クレアにもトフーの説明をしました
裏庭では、フェンリル達がレオの前にお座りして整列しており、何やら講義をされている雰囲気だった……ゲルダさんに聞いたら、屋敷での過ごし方などを教えられているところだと、とシェリーがクレアに通訳してくれたらしい。
ちなみにそのシェリーも、フェンリル達と一緒に並んでお座りをして項垂れていた……つまみ食いをしないようにとか、注意されたのかもしれない。
クレア達はそんなレオ達を見守っていたらしく、夕食に備えて以前と同じようにテーブルについてお茶を飲んでいた。
俺がトフーを使った料理を作ったのがすでに知られていたのはなぜかな? と首を傾げたら、クレアの後ろにいるセバスチャンさんの目が光った気がしたので、間違いなくこの人だな、うん。
「白い色をした……柔らかい物、かな?」
「……なんです、それ? 白くて柔らかいとは……卵ではないのですよね?」
「卵とは違うね。えぇと……」
興味を示すクレアに、トフーについての説明と、サラダに混ぜて出す事もついでに伝えておく。
ランジ村でもそうだったが、今日の夕食がハンバーグやハンバーガーになると知って、少しためらう雰囲気を醸し出していたけど、これはカロリーの話があったからだな。
あ、でもそういえば、トフーという豆腐といえば大豆より栄養価が高いのに、カロリーは低いというダイエット向きだったはず……この世界のソーイやトフーが、同じ物であるならだけど。
「ハンバーガーはまぁ、諦めて欲しい……かな? でも、一応今回はチーズを使わないようにしたから、太りにくくなっているはずだから」
「仕方ありません。アンネとも話しましたが、日頃の運動を増やそうかと思うので、それで対応します」
クレアって、十分痩せているというか……むしろもう少しふっくらした方が? と思ったりもするんだけど、そのあたりは男女の感覚の違いというのもあるだろう。
「まぁ、運動はともかく……」
クレアが運動を始めると言って、何かを始めたら使用人さん達が大変そうだから、やんわりと話を逸らす。
ヨハンナさんが話していた様子を考えると、物を壊したり怪我をする可能性もあるみたいだしな……ゲルダさんのドジよりは、マシなのかもしれないが。
「トフーだけど、これ実はダイエットに最適……かどうかはわからないけど、すごくいい食材なんだよ。だから、今日の夕食はそんなにカロリーは高くないから、安心して」
「カロリー、というのはランジ村で聞いた体のエネルギーの事ですね。……その、トフーというのはそんなに、なのですか?」
「えぇと、ニャックよりはカロリーは高いけど、肉よりは確実に低いね。まぁ、本当ならトフーを作る過程で得られる物があれば、もっと良かったんだけど……」
トフーが俺の知っている豆腐と同じ作り方なら、豆乳を作っているはずだから、その過程でおからが出るはずだ。
ダイエットをしながらもハンバーグを食べるのなら、おからを使う方がトフーを使う事を考えるよりも手っ取り早い。
劇的に痩せるとかではなければ、おからを混ぜたハンバーグなら多く食べても問題はないしな……食べ過ぎは良くないが。
「得られる物というのは、そんなに凄い物なのですか?」
「凄いという程ではない気がするけど、ハンバーグに混ぜる事ができるんだ。しかも、味を損ねる事なくね。そうする事で、美味しいハンバーグを食べても太りにくいんだよ」
「っ! セバスチャン、今すぐトフーをラクトスで……!」
「クレアお嬢様、それはなりません……」
「どうして!?」
「作るための材料が足りません。ヘレーナは作り方がわからなかったのですが、タクミ様が知っておられました。トフーを作るには、海が必要なのです」
「海……。海ってあの海よね? 見渡す限り広く深くて青い……私は見た事がないけど、風景としては凄いのにすごくしょっぱい水が大量にあると聞いているわ。魔物が多く棲んでいて、人間を引きずり込むなんて話も聞いたわね。確か、しょっぱいのも魔物の仕業だとか?」
「はい、その海でございます」
なんだろう、海に対して偏見があるように思えてしまう……見た事なければそんな感じなのだろうか?
確かに広いだろうし沖に出れば深くなるのは当然で、青いのは太陽光だとか海底に反射して……っていうのはどうでもいいか。
魔物がいる世界なので、海に魔物が棲んでいてもおかしくないと思うけど、人間を引きずり込むって……いや、オークのように人間へと襲い掛かる魔物がいるんだから、それと同じなのか?
あと、しょっぱいのが魔物の仕業って……そういう認識になっているんだなぁ、ユートさんとか異世界から来た人達は、教えなかったんだろうか?
塩があるし、トフーが作られているという事はにがりもあるわけで、だったら海水から塩の精製もされているんだろうから、もしかしたら海なし地方独特の感性なのかもしれない。
実際に行った事がなく、話を聞く機会が少なければ偏ってしまうのかもなぁ。
まぁ、海に対する認識はともかく、公爵領ではにがりを作る事ができないために、トフーも作れないというのは間違いない。
「まぁ海がどういう場所かはともかく、海の水……塩を作る過程で出る物が必要だから、トフーはラクトスでは作れないと思う」
「そんな……」
トフーが作れないとわかって、残念そうなクレア……理由は違うが俺も残念だ。
味見した時に感じたけど、日本での豆腐とほとんど変わらなかったから、やっぱり醤油や薬味と合わせて食べたいからな。
とはいえ、少し勘違いしているようだから訂正しておかないといけない。
おからは必ずしも、トフーを作る時に出る物を使わなければいけないわけではなく、あくまでソーイから出る物だから。
「まぁ、残念に思う気持ちはわかるよ、俺もトフーが頻繁に食べられないのは残念だから。でも、ハンバーグに混ぜる物の方は、別にトフーを作らないと得られないわけじゃないんだ。あくまで、トフーを作る過程でも手に入る、という意味だから」
「え、そうなのですか……?」
「ほぉ。つまり、タクミ様が言う物は、トフーを作らなくても得られる物だという事ですかな?」
がっかりして目線を落としていたクレアが、一縷の希望を見出して俺を見る……そこまでダイエットに必死にならなくても……。
あと、セバスチャンさんが興味深そうにしているのは、新しい知識というか、知らない事を知れるからだろう。
おからの事で、ここまで二人から興味を持たれるとは思わなかったなぁ――。
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