お料理タイムになりました
「うどんはあったんだけど……」
「うどんかぁ……あれは微妙なんだよね。パスタの麺はあるけど、それを太くしたからって同じになるわけじゃないし……味も違ったでしょ?」
「うーん……うどん通というわけじゃないから、何とも言えないけど、確かに違う物だったかな? でも、近い味ではあったと思う」
「ふーん、それじゃあ偶然近い味になるように作れたのかな?」
首を傾げるユートさんに、同意して頷きながら俺も考える。
見た目はうどんで透き通ったスープだったんだけど、食べてみると同じ味とは言えなかったのは確かだ。
とはいえ、近い味ではあったからうどんもどきと内心呼んでいるけど……それはともかく、パスタの麺とうどんの麺は同じ小麦粉を練った物ではあるけど別物だ。
確か……パスタは強力粉で、うどんは中力粉とか薄力粉だったかな……? 自分で麺を作った事がないからはっきりとした事は言えないけど、製法はともかく材料の違いだったと思う。
小麦はあるんだし、うどんに使える材料もあるだろうと思うけど……作られていないのか、それともその材料を使ってうどんを作るに至っていないのか、と言ったところかな。
スープについては、大豆……ソーイはあるから醤油があってもおかしくはないけど、かつお出汁を使っていないからかもしれない。
この国、というより公爵領は海に面していないようだし、街でも魚はほとんど売られていないみたいだから、魚を使ってと考えられないもの仕方ないか。
とりあえず、屋敷に戻ったらヘレーナさんと話してみよう。
「まぁ、料理は必ずしもあちらの方がいい、というわけじゃないからね」
「それは確かに。食材があるかというのもあるし、この世界の料理も十分美味しい」
「そうそう。美味しいものが作れても、それが必ず広まるわけでもないしなぁ……売り方が下手で、美味しいのに誰も見向きもしなかったり、見た目が受け入れられなかったり……それなりに料理を頑張る人もいたんだけど、だからってどこでも食べられるようになるわけじゃないからね」
まぁ、この世界だと保存は魔法である程度なんとかなるにしても、やっぱり移動に時間がかかる以上、どこでも同じような物を、というのは難しいのかもしれない。
ある地域で美味しい物でも、別の地域にはいかなかったりと、理由は様々だろう……それこそ、味だけでなく見た目だとか作りやすさ、食材が入手できるかとか、条件は様々だからな。
日本食が美味しいというのは間違いないけど、この世界にはこの世界ならではの、美味しい物を作って食べる文化がある以上広く知られて作られるとは限らないか。
「パパー、持って来たよー!」
「お待たせしました、タクミ様」
「お、ありがとなリーザ。――ありがとうございます、ライラさん」
ハンネスさん達ランジ村の人に頼んでいた、食材……主にミンチ肉を持って来る、リーザとライラさん。
ハンバーグを作るために一番必要な物だけど、さすがに持って来ているわけではないので、村にある食料を使うようにお願いした。
リーザは、また以前と同じようにハンバーグが作れるとあって、楽しそうだ。
「おっと、話し込んでちゃ夕食が遅れてしまうね。僕はラーレでもからかってこようかな?」
「ははは、あまりやりすぎないように。ルグレッタさんに怒られるかもしれないから」
「あー、ちゃんとした振る舞いをとか、よく言われるね。でも、それもまたいいんだよねぇ~」
ユートさんの特殊な趣味は置いておいて、リーザとライラさんにお礼を言って、一緒に来てくれた村の人達と一緒にハンバーグ作りを始める。
もちろん、つなぎは玉ねぎではなく卵を使う、屋敷で作ったのと同じレオでも食べられる物だ。
玉ねぎの旨みはなくなってしまうけど、卵のおかげか食感が柔らかくなるからこれはこれで村の人にも受け入れられやすいと思う。
……そう言えば、レオって以前と同じ物が食べられないという事でいいのかな? んー、今度聞いておかないとな。
「こねこねー……こんな感じ、パパ?」
「おー、前の時よりうまくなっているな。いい感じだぞー? ただ、ここにこうして……少しだけへこませると美味しく焼けるんだぞー?」
「あ、前もそうやってた! えっと、こうして……パパ、穴があいちゃった……」
「ははは、力を入れ過ぎたんだな。その場合はもう一度形を作り直せば大丈夫だ」
「うん、頑張る!」
リーザが以前よりうまくなっているかどうか……というのは料理人ですらない俺にははっきりとわからないんだが、それでも前より手際が良くなっているように思うから、ちゃんと褒めておくのを忘れない。
捏ねたタネの中央に、へこみを入れるのよう見本を見せながら注意すると、親指に力が入り過ぎたのか貫通して穴が空いてしまったようだ。
こういった失敗も、見ていて面白い。
「タクミ様、こうでしょうか?」
「さすがにライラさんは上手いですね。料理に慣れているのもあるんでしょうけど」
「いえ、私などはそのような……」
「タクミ様、私は……!」
「こちらも見て下さい、タクミ様!」
リーザを見ていたら、ライラさんからも形が大丈夫かと見せられる。
料理人ではなくとも、慣れているだけあって初めてでもちゃんとした形になっていた……多分、あと何個か作ったら俺が確認しなくても良くなるだろうな。
謙遜するライラさんに、何か言葉をかけようかな? と思っていたら、手伝いをしてくれている村の奥様方からも見てくれとの要望が来た。
皆料理をするのに慣れているから、ライラさんと同じく初めてとは思えない程、ちゃんとできているんだけど……これだと確認するだけで俺が作れないなぁ。
「タクミ様、こちらも見て下さい!」
「こっちもです! あ、貴女、割り込まないで!」
「ちょ、ちょっと皆さん落ち着いて! ちゃんと確認しますから!」
なぜか、集まってくれたお手伝いの人達、村の若い女性から奥様方までが俺に群がるようにして、手で形作ったハンバーグを見せて来るようになってしまった。
どうしてこうなったんだろう……? なんて考える暇もなく、とりあえず声をかけて落ち付かせ、順番に確認する事になった。
ほとんど注意するような人はいなかったんだけど、中には形が崩れていたり、力が入り過ぎている人もいたので、空気を含ませないようになんて、わかったような助言をしていく。
……やっぱり、俺が自分で作る暇はなさそうだなぁ……なんでなのか、確認が終わった人も、また新しく作った物を持ってまた確認の順番に並んでいるから――。
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