料理は皆美味しそうに食べてくれました
リーザはアンネさん用のハンバーグを作りながら、「誰かにいじめられたのかなぁ?」なんて言って首を傾げていたから、スラムにいた自分と重ねてしまったのかもな……。
自分がそうだったように、美味しい物を食べたら元気が出るからと言って、張り切っていたリーザは、やっぱり優しい子だな、うんうん。
「リーザちゃんが、ですの? そう……ありがとうリーザちゃん、嬉しいわ。……ん、んぐ……美味しくて元気になれるわ」
「ほんと? やった、美味しいってパパ!」
「良かったな、リーザ」
「ワフワフ! ガフガフ!」
「……レオ、もう少し落ち着いて食べような?」
リーザが作ってくれたとわかって、気を取り直してお礼を言いながら食べるアンネさんは、優しく微笑んで元気になれるとアピール。
嬉しそうにするリーザの頭を撫で、褒めながらも内心驚いている……今までと違って、憑き物が落ちたような顔だったから。
もしかしたらこれまで、罪の意識みたいなのがあったのがユートさんから沙汰を受けた事で、はっきりと自分が目指す先が見えたのかもしれないな、大袈裟かもしれないけど。
「レオ様は、以前もそうでしたけどタクミさんが作って下さる物が、好きなんでしょうね」
「ワウワウ!」
「ふふふ……ソーセージが好物とタクミさんから聞いて、美味しそうに食べる姿を何度も見ていますけど、今はそれ以上に幸せそうです」
「ははは、そうだと嬉しいね」
「ワウ!」
微笑むクレアに、食べている最中のハンバーグから口を離して肯定するように吠えるレオ。
そういえば、前回作った時も美味しそうにがっついてたっけ……シェリーも最近はがっつく事が多くなったけど、それでもそこまでではないから、もう少し行儀良くして欲しいと思う半面、嬉しそうに食べてもらえると俺としても作って良かった。
こういうのが、ヘレーナさん達料理人さんの喜びでもあるんだろうなぁ、と思う。
クレアに言われて気付いたが、確かにソーセージを食べている時よりがっついている気がしなくもない。
積まれているハンバーグの減りが早いような? くらいの違いだけど……そうか、レオは前から俺が料理を作る時は嬉しそうだったからな。
ソーセージより好きかどうかは、聞いてみないとわからないし作った物次第ではあるだろうけど、尻尾をブンブン振りながら食べている姿を見ているのは嬉しいな……照れるけど。
「……とりあえず、屋敷に戻ったら風呂に入れよう」
「ワウ!?」
「タクミさん、口元が歪んでいますよ?」
照れ隠しに、口の周りを汚しながら食べているのを理由にして、風呂に入れると言うと、いきなりどうして!? と驚くレオ。
クレアさんには見抜かれているみたいだが、ともかくだ、これで尻尾の動きが落ち着いたから、埃や砂が舞ってしまうのも防げたな……というのはやっぱり、照れ隠しの理由付けだが。
「んぐんぐんぐ! ふぅ……やはり美味いな、タクミ殿の作った……ハンバーガー? とやらは。……しかし、屋敷で食べた物と味が違う気がするのだが?」
「あぁ、それは材料が違うからですよ」
「材料? しかし、屋敷の時と見た目は変わらんぞ?」
「ハンバーガーに入っているハンバーグは、肉を混ぜて作った物ですからね。その配分が違えば味も変わります。それに、チーズはほとんど同じでも、パンやソースが違いますから……見た目は同じでも別物に近いかもしれません」
「ほぉ、そういう物なのか」
ミンチ肉に関しては、屋敷よりもオーク肉の割合が少ないようだった。
それに加えて、パンの質も違う……やはり公爵家という貴族だけあって、上質なパンが使われていたからな。
あと、ソースに関しては作るために使った材料そのものが違う。
屋敷の方はデミグラスソースに近い物で、ランジ村で用意できたのはケチャップソースに近い物だ……それぞれ完全に同じ物ではないけど、似た味、というところだな。
プロの料理人が作っているソースなのもあって、屋敷の方が上品な味のハンバーガーになって、今回作ったのは自家製ハンバーガーとも言える味になった。
どちらも美味しいから、違いに首を傾げているエッケンハルトさんも含めて、皆満足そうだ。
「美味しい事に変わりはないから、僕はそれでいいんだけどね。はぁ~、久しぶりにハンバーガーを食べたよ……美味しいということ以外、ほとんど覚えていないけど」
「ははは、まあ、満足してくれたならそれで十分だ」
「うん、もちろん満足だよ。ありがとね、タクミ君」
こちらの世界に来て数百年以上経つユートさんは、さすがにもうハンバーグやハンバーガーの味がどうだったかというのまで覚えていないみたいだ。
思い出せれば……なんて微かに考えていたけど、気の遠くなる程の時間が経っているから完全に記憶から抜け落ちていても仕方ないだろう。
それでも、ハンバーガーやハンバーグが美味しい物だと覚えていただけ、記憶力が良いと言えるかもな。
とにかく、不味く作ったつもりはないが、美味しく食べてくれたようで良かった……聞かなくても、表情を見ればわかっていた事だけど。
「でも、僕やタクミ君、ハルトはともかく……女性は大丈夫かな? 確か……ハンバーガーってカロリー高いでしょ? 野菜も入っていたけど、チーズもあるわけだし」
「あー、まぁそこは味を追求という事で……」
「タクミさん、ユート様、カロリーとはなんですか? 女性と言っていましたが、タクミさんの作った料理に何か入っているのですか?」
ユートさんがクレアやアンネさん、他にも別の場所で食べているライラさん達や村の女性達を見ながら、ハンバーガーのカロリーを気にする。
それは、ダイエットだとかを考えていたにもかかわらず、カロリー爆弾とも言える料理を作ってしまい、考えないようにしていた事……俺が料理できてお手軽、アレンジも幅広くて美味しいのが約束されている料理として、すぐに思いついたのがハンバーグだったからなぁ。
クレアさんがカロリーという言葉を知らず、首を傾げて聞いて来るのに対し、タラリとこめかみから冷たい汗が流れるのを感じた……さて、どうやってこの場を乗り切ろうか――。
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