使用人さん達の話題は待遇面の事で持ち切りのようでした
「昨日、タクミ様が仰った雇う人員の待遇が関係しているようですな」
「待遇がですか?」
「やはり、給金と休日は魅力的だったようです」
「あー……それは確かに、そうかもしれませんね……」
給金に関しては、屋敷で働いているよりいいかどうかまではわからない。
けど、休日に関しては週休二日制にすると、今よりも確実に増えるからな……しかも、休日が増えるからといって、給金が減るわけでもない……人気が出るのも当然か。
「あ、その話は私も聞きました! 師匠が、すごい待遇でいっぱい人を雇うんじゃないかって!」
「私も、使用人達の間で言われているのを聞きました。タクミ様、本当によろしいのですか?」
昨日の食堂にはライラさん以外にも、執事さんやメイドさんがいたから、すぐに他の使用人さん達へ伝わったんだろう。
ミリナちゃんも今は使用人さん達と一緒だから、そこから聞いたんだな。
「まぁ、いっぱいかどうかはともかく、ちゃんとした待遇で雇おうと思っているよ。――ライラさん、悪い事は特にないので、昨日考えた条件で雇いたいと考えていますよ。まぁ、多少調整する必要はあるでしょうけど」
「破格すぎます。それこそ、何か良からぬ者がタクミ様に近付こうとするかもしれません」
「ライラさん、そのための私達や公爵家の関係者です。タクミ様に雇うかどうかの判断をしてもらう前に、私達で見て、よからぬ輩はその時に近付けさせないようにするのです。クレアお嬢様もいますから、見抜けない可能性は少ないでしょう」
「……そうですね、確かに。失礼しました。クレアお嬢様もご一緒なら、問題はなさそうです。ですが、タクミ様。くれぐれも甘い言葉をささやいて来るような相手には、注意して下さい」
クレアの人を見る目というのは、何度も聞いた事があるけど、随分皆から信頼されているんだなぁ。
本邸で働いている人も、クレアが見て雇うことに決めた人もいるらしいし、現状で問題が起きてないうえに円滑に仕事ができているのなら、信頼できるんだろう。
「はい、そこはわかっています。まぁ……正しく対処できるかはわかりませんから、困った時はライラさんを頼りにさせてもらいます」
「はい、お任せください!」
「師匠、私は頼ってくれないんですか? これでも、最近は頑張って色んな事を覚えているんですよ?」
「ははは、ミリナちゃんは、また違った仕事……調合とか薬関係の事を頼むから、そっちでね。意見を聞きたい事があれば、また相談するよ」
「はい、ばっちり相談に乗ります!」
「ほっほっほ、タクミ様は慕われておりますなぁ……」
慕われている……のは間違いないんだろうな。
ライラさんは世話係としてだろうけど、ミリナちゃんは薬関係以外にも勉強しているようだし、そのうち俺なんか目じゃないくらい頼りになる気がするけど、師匠と呼んでもらっているんだから、疑いようはない。
そんな風に、昼までの薬草作りはセバスチャンさんの使用人さん達に対する愚痴と、ライラさんやミリナちゃんの意気込みのようなものを聞きながら励んだ……と、忘れちゃいけないな。
「ライラさん」
「はい、どうされましたか?」
「ミリナちゃんには雇うとはっきり言っていましたけど、こちらはまだでしたね。えーっと……ライラさん、良ければランジ村で一緒に働いてもらえませんか? と言っても、畑の方ではなくまた同じようにお世話係のようになりますけど……」
「え、いいのですか!?」
「もちろんです。ライラさんは、セバスチャンさんから渡されたリストの中にも名前がありましたし、リーザやレオも懐いていますからね。それに、さっきもちゃんと注意するように言ってくれていましたし……そんな人が近くにいてくれた方が安心です」
「……あ、ありがとうございます。誠心誠意、心を込めてお世話させて頂きます……」
「ははは、そんな改まる程の事じゃありませんよ。それじゃ、迷惑をかけると思いますけど、俺やレオ、リーザともどもよろしくお願いします」
屋敷に来てから、ずっとお世話をしてくれていたから、ライラさんの人となりはよくわかっている。
一緒にいる時間というなら、レオやリーザを除けばライラさんが一番だしな。
ランジ村で住む家も、屋敷程じゃないにしても大きくなりそうだし、レオやリーザの事も考えるとライラさんがいてくれると心強い。
ずっと考えていたんだが、直接は伝えてなかったために、改めてお願いして雇う事を確定しておいた。
あとは……ゲルダさんもできれば一緒に来て欲しいけど……ドジ発動がちょっと怖い。
とは言え、一緒にお世話をしてくれていたのに、ライラさんだけを雇うという選択肢はないし、これからに期待という意味も込めて、だな。
あちらは、まだメイドさんの新人枠から抜け出せていない影響で遠慮しているのか、リストに名前はなかったんだけど、クレアやセバスチャンさんに確認して許可が取れたら、本人に聞こうと思う。
まぁ、断られたら断られたで仕方ないし、屋敷で頑張ってもらえばいいだろうから。
「タクミ様、私の目の前で屋敷の者を誘うのもどうかと思いますがな?」
「あ……すみません……」
「ほっほっほ、まぁ、タクミ様が雇いたいと思う者を雇うのが一番なので、構わないのですが」
構わないのか……まぁ、これからはあまり大ぴらに誘うのはやめておこう、ヘッドハンティングみたいなものだしな、これ。
多分だけど、セバスチャンさん自身は気にしていないし、リストの内容も当然知っているから、特に問題だとは思っていないんだろう。
それでも俺に言ったのは、誘われる人と誘われない人で、ちょっとした諍いが起きたりという事を心配してだと思う……俺が屋敷から人を雇ったり、屋敷の人からも募集しているのは皆知っていることだからな。
「それにしても……屋敷が若返りそうですな。本格的にランジ村での薬草作りが始まったら、こちらもこちらで大変そうです。やりがいがありますなぁ……」
「えっと……すみません。あまり多くは連れて行かないよう、気を付けますので……」
「クレアお嬢様に付く者もおりますので、大量に雇われると困りますが、タクミ様が気になさらずとも良いのですよ。初めての試み、最初は信頼できる者がいた方が良いのは間違いありませんからな」
「ありがとうございます。リストを確認してから、一度相談させて頂きます」
「はい、それでよろしいかと思います」
知っている人達だから気楽ではあるが、屋敷からばかり雇う事がないよう、注意しておかないとな――。
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