フェンリル達には後日聞いてみる事にしました
「まぁ、ハンバーグはともかく、フェンリルが森を離れたがらないんじゃないか? もちろん、強制するのはいけない事だぞ?」
「ワフ? ワウゥ……」
「さすがにそこはレオでもわからないか」
もし本当にフェンリル達が警備してくれるのなら、食べ物を用意するのは当然の事だろうが、そもそも今住んでいる森から離れるのを了承するかはわからない。
レオが言えば強制になってしまうかもしれないからなぁ……俺の疑問を受けて、首を傾げた後考え込むように俯くレオ。
さすがに、レオでもフェンリル達がどう考えるかはわからないみたいだ。
逆を言えば、森にいる理由にこだわりがなければ、了承してくれる可能性もあるという事なんだけど、全てのフェンリルで一か所を守るわけにもいかないから、群れと離れる必要が出て来るし……どちらにしても簡単に頷いてくれそうにはないな。
「馬を交換する場所という事を考えますと、一か所だけ作るわけにもいかないので……そもそもフェンリルの数が足りるかもわかりませんな……」
「ワフ、ワフワフ」
「それは、他から集めて来ればって言っているようですね。まぁ、他にフェンリルがいるかどうか、という事になりそうです」
「でも、少ない箇所でもフェンリルに守ってもらえれば、兵士が必要な箇所が少なくなって助かりますね。……今度、屋敷を訪ねて来たら聞いてみるのもいいかもしれません。もちろん、その際にはレオ様抜きで尋ねるようにしましょう。公爵家はシルバーフェンリルの意見は無碍にはしませんが、同時に権力で強制する事はしません。相手が魔物であろうと、対話できるのですから」
難しいだろうなぁと考える俺やセバスチャンさんと違って、クレアはどちらかというと乗り気なようだ。
公爵家だからこそ、シルバーフェンリルであるレオからの提案を無碍にしないんだろうというのと、以前にも言っていた権力をかさに着て何かを強制させる事はしない、と決まっているから……。
というのは、ただの理由付けなんだろうな……クレア本人が楽しそうな表情をしているので、おそらくフェンリルが各所にいるという光景を想像しているんだろう。
面白そうな事は否定しないとか、こういうところはエッケンハルトさんに似ていると思うし、これまである程度抑えてきた事なんだろう。
以前二人で話した時に、思ったように行動するのもいいかもと伝えた事で、最近はこういう姿を見せてくれるようになったのが、少し嬉しい。
……だからといって、それが全て実行できるかはまた別の話だけど。
「……ともかく、クレアお嬢様の言われる通り、またフェンリルが当屋敷へ来られた際に聞く事にしましょう」
セバスチャンさんは、俺と同じくクレアが楽しそうな事を優先しているのがわかっているのか、難しい表情をしている……けど、その視線は柔らかくクレアの方を見ていた。
予想だけど、セバスチャンさんも昔からクレアの事を見て来ていて、自分を抑え込んでいるのを気にしていたのかもなぁ。
「あ、それと……もし本当に駅馬ができるのであれば、少し多めに馬を用意した方がいいかもしれません。費用という面で見れば、かさんでしまうので難しいかもしれませんけど」
「ほぉ……タクミ様、それはまたどうしてですかな?」
ついでに、駅馬をやるうえでもう一つ考えていた案を披露する事にした。
レオも提案したようにこの場では実際にできるかどうかはともかく、素直に考えを伝えておいた方が良さそうに思えたからな……クレアもセバスチャンさんも、ちょっとした思い付きだとしても、意見を無碍にしたりはしないだろうから。
会議では、一応参加を許されただけで発言するなという空気が漂っていたり、もし何かの意見が言えたとしても、下っ端が余計な事を言うなという目で見られる、日本の会社とは違うな。
もちろん、ちゃんと下の人の意見を聞く会社もあるんだろうけど、少なくとも俺が働いていた会社はそうだった。
何も言われないように粛々と言われた事をこなして、受け身で過ごしていれば睨まれる事は少なかった。
けど、この世界に来てクレア達と出会った事で、俺も多少は変わってきているのかもしれない。
アンネさんだけでなく、俺も……これがいい事なのか悪い事なのかは、今すぐにはわからなくとも、いずれわかるんだろうな。
っと、今はそんな感傷に浸っている時じゃなかったな……自分から発言しておいて、物思いにふけっている俺を不思議そうにクレア達が見ている。
だから心配しなくていいぞレオ、牛乳を飲んだすぐ後に、顔を近付けて舐めようとするのはやめようなー?
「んんっ! えっとですね、そもそも馬を持っている人が少ないから、交換を利用する人が少ない事にも繋がっているんだと思います。馬って、高価なんじゃないですか?」
「ふむ、言われてみればそうですな。貴族では所持しているのが当然ですし、各街や村には共用の馬がおります。それもあって、個人で馬を所有する事はあまりないかと。商隊などはまた別ですかな」
「個人で所有する人が少なければ、当然利用される回数も減ります。共用の馬がいるという事は、それを借りる時既にお金がかかっている場合もありますし、そんな馬を交換する事はしないでしょう」
「そうですな。小さな村では、村の用のために所有しているので貸し賃はかかりませんが、街では馬を料金を払って貸し出すようにしています。まぁ、馬を持っているだけでもお金がかかるので、これは仕方ない事ですな」
馬を買うにはお金がかかるが、それだけでなく買った後に飼育したりと所有しているだけでお金がかる。
維持費だな……まぁ、生き物が相手なんだからこれは当然の事だろう。
借りる際にどれだけお金がかかるかまではわからないが、魔物がいる世界で馬を貸した相手が返らなかったり、持ち逃げする可能性も考えると、貸す側も低料金でとはいかない。
ランジ村のような、村共有の馬はまた違った扱いで、村の人が使うためのみと考えればまた事情は変わってくるが、それはともかくだ。
「馬を交換するのもお金がかかり、所有するのもお金がかかる。これだと仕事のために馬が必要な商隊や、裕福な人しか馬の交換をしたいとは思いません。なので、駅馬を用意するこちらであらかじめ、多くの馬を用意しておくんです」
「それは、どのような意図なのですかな?」
「タクミさん、それだと交換ではなく、こちら側が馬を貸し出すと言っているように聞こえますよ?」
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