リーザはお手伝いしたがりのようでした
「クレアお嬢様……」
「えぇ……成る程、わかったわ。――森からここまで、折角お越し頂いたので本日は美味しい物を用意させましょう。フェンやリルルも喜ぶでしょうから」
「グルゥ!」
「感謝します! だってー」
俺が関係ない事を考えている間に、クレアとフェンリルの会話も終わり、護衛さんから話を聞いたセバスチャンさんが事情を伝える。
それによると、どうやらこのフェンリル達は少し前にここに来たばかりのようだ。
俺達がランジ村に行っている間に、フェンとリルルだけが数回屋敷まで料理のおねだりにきていたらしく、今回もそうなのかなと思ったら別のフェンリルも一緒で、驚いていた……という事らしい。
屋敷には現在、フェンリル相手にちゃんと意思疎通ができる人間はいないが、森に入っての出会いをした人や前にも来ていた事もあって、慣れていたので慌てずに済んだらしい。
あと、フェンリルの方はこちらの言葉がわかるので、頷いたり首を振ったりするだけでも、なんとなくではあるけど意思の疎通ができるのが良かったとの事だ。
多少なりとも会話が成立させられて、全く敵意を持たないどころか懐いているとまで思える……なんというか、すっかり餌付けしてしまったなぁ……という感覚だな。
クレアさんが食べる物を用意すると言ったのに対し、フェンリルの方はリルル達から聞いていたのか、尻尾を振りながら頭を下げた。
レオへの挨拶という目的も本当なんだろうけど、むしろ美味しい物を食べるという方が主目的だったりは……しないよな?
フェンリル達を裏庭に連れて行くよう、クレアが使用人さん達に任せ、屋敷へ入りひとまず自分の部屋へ。
もちろん、屋敷に入った瞬間いつも通り残っていた使用人さん達による、一斉の迎えを受けた。
クレアやティルラちゃんも含めて、ランジ村へ行っていた人達は荷物を運んだり整理をしたりで、一旦部屋へと戻っている。
セバスチャンさんだけは、ヘレーナさんにフェンリル分の料理を作るよう指示をするため厨房へと、あまり休む時間がないようだったけど、大丈夫だろうか?
「はぁ~、やっと帰ってきたって感じがするな」
「ワフ~」
「パパー、これどうするの?」
「後で整理するから、とりあえず置いておくだけでいいよ」
「はーい」
部屋に持ち出していた荷物を置き、服を着替えながら自分の荷物を持ったままのリーザに、置いておくよう伝える。
リーザはまだそこまででもないようだが、俺やレオは屋敷での生活に慣れきっているのもあって、戻ってきたという感覚が強く、一緒に大きな息を漏らした。
自分の場所に帰ってきたって感覚が強いんだろうな。
ちょっとだらしない部分が出ている気もするが、一人暮らしが長かったし独身男性なんてこんなものだ……なんて、仕事から帰って疲れて何もする気が起きない昔の事を思い出してしまった。
一応、レオがいるからあまり散らかしておくのはいけないため、掃除はまめにするようにはしていたけどな。
「パパー、ママもだけど、一緒に色んな所に行って楽しかったね?」
「あぁ……そうだな。リーザはランジ村は初めてだし、今までラクトスから出た事がなかったからな。どれも新鮮だっただろう?」
「ワフワフ」
「うん! 馬車に乗るのも初めてだったー! ママに乗るより揺れてたよー」
「レオは、乗っている人を落とさないよう気を付けて走ってくれるからなぁ。偉いぞレオ、よしよし」
「ママよしよしー」
「ワウ~」
ベッドの隅に腰かける俺の横に座り、リーザが尻尾を揺らして見上げながら首を傾げる。
うーむ……この年齢で上目遣いを覚えるとは、侮れないな……って、狙ってやっているんじゃなくて、ただの身長差だな。
もしかしたらラクトスでレインドルフさんに拾われる前に、ラクトスの外から来た可能性もあるが、本当の両親がわからないためそれは不明だ。
ともかく、森にも行ったけど今のリーザは初めて見る物ばかりで、全てが新鮮に見えるんだろう。
あと、森と屋敷の往復はいつもレオに乗っていて、ランジ村から帰る途中に馬車に乗ってみたのが初めてだったか。
慣れないと酔ったりもしそうだが、リーザは馬車の揺れも楽しいと感じたようで嬉しそうだった。
揺れないよう気を遣ってくれているのを褒めるため、横で伏せをしているレオに手を伸ばし、優しく頭を撫でるのをリーザが真似をして、よしよしと呟きながら体を撫でているのが微笑ましい。
俺達から撫でられて、レオは気持ち良さそうでご満悦の声を漏らしていた。
「失礼します。タクミ様、レオ様、リーザ様、お帰りなさいませ。タクミ様、厨房でセバスチャンさんとヘレーナさんがお呼びです」
「ワウ」
「ただいまー、ゲルダお姉ちゃん!」
「ただいま帰りました。セバスチャンさんとヘレーナさんが? 厨房という事は、料理に関してかな……わかりました、ありがとうございます」
リーザと話しながら、レオを撫でて休んでいるとゲルダさんが部屋に来て、セバスチャンさん達が呼んでいると伝えられる。
戻ってきた挨拶をしながら、厨房に行く事にしてゲルダさんへのお礼。
「パパ、リーザも行くー。料理楽しい!」
「そうかぁ。んー、でも今日も手伝えるかはわからないぞ?」
「お手伝いしたい……」
「ははは、リーザは料理が好きなんだな。まぁ、見るだけでも参考になるかもしれないから、一緒に行こうか?」
「うん!」
「ワフ?」
「レオは……厨房に行ってもなぁ。手伝いは当然できないから、そうだな……。ゲルダさん、レオを連れて裏庭へ行って、フェンリル達の相手をしてもらえますか?」
「畏まりました」
「ワゥ……ワウ」
ハンバーグ作りを手伝ってくれた時から、リーザは楽しそうに料理をしていたから、向いているのかもしれない……薬の調合でも楽しそうだったからな、遊びの延長のような気がしなくもないが。
ともかく、リーザが楽しいと思った事を否定する事はしたくないので、いずれ美味しい手料理が出て来る事を期待しつつ、厨房に連れて行く事にした。
なんでも新鮮に感じて楽しい年頃なんだろうから、今のうちに興味がある事をさせるのもいいのかもしれないしなぁ……子供の可能性は無限大だから、できるだけ可能性の芽は摘みたくない――。
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