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お腹が空いてる子へ夜食を作ってもらいました



「ライラさん、料理は出来るだけ柔らかくしてあげて下さい」

「? いつものように作っていましたが、柔らかい方が良いのですか?」

「ええ。食べるのは子供のフェンリルですからね。それにあのフェンリルは俺達が見つけた時酷い怪我をしてました。怪我自体は治りましたが、まだ体力が戻ってないかもしれません。柔らかい物を食べた方が良いかと思います」

「成る程。先程、酷い怪我をしているのは聞いていましたが、確かにそれなら柔らかくして負担にならないようにした方が良いですね。わかりました」

「お願いします」


 ライラさんにフェンリル用の料理をお願いして、またクレアさんとレオの所へ戻る。

 フェンリルは、レオが自分を襲う事は無いと理解したのだろう。

 お互いの顔を舐め合ったりして、じゃれてる姿が見える。

 何を思ったのか、クレアさんが人差し指を出し、じゃれ合ってるフェンリルの前に差し出した。


「キャゥ? ……チュウチュウ……」

「フフフ、くすぐったいですね」


 フェンリルは目の前に差し出されたクレアさんの指を見て、一度首を傾げるように動いたが、すぐにクレアさんの指に吸い付いた。

 ……クレアさん、相手はフェンリルなんだから……危ないとは思わなかったんだろうか?

 俺はフェンリルの事を見るのは初めてで、ここに来る前にどんな魔物か話を聞いただけだ。

 で話では獰猛な魔物で人を襲うと言われていた。

 そんな魔物の前に人差し指を差し出すなんて、噛みちぎれと言ってるようなものだ。

 一瞬ドキっとしたが、フェンリルの方は哺乳瓶からミルクを吸う赤ちゃんのように、クレアさんの指を吸ってるだけだ。

 その感触にクレアさんは笑ってるが、セバスチャンさんや、護衛の三人は明らかにホッとした溜め息を漏らしてる。

 ……皆、俺と同じでクレアさんの行動に驚いた仲間らしい。

 というか、このフェンリル……クレアさんの指を吸う姿は赤ちゃんのようだ。

 中型犬くらいの大きさだから、子供と言っても生まれて数年経ってるものだと思ってたが、もしかすると生まれてからそんなに経っていないのかもしれない。

 フェンリルだからな……レオと比べて小さいとは聞いていたが、これで生まれたばかりなのだとしたら、もっと大きくなるのかもしれないな。

 屋敷に帰ったらフェンリルの本当の大きさや生態なんかを、セバスチャンさんに聞いてみよう。

 そんな事を考えながら、お腹を空かせて一生懸命クレアさんの指を吸うフェンリルを見ていたら、料理が完成したらしいライラさんから声がかかった。


「出来ましたよ。さぁ、食べさせてあげて下さい」

「ワフ」


 その声を聞いたレオが立ち上がり、洗っておいたレオ用の木の皿を咥えてライラさんの所へ行く。

 ライラさんはレオの持って来た皿に鍋から料理を注ぐ。

 しかし、持って来る時は空だった木の皿に料理を注ぐとレオが運べない。

 レオの前で料理の入った木の皿を持ったままどうしようかと考えているライラさんに俺が近づき、代わりに受け取りに行く。


「俺が運びますよ」

「あ……そうですよね、誰かに頼めば良かったんですよね……すみません、タクミ様。お願いします」


 どうやら、レオ以外の人に頼んで運んでもらうという事が頭に無かったらしい。

 そんなライラさんのうっかりに微笑みながら、俺は皿を受け取り、フェンリルの元へ戻る。


「ワフワフ」

「いえ、お礼なんて良いんですよレオ様」


 レオは料理を作ってくれたライラさんに一度頭を下げた後、俺の後を付いて来る。

 ちゃんとお礼を言えたな、偉かったぞレオ。

 俺がフェンリルに近付くと、においで食べ物だと分かったのか、クレアさんの腕の中からもがいて飛び出て来た。


「あっ……」

「待て待て、落ち着け。まだ熱いからな、今食べると火傷するぞ」

「キャゥ! キャゥ!」


 俺の言葉を理解していないのか、それともお腹が空き過ぎてそれどころでは無いのか、落ち着かない様子のまま、立っている俺の周りを駆け回る。

 腕の中からフェンリルが飛び出て寂しそうな表情をしたクレアさんに皿を渡す。


「クレアさんから食べさせてあげて下さい。熱いですから、冷ましながらあげて下さいね」

「……私で良いのでしょうか?」

「レオがいたとはいえ、今までずっとクレアさんに抱かれて大人しくしていたんです。このフェンリルはクレアさんに懐き始めてると思いますよ」

「……そう、でしょうか……?」

「大丈夫ですから、ほら」


 動物に物を食べさせるという経験が無いのか、躊躇してるクレアさんに料理の入った皿を渡し、冷ますように促す。

 その間も、俺とクレアさんの周りをフェンリルは落ち着きなく走り回っている。

 ……結構元気だな。


「ガウ!」

「キャゥ!」


 走り回ってるフェンリルを見ていたレオが、落ち着けと言うように吠える。

 それを聞いたフェンリルは、一瞬だけ怯えた声をあげた後、おとなしくお座りの体勢になった。

 ……レオからの躾は厳しそうだな。


「それじゃ、クレアさん」

「……はい……ふぅ……ふぅ」


 クレアさんは、湯気を立ててる料理に息を吹きかけて冷ましつつ、そのお皿をフェンリルの前に置いた。


「キュゥ……?」

「ワフ」


 フェンリルは余程さっきのレオの吠える声に恐怖を感じたのか、レオに対して食べても良いのかと窺うような視線を向け、レオが頷く。

 それを見たフェンリルは赤い目を輝かせながら置かれた皿に飛びつく。


「すごい勢いですね……足りるのかしら?」

「どうでしょう……レオ基準で考えると足らないでしょうけど、まだ体が小さいですからね」


 皿に入った料理をすごい勢いで食べ始めるフェンリル。

 それを見て量が足りるのか不安になって来る。

 追加は……そうだな、オークの肉がまだ余ってるはずだから……。


「ライラさん、すみませんがオークの肉を追加で焼いてもらえますか?」

「はい、構いませんよ」


 俺はライラさんにお願いして、足りなかった時のためにオークの肉を焼いてもらう事にした。

 もしフェンリルがお腹いっぱいになって余ってしまったらレオが食べるだろう。

 しばらく、皆でフェンリルの食事を見守る。

 レオはフェンリルを見ながら涎を垂らしそうになってるな……俺は見たぞ?




読んで下さった方、皆様に感謝を。


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