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異世界の役所感はあまりなさそうな雰囲気でした



「前回、タクミ様が仕立て屋で帽子を買った後、売れると感じたハルトンが、街にある各店に声をかけたらしいのです。そして、皆で協力してとにかく数を用意した……という報告が来ております。質に関してはタクミ様が買った物より劣るので、その分価格も安くなっているようですが……」

「まぁ、急ごしらえで数を用意すると、質が落ちるのは当然とも言えるでしょうけど……そこで価格を落として誰でも買えるようにしたのは、ハルトンさんの商才なんでしょうね」

「常日頃、何が売れるのかを模索しているようですからな。丁度良いきっかけだったのでしょう」

「私は、あの帽子がかわいらしくていいと思いますけど」


 時間があるならともかく、急いで用意したんだから質が落ちるのも当然だ……帽子の質っていうのも、俺にはよくわからないけど……綻びやすいとか破れやすい素材とかだろうか?

 ともかく、俺がリーザの期待する目に抗えずに帽子を被った事で、街にこんな影響をもたらすなんて考えもしなかった。

 ハルトンさんの商才が優れているのもあるだろうが、思っていた以上に目立つレオも含めて、街の人達に注目されているようだ……はぁ……。

 ライラさんは、耳付き帽子を可愛いと思っているようで、ポツリと漏らしていたけど……それは女性やリーザのように可愛い子供が被るからなんだよなぁ。

 俺やセバスチャンさんもそうだけど、男が被っても可愛い事なんて……街の人達には受け入れられているようなので、俺の感性がおかしいのかもしれないが……。


「なにはともあれ、中に入りましょう。予定の時間に遅れますからな」

「はい、そうですね……」


 入り口で話していて、面接の時間に遅れてしまったらいけないからと、セバスチャンさんに促されて建物の中に入る。

 そういえば、さっきの女性も時間がと言っていたけれど、何か他にも時間が限られた催しでもあるんだろうか?

 いや、役所と考えたらいつまでに手続きを……というのがあるんだろうし、そのあたりかな。



「タクミ様、まずはこちらへ……」

「代表室……ですか?」


 建物……役所の中は作りこそ違うが、雰囲気は日本の役所と似ているように感じた。

 住民登録はこちらという案内があったり、給金税のご相談は……などなど、手続きをする場所が別れていて、それぞれの場所で職員さんが対応しているようだ。

 チラッと覗いてみたが、カウンターのような仕切りの内側に職員さんがいて、デスクがあったりとか、手続きのために用紙に必要事項を記入していたり、順番待ちをしている人がいたりとか……建物の内装や中にいる人達の服装こそ違うけど、ほとんどやっている事は日本の役所と変わりがなさそうだった。

 まぁ、人が集まってあれこれ管理するとなると、似たような事になるのは仕方がないのかもしれない……これも、効率化された結果だろう。


 そんな役所内部の廊下を通り、階段を上がり、最上階の五階に来てセバスチャンさんに示されたのは、少し大きめの扉の上に、大きく代表室と書かれている場所。

 もちろん書かれている文字は日本語ではないが、問題なく読めた。


「こちらに、この街を管理している者が常駐しております。いわば、ラクトスで一番偉い人物になりますな。旦那様より正式に、ラクトスの管理を任されているという事でもあります」

「成る程」


 街を管理という事は、代官とか街の長とか、そういう立場の人だと考えていいようだ。

 代表なので、こういった執務室が宛がわれているんだろうと思う。

 そういえば、俺はまだこの街のお偉いさんと会った事がなかったな……衛兵さんとは何度も話しているし、顔も覚えられているけど。


「では……」


 セバスチャンさんが俺に頷いて、扉をノックする。

 中から男性の声で入室を許可する声が聞こえ、扉を開けて部屋へと入る俺達。


「失礼します」

「セバスチャン殿、ようこそおいでくださいました! そちらが、タクミ様ですな? 公爵閣下もお気に入りと噂の! あ、申し遅れました、私ソルダンと申す者でございます。タクミ様の事はセバスチャン殿や街の者から聞き及んでおります。あ、公爵閣下にもご挨拶ができなかった事まことに残念でございま……」

「ソルダンさん、もう少し落ち着いて下さい。タクミ様が驚いております。それに、ソルダンさんが街の管理で忙しいのは、旦那様もご存じでおられますので、挨拶ができなくとも仕方ないと仰っておりました。ともあれ……タクミ様?」

「あ、はい。えっと、タクミです。よろしくお願い……」

「おぉ、公爵閣下はなんと慈悲深い方でしょうか! 私のような者を忙しいからと、挨拶ができなくとも慮って下さるとは! 本来であれば、私が自ら赴きご挨拶せねばならない所を、なんと……! あ、申し訳ございません、タクミ様。街で起こった数々の問題を解決して頂いたタクミ様には、なんとお礼を申し上げれば良いか……」

「……このように、話し始めると止まらないのです。日頃忙しいのは本当なのですが、その反動で人と話す事に飢えているのかもしれませんな……」

「はぁ……」


 セバスチャンさんに付いて部屋に入ると、中で立って待っていた男性……ソルダンという細身の人が、細い目をさらに細めながら手を広げ、熱烈に歓迎してくれる。

 歓迎されるのは嬉しいんだが、このソルダンさん、息もつかさぬマシンガントークで、こちらが話しかける余裕がない……こういう人、時折いるよなぁ……話が止まらないオジサンとかオバサンとか……。

 なんて考えてどうしようかと様子を窺っていると、セバスチャンさんが喋るのを遮って、俺に促してくれた。

 ようやく自己紹介ができる……と思ったのも束の間、今度は名乗って頭を下げようとした俺を遮って、再びマシンガンのように話し始めるソルダンさん。


 このうえなく、わかりやすい紹介でした……セバスチャンさん。

 でも、人と話すのに飢えているだけでなく、単純に話し始めたら止まらない人なんだと思います……。

 本人は喜んで歓迎してくれるつもりなんだろうけど、面接前になんだか疲れてしまう人と対面してしまったなぁ……一応、街の偉い人だからと緊張していたのに、その必要はなかったようだ――。





読んで下さった方、皆様に感謝を。


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夫婦で異世界召喚されたので魔王の味方をしたら小さな女の子でした~身体強化(極限)と全魔法反射でのんびり魔界を満喫~


― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ……明石家ソルダン……。(小声)
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