クレアがフェンリルと挨拶を交わしました
「あぁ、フェンやリルルを連れて、レオが叱っている最中です。突然の遠吠えでしたからね、皆を驚かせないように……と注意しているみたいです」
「成る程。――そういう事のようです、クレアお嬢様?」
「はい、ありがとうございますタクミさん。そうですか、フェンリルの群れのリーダーが……私も人間の代表というわけではありませんが、挨拶をしないといけませんね」
「まぁ、目的はレオへの挨拶ですけど、話しておいてもいいのかなと思います。森の魔物の数を減らすように頼んでいますからね」
護衛さん達を立ち上がらせていると、クレア達の乗った馬車を含めた集団が近くで停止。
すぐに御者台から降りたセバスチャンさんから、様子を聞かれたので答える。
クレアも気になったらしく、俺がセバスチャンさんと話しているうちに馬車から降りて来ていたようで、シェリーを抱いて何やら意気込んでいる様子。
フェンリル達のリーダーが相手なのだから、フェン達に頼んだ事も含めて話しておくのは悪くないだろう。
大丈夫だとは思うけど、群れのリーダーがお願いの承諾を渋っている可能性だってあるからな。
「パパー、ラーレ元気になったよー!」
「リーザちゃんと一緒に励ましました!」
「キィー!」
「リーザ、ティルラちゃん。お疲れ様」
ラーレを励ました後、馬車に載せてもらったのだろう、クレアに続いて、馬車からリーザが降りて成果を誇るようにしながら抱き着いて来る。
それを受け止めていると、ラーレが近くに降り立って背中に乗ったままのティルラちゃんからも、元気良く報告される。
レオが空に向かって遠吠えしたのが原因だが、気を取り直したようで何よりだ。
……ランジ村ではユートさんに怯え、屋敷の近くではレオの遠吠えが直撃して……ラーレにとっては災難と言えるのかもな。
本来、カッパーイーグルの強さは国一つ分と考えられているから、出会った人間の方が災難と言えるはずなのに、少し面白い。
「ワフ」
「お、レオ。どうだった?」
「ワウワウ」
「言い聞かせたから、もう遠吠えする事はないってー」
「そうか。それなら人を驚かせないですむな」
「「「クゥーン……」」」
レオの鳴き声がしたので振り向くと、門から注意をし終えたレオがフェンリル三体を連れて戻って来ていた。
後ろにいるフェンリルは、力なく項垂れている様子だから大丈夫なんだろうけど、一応レオに聞くと自信あり気に鳴いて頷いた。
リーザからの通訳を聞きつつ、抱き上げたままだったのを降ろして、頭を撫でておく……ついでに、褒めて欲しそうに頭を近付けていたレオも一緒にだ。
フェンリル達は反省している様子で、項垂れながらか細く声を上げているし、この様子なら大丈夫だろう……レオがきつく叱り過ぎたりしていないかの方がちょっと心配だけどな。
「キャゥー!」
「ガウ!」
「ガウゥ!」
フェンとリルルの姿を見たシェリーが、クレアの腕から飛び出す。
両親との再会を喜んでいるんだろうな……ランジ村に行く前に、料理を求めて屋敷に来ていたから、長い間離れているわけではないけど、まだ子供のシェリーにとって、親と会えるのは嬉しいに違いない。
「グルゥ」
「そちらが、フェンリルの群れのリーダーですか、レオ様?」
「ワフ」
リーダーのフェンリルは、シェリーが足下を駆け回って喜んでいる様子を見て小さく鳴いた。
クレアはフェンやリルルとは少し違う、風格や威厳を漂わせている……ような気がするフェンリルを見て、一歩前に出ながらレオに聞いた。
頷いたレオを見て、何度か見た事のあるあの綺麗な礼をするクレア。
「初めまして。私はクレア・リーベルトと申します。フェンとリルルの子供、シェリーを預からせて頂いております」
「グルゥ、グルル」
「これはこれはご丁寧に、私がフェンリルの群れを従えている者です。って言ってるよ」
「……意外と礼儀正しいというか、あっちも丁寧なんだな」
「ワフ」
クレアの名乗りに対し、フェンリルも軽く頭を下げて鳴いて挨拶。
リーザが通訳してくれたが……フェンやリルルとも違って、向こうのリーダーは丁寧な言葉遣いのようだ。
というか、フェンリルが礼儀正しくというのも、何かがおかしい気がしてならないが……隣でレオが満足そうに頷いていたので、何か言ったのかもしれない。
「グル、グルルゥ……グルグルゥ、グル、グルゥ。グルゥ?」
「えっと……この度? は、群れの者がお世話になりました……シルバーフェンリル様と一緒におられる人間の方なら、安心してその子を預けられます。かなぁ? あと、迷惑をかけてないかってー」
「リーザには少し難しそうな言葉遣いだけど、頑張ったな?」
「えへへー」
フェンやリルルとは違って、丁寧に喋っている様子のフェンリルは、リーザが通訳するには少し難しそうな言葉遣いのようだ。
それでも頑張って訳してくれたので、褒めるように頭を撫でておくのと、レオもまた撫でて欲しそうだったので、こっちも一緒にだな……ここぞとばかりに甘えられている気がするのは、気のせいか?
「ありがとう、リーザちゃん。――シェリーは迷惑……はかけていないですし、こちらが言う事もちゃんと聞いてくれるので、助かっています。もちろん、従魔になったからと言って、無理な事や無茶な事をお願いしないように注意していますし、嫌がる事をさせるつもりはありません」
「グルゥ、グルグル、グルルゥ」
「魔物なのに、そのように扱って頂き、感謝いた……いたます?」
「致します、かな?」
通訳してくれるリーザに、お礼を言ってフェンリルと話すクレア。
あっちはシェリーに訳してもらえばいいんだろうが、フェンやリルルの周りを駆け回るので忙しそうだし、嬉しそうなのを邪魔したら悪いから、あのままでいいか。
それはそうと、フェンリルがこんなに丁寧な受け答えをするのにちょっとだけ面白さを感じてしまっている。
群れのリーダーであって、権力者とかではないしそもそも魔物の中で権力があるかどうかとかいうのはともかく、俺の知っている権力者でここまで丁寧な人と会った事がないからな……使用人さんは権力者とは言わないし、唯一クレアくらいなものだな。
エッケンハルトさんやアンネさん、それにユートさん……それぞれ丁寧な話し方もできるし、アンネさんは口調そのものは丁寧なんだが、割と雑に物事を言い放つ癖みたいなのもあった。
他の二人はやろうと思えばできるし、ちゃんとした対応をするのも見た事はあるけど、どちらかというと尊大な風で民に対してという感じが強かったから、丁寧とはまた違う感じだな――。
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