ラーレが一時的に里帰りしました
「キィ、キィ」
「本当に、大丈夫ですか?」
昼食後の鍛錬を終えて、夕食には少し早いくらいの時間、ラーレと話すティルラちゃんは少し寂しさ混じりの心配をする声。
昨日の夜とは逆で、今回ティルラちゃんが寂しがっているのには理由があり、ランジ村に行く時に魔物と遭遇したのが原因だ。
ランジ村への道中、森からトロルドが出てきたのに遭遇したが、その原因がレオが近付いてその気配で一部の魔物が慌てているらしく、その影響でトロルドが森の外へと追いやられたとかなんとか。
そのため、森と繋がっている山を住処にしていたラーレが、空から様子を見に行き、場合によっては従えていた魔物を使って森の外に出ないようにしてみる……という提案を受けた。
ラーレは、この先もティルラちゃんといるために、もしもの事がないよう動きたいと、昨日の夜あれから考えたらしい……多分、空を飛ぶ以外でも自分が役に立つ事を見せたいのかもしれない。
ティルラちゃんにはラーレが一緒にいれば、もしもなんて起こりそうにはないけど、ティルラちゃんだけでなく世話になっている人達の役に立つならば、とも考えたようだ。
義理堅い……魔物って、人間と違ってあれこれ難しく考えない分、行動と決意が早いんだなぁ。
屋敷にいれば問題ないだろうが、ランジ村で暮らし始めたら、森に近いからまた似たような事があるかもしれないし、街道を行き交う人にも影響が出るかもしれないため、この提案はありがたい。
本来なら、原因であるレオが行くべきなんだろうけど、それは森にさらなる混乱を招きかねないと、ラーレが言っていた……通訳はリーザ。
確かに、シルバーフェンリルが乗り込んだら、強烈な気配で森の魔物達が混乱して何が起きるかわからないよなぁ……と納得するとともに、近くにいる事が当然だったラーレなら、そんな問題も起こさずになんとかできるのかもしれない。
従魔契約をしているため、ティルラちゃんも一緒に行くと言い出したんだけど、さすがにこれは危ないのでラーレから却下された。
まぁ、オークを倒せるくらい頑張って剣を扱えるようになったといっても、森の中だとラーレの動きは制限されるし、絶対守れるような保証はないからだろう。
「ラーレ、ありがとう。気を付けてね? ラーレはティルラの従魔という事もあるけれど、もうここにいる皆と同じで、家族のようなもの。危なくなったら、すぐに逃げて来てもいいのだからね」
「キィ!」
ティルラちゃんの後ろから、クレアも同じく心配そうに声をかける。
その言葉に、同じく見送りに裏庭に来ていたセバスチャンさんだけでなく、ライラさんや他の使用人さん達も頷いていた。
この屋敷の人達は、優しいな。
「ワフ、ワフワフ! ワフ!」
「キ、キィ……」
「ガウ!」
「キィ!」
レオからは、激励するような声が上がるが……もしもの時は森ごと魔物を吹き飛ばせ! なんて言われたらラーレも躊躇するのは当然だぞ?
その後にとにかくがんばれ! と言うように吠えるレオは、これでもラーレの事を心配しているんだろう。
人間相手とか、子供相手じゃないからちょっと不器用な感じだ……レオが守らなくても大丈夫な相手だからだろうか?
「キィー!」
「はい、ラーレも頑張るんですから、私も頑張ります!」
皆と挨拶をした後、ひと際大きく鳴いたラーレは、どうやらティルラちゃんの反応から激励している様子だ。
少しだけ、ラーレの方がティルラちゃんの保護者っぽく感じるが、生きている年数がそもそも違い過ぎるからそうなるのも当然か……体も大きいし。
「キィー! キィー!」
「ラーレー! 戻って来るの、待ってますよー!」
「待ってるよラーレー!」
「キィーー!」
羽ばたいて空へと舞い上がったラーレは、上空で旋回しながら鳴いてしばしの別れを惜しんでいるようだ。
ティルラちゃんとリーザが、それを見上げてブンブンと手を振りながら叫ぶ。
二人の声が聞こえたのか、もう一度大きく鳴いて遠くの空……ラクトス北側の山へと向かって飛び去って行った。
まぁ、どれくらいかかるかはわからないけど、以前にも住んでいた場所の整理のために一時的に帰った事があるから、問題はないだろう。
「ラーレ、大丈夫ですかねぇ?」
「ティルラ、まださっき飛んで行ったばかりなのよ? 心配し過ぎじゃないかしら。それにラーレはそこらの魔物に負けるような、弱い魔物ではないでしょ?」
久しぶりに感じる気もする食堂にて、夕食を食べながら呟くティルラちゃんに、少し呆れたように言うクレア。
最近はラーレとずっと一緒だったから、離れていると考えると特に寂しいんだろうな。
元々寝る時は別だったけど、はっきりと離れているのを実感してという事もあるか……とはいえ、さすがに一時間も経たないくらいで心配するのは、ちょっと寂しがり過ぎかなとも思う。
「そうですけど……最近はずっと一緒にいましたから、やっぱり離れると寂しいです……」
「気持ちはわかるわ。でも、ラーレも頑張っているのだから、ティルラも頑張らないとね?」
「それはもちろん、頑張りますけど……」
「ワフ?」
「キャゥー?」
「リーザもいるよ、ティルラお姉ちゃん?」
「あははは! レオ様やシェリーに、リーザちゃんもいるから、寂しがり過ぎるのもいけませんね!」
どうしたもんかと考えていると、クレアがティルラちゃんのやる気を出すように話を持って行こうとするが、微妙に上手くいかない。
だけど、食事を中断したレオとシェリーが、左右からティルラちゃんに大小の鼻先を近付けて声をかけ、リーザも首を傾げながら一緒にいると主張。
笑いだしたティルラちゃんの表情を見るに、大丈夫そうだな……やっぱり、こういう時は理屈で納得させるよりも、仲のいいレオ達と一緒にいるのが一番だな。
「……私もいるのに。まぁ、口うるさい姉よりもリーザちゃん達の方がいいわよね」
「はは、まぁこういう時は家族よりも友達の方が、元気づけられるものだったりするから。あのくらいの年頃だとね。それに、もちろんクレアがいる事もティルラちゃんにとって、重要だと思うよ?」
「あ……タクミさんに見られていましたね。すみません、お見苦しい所を……」
「気にしないでいいよ。クレアがティルラちゃんを元気づけようとしていたのは、わかっていたから」
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