馬の代わりに馬車を曳く手段を試す事になりました
「本当に大丈夫なのか、レオ?」
「ワフ!」
昼食を食べた後は、フェリー達の見送り……と思ったのだが、リーザの言葉でちょっとした事を試してみようとなった。
リーザが言ったのは、「馬車も楽しかったけど、ママに乗るのが一番いい! けど、ママは馬車を引っ張れないの?」という無邪気な疑問を、レオに乗って裏庭を駆け回っている時に発したからだ。
何を考えたのか、それを聞いたレオがやる気を出してしまい、今俺達は屋敷から外に出て馬車を並べ、レオへと繋いでいる。
本来なら馬車と馬を繋ぐ革製のベルトのような物……ハーネスというらしいが、それを執事さんに着けられたレオは、意気込むように鳴いて頷いた。
「シルバーフェンリルに、このような事をさせてもよろしいのでしょうか……?」
「まぁ、レオがやる気になっているから、やらせてもいいんじゃないかな。危ない事じゃないから、心配はないと思う」
及び腰で、本当にいいのかと呟いているのはクレアだ。
公爵家にとっては敬う相手であるシルバーフェンリルに、馬と同じ事をさせようとするんだから躊躇うのも当然だろう。
それはそうと、レオだけでなくなぜフェンやリルル、フェリーまで並んで繋がれているんだろうか?
というか、この屋敷にはこれだけの馬車があったのか……。
馬車は、クレアがランジ村へ乗って行った四人以上がゆったりと乗れる大きめな馬車が三つと、以前にも乗った事がある、二人乗り程度の馬車が一つだ。
セバスチャンさんに聞いたら、大きめの馬車はこれだけだが、小さい物ならまだいくつかあるそうだ……さすが公爵家。
レオ、フェリー、フェンが大きめの馬車にそれぞれ繋がれ、リルルだけは雌だという事を考慮してか小さめの馬車に繋がれている……いや、レオも雌なんだが、シルバーフェンリルだから特別枠という事だろう……単純に馬車が足りなかったというのもあるけど。
「準備、完了しました」
「はい、ご苦労様です。それではクレアお嬢様?」
「え、えぇ。えーと、レオ様の曳く馬車には、タクミさんとリーザちゃんが乗るのですよね?」
「はい。最初にリーザが言い出した事ですけど、レオが曳く馬車には俺とリーザが乗らないと、やる気が出なさそうですから」
「わかりました。それでは……フェリーの馬車には、フィリップとニコラ。フェンの馬車には私とティルラが、シェリーを連れて乗りましょう。リルルの馬車は……ライラとゲルダにお願いするわ」
「畏まりました」
「はい!……フェンリルの曳く馬車に乗れるとは」
それぞれのフェンリル達に、馬車からハーネスで繋がれ準備が完了。
レオだけでなく、フェンもやる気なのは……シェリーを乗せるというクレアさんの声が聞こえたからだろう。
フェリーの所に乗るのがフィリップさんとニコラさんなのは、鎧を身に着けさせて重さを追加するという理由からだな。
フェンやリルルより、ほんの少し体が大きくて力が強そうだからというのと、群れのリーダーとしていい所を見せたいというフェリーの意気込みもあようだ。
それにしても、レオも含めてフェンリル達が馬車を曳くというのに妙な違和感が……というか、馬車じゃなくてまるで犬車? 狼車? とか呼び方を変えた方がいいのだろうか?
いや、犬車は本来犬を乗せて運ぶ物だしなぁ……一応、歴史か何かで、大八車を犬が曳く手伝いをしていたというのは聞いた事があるが、詳しくは知らない。
うーん……雪国にある犬ぞりが一番近いか? まぁ、あれは単体で曳いたりするものではないし、そもそも曳く物がでかいけど……。
ただ、馬車に繋がれて並んでいるレオ達を見ても、呼び方以外に違和感をあまり感じないのは、馬と同じくらいかそれ以上の大きさだからだろうな。
「とりあえず、あまり遠くへ行くのもなんだし……試しにラクトスの道の途中で引き返して、またここまで戻って来る……でいいんですよね?」
「はい、タクミ様。適当な場所へ先にヨハンナを向かわせておりますので、街道沿いに走ればわかると思います」
「わかりました。――それじゃ、クレア、リーザ、乗ろうか?」
「はい。……本当に大丈夫でしょうか?」
「わーい、ママ頑張れー!」
「ワウ!」
セバスチャンさんに確認して、クレア達に馬車へ乗るよう促す。
まだ首を傾げているクレアの疑問はもっともで、馬車を曳く事に慣れていないフェンリル達に走らせても大丈夫なのか、俺も心配だ……クレアにとっては、レオにという部分の心配もあるんだろうけども。
さらに言うなら、今回の馬車曳きには御者はなしとなっている。
レオが相手なので、人間が手綱を操るというのが畏れ多いという意見が多く出たからだが……フェンリル達にも同条件にとレオが言い出したので、全てなし。
走る指示に関しては、手綱ではなく声を出してお願いする事となった。
ライラさんとゲルダさんは、人力車のような形の馬車なので問題なさそうだけど、俺達は御者台に座ったり、馬車内から御者台に繋がる窓を開けておいて、そこから声で指示を出すようにする。
リルルとフェリーの所には通訳できる人が乗っていないが、フェンリル達は言葉を理解するので、ある程度は意思疎通できるから大丈夫だろう……もしもの時はレオが横から叱ると言っていたが、頑張っていたら叱らないであげて欲しい所だ。
走る距離は、あまり遠くまで行く必要もないし、これは試しなのだからラクトスの街へ行く途中までの道で引き返し、屋敷へと戻って来るまでとした。
ちなみにラーレは、空を飛んで上から観察する役目で、もし何か異常が見られたら空から鳴いて報せてくれるらしい……必要なのかどうかはわからないが、やる気になってティルラちゃんからも応援されていたので、水を差すのは止めておこう。
「よし……こっちに座った事はないから、あまり慣れないけど……大丈夫そうだな」
「パパー!」
「おっと。リーザ、俺の太ももに乗るのはいいけど、もう少し尻尾をずらしてくれ? これじゃ前が見えないからな」
「はーい!」
初めて座る御者台の座り心地を確認していると、リーザが俺の足の上に座った。
御者台は大きなスペースがあるわけじゃないから、並んで座るのも狭そうだし、リーザは軽いからそれでいいんだけど、大きな尻尾がちょうど顔の前に来るので、お願いして横にしてもらう。
リーザの尻尾もフカフカだが、さすがに前が見えないとレオに指示を出せないからな……まぁ、レオなら何も言わなくてもしっかり走ってくれそうだが――。
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