」

「それがよろしいでしょうな」

「え、どうしたんですか?」

「デリア様、失礼致します」

「ふわぁ……わぅ……」


 今はレオがいないから、乗せて運ぶ事もできないしなぁ……と考えながら、あまり人がいない場所でライラさんが立ち止まり、余所を見ているように言われる。

 一瞬何をするのかわからなかったが、とりあえず頷いてセバスチャンさんや護衛さん達とそっぽを向いている視界の隅で、デリアさんの後ろに回ったライラさんがしゃがんだところで気付いた。

 成る程……そういう事か。

 デリアさんはズボンを履いているんだけど、それをどうにかして、尻尾を出そうという事なんだろう。


 リーザもそうだったが、尻尾を出そうとすると下着が見えたりするから、そのための配慮なんだろう。

 デリアさんの犬っぽい声を漏れ聞きながら、遠くを見てしばし、ライラさんからのお許しが出た。


「はい、終わりました。これで、デリアさんも動きやすくなるかと。……衣服に細工がしてありましたので、特別な事はしていませんが」

「あ、ありがとうございます。これ、自分だと一度脱いでからじゃないと出せなかったので」

「服に細工って事は、元々尻尾を出せるようになっていたんだ?」


 改めてデリアさんを見ると、腰の部分から細くて黒い尻尾が出て、揺れていた。

 まぁ、男の俺が確認するわけにはいかないので、まじまじと見たりしないが、デリアさんの服には最初から尻尾が出せるように細工がしてあったらしい。


「この服もそうですけど、私が着る服は、村のお婆ちゃん達が作ってくれたんです。小さい頃、尻尾を出せない服を着ていたら、何度も転んで怪我をしたので見かねて……」

「へぇ~、それじゃ、デリアさんの服は村のお婆さん達の知恵が詰まっている、って事だね」

「はい!」


 村の事、お婆さん達に作ってもらった服の事を話すデリアさんは、とても嬉しそうな表情をしている。

 ブレイユ村の人達は皆デリアさんの事を可愛がっていて、そんな村の事をデリアさんも好きなんだな、というのがよくわかる表情だ。


「やっぱり、尻尾をしまっていたからバランスが取れなかったんですね。今は危なげなく動いています」

「そのようですな。先程までは、見ている方が少々不安になるくらいでしたが、今はそんな事を全く感じられません」

「尻尾が自由になると、凄く動きやすいですよ! 逆に、人間は尻尾もないのに、どうやってバランスを取っているのかわかりません。あ、すみません……はしゃいじゃって……」

「あはは、気にしていないからいいよ。今まで尻尾をしまっていて窮屈だったんだろうからね」


 デリアさんが周囲を軽やかにステップを踏むように動くのを、セバスチャンさんと頷きながら眺める。

 細長い尻尾は、ピンと天を目指して伸びていたり、ゆらゆら揺れたりと忙しない様子だが、それもようやく解放されて喜んでいるからだろう。

 動き回るデリアさんからは、ようやく気を付けて歩かなくても大丈夫になった解放感からか、満面の笑みだ。

 俺達に微笑ましく見られているのに気付いて、顔を真っ赤にして大人しくなったけど……見ていてちょっと面白かったから、まだ続けても良かったのにな。


 尻尾のある獣人と、ない人間……人間は当然尻尾がなくても、一部のドジっ子を除いて問題なくバランスを取って歩く事ができる。

 でも、尻尾や耳以外は人間と同じような形の獣人は、尻尾がないとバランスがとりにくいというのは、ちょっと不思議だ。


「でも、本当に変な目で見られたりしないんですね。時折こっちを見ている人もいますけど、そんなにジロジロ見るわけじゃありませんし……」

「そうですな。まぁ私を含め、公爵家の関係者とわかる者達がいるので、そうそう不躾な視線を送るような者は……少ししかいませんな」

「少しはいるんですね……」


 まぁ、公爵家の関係者だからなぁ……わかっていれば、おかしな事をしようと考える人は少ないんだろう……逆らったら後が怖いし。

 ……初めてニックを含むならず者に絡まれた時は、クレアどころかレオもいるのに突っかかって来るという、無謀な輩だったけど……レオと俺は後ろの方を歩いていたから、人に紛れてよく見えなかったという可能性もあるが。

 あと、時折見られているというデリアさんは、獣人だからそういう視線とかに敏感なんだろう。

 俺やデリアさんだけでなく、セバスチャンさんにライラさん、さらに護衛さんもいる大人数での移動だから、目立って見てしまう人もいるのは仕方ないけどな――。




読んで下さった方、皆様に感謝を。


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夫婦で異世界召喚されたので魔王の味方をしたら小さな女の子でした~身体強化(極限)と全魔法反射でのんびり魔界を満喫~


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[一言] 更新有り難う御座います。 ……つまり、本当の(?)おっちょこちょいは……。
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